15
「お姉様、学園では暴れ回ったりしていませんのよね?」
「……いくらなんでも、私への評価が低くないかしら?ローラ。」
妹のローラはお茶を飲みながら本を読む。
夏季休暇に入り、実家へ戻ってきていた私は、のんびりと朝から庭園を散歩していた。
天気がいいからと庭でお茶をしていると、私もとやってきたローラが向かいに座った。私と違って、昔から本を読むことが好きだったローラは、度々日向ぼっこをしながら本を読む。人を観察することが好きなようで、私の剣術を観察しながら、アドバイスをくれた事が懐かしい。
ローラは苦笑した私を見て、ハンナとリリーに問いかける。
「お姉様の無茶は聞かなくてもいいからね。」
「ええ。できる限りでお止め致しますわ。」
頷いたリリーとハンナを見て、ローラは満足そうに笑う。
「……無茶なんて言ってないじゃない。」
少しむくれてそう言うと、ローラはため息をついた。
「やっと、シリウス様と婚約すると聞いたから、浮かれているんじゃないかと思ったわ。お姉様は張り切ったら、ろくな事がないんだもの。」
「うぅ……。」
ローラの言葉に心当たりのある私は何も言えない。
「……ほんと、やっとよ?明らかに想いあってるのに、いつまでも話が進まないんだもの。お父様がお姉様を思って、どれだけ縁談を潰していたか。」
「……そうなのね。」
初めて知った出来事に申し訳なくなり、カップを摘んで俯いてしまう。
「はぁ……。お姉様!いいですの!?シリウス様は王太子様の次に人気ですのよ!」
「……それは、知っているわよ……。だから、釣り合うようにとーー」
「違いますわよ!そんなシリウス様に選ばれたのですから、きちんと胸を張ってくださいませ!……お姉様はいつも自分を過小評価するんですから!」
本を置き身を乗り出すローラに驚く。怒っている口調だが、言っていることはどう考えても私への褒め言葉だ。そんなローラに少しおかしくなった。
「ふふっ。ありがとう、ローラ。」
「……分かればいいのですわ。」
そう言ってローラは、ふいっと顔を背け本を手に取った。思っていたよりも、私は家族に愛されていたことを実感した。ゆらゆらと揺れる花たちを眺めながら、冷たい紅茶を口に含み、心地よい風に吹かれていた。
昼食後、シリウスが訪れたと連絡を聞き、ドレスを着替えて応接室へ向かった。
「リア。いきなりごめんね。」
「大丈夫よ。何かあったの?」
シリウスは立ち上がり、サッとエスコートをしてくれる。ソファに座ると、シリウスも隣に座る。
「特に何かあった訳じゃないんだけど。良かったら、今度一緒にヴェルディア領に行かない?夏季休暇の間に領地に行って、父上の代わりに視察をするんだけど、リアもどうかなって。」
シリウスの言葉に、私は顔に手を当てて考える。
(確かにいずれ嫁入りするのであれば、領地を見に行くべきなのかもしれないわね。)
魔法学士を目指すことは変わらない。けれども、領地のことを何一つ知らないのは、夫人としても貴族としてもよろしくない。少し間を開けて、シリウスに笑いかけた。
「……そうね。私が行ってもいいのなら。」
「大丈夫だよ。みんな、僕がリアのことを好きだって知っているからね。」
「えっ?」
ニコニコと笑うシリウスに驚き、固まってしまう。
「リアと結婚しなければ、僕は姉上に爵位を譲るって言っていたからね。」
「えっ?どうしてそんな……?」
私の疑問にシリウスは不思議そうな顔をする。
「当たり前でしょ?跡継ぎが居なくなるんだから。姉上は嫌がっていたけどね。」
「……そう、でしょうね。レイラ様は騎士でしょう?」
昔から騎士になると張り切り赤毛を揺らしていた、彼の姉は今女性騎士として働いていたはずだ。その事を思い出しながら呟くと、シリウスは苦笑している。
「リアと婚約するって報告したら、物凄く喜ばれたよ。今度また遊びに来て欲しいって。」
「……そうね。またレイラ様の好きなケーキでも持っていくわ。」
私はそう言いながら平然を装って、シリウスから顔を逸らす。シリウスの私への気持ちが少し見えた気がして、熱くなった顔を隠すように俯いた。
「リア?」
シリウスに顔を覗き込まれ、ピクリと肩が揺れる。楽しそうに私を見るシリウスを睨むと、シリウスの笑みは深くなる。
「そんな顔しても可愛いだけだよ?……ほら、耳が赤いよ?」
そう言いながら私の髪を耳にかける。撫でるように触れられ、こそばゆい。
「リア、好きだよ。」
私を見る紫の瞳を見つめ返し、赤くなったであろう顔を押さえた。
「……私の方が好きだわ。」
恥ずかしくなって、目を逸らしながら拗ねたように答える私を、シリウスはクスクスと笑う。
「ふふ、それはどうかな?」
顔を押えた手をシリウスの温かい手で握られ、顔を隠せなくなった私はそっぽを向く。その様子をシリウスは楽しげに眺めていた。




