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幻想のグリモアール  作者: ふたばみつき
第7話 一角獣~unicorn~
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第七十六頁 神秘の獣

 とっても立派な大木が乱立し、その大木からは木漏れ日が射し込んでいる。まるで絵に描いた様な清浄とした雰囲気を醸し出している。

 アイゼンさんと出会った森と感じは似ているけれど、何処と無く神秘的な雰囲気が加算されている様な感じだ……


 確かにここなら一角獣。ユニコーンなる者が出現すると言われても納得出来る様な気がする。


「驚いたな、俺達も王都に来る時に、この森は通ったはずなのに。ここは、まるで別世界だな……」


 ザックさんがそんなことを呟きなが、目を輝かせ巨大な木々達を見上げている。


 そう、ここは王都に来る時に通った森の中なのだ。

 俺達が通った時は鬱蒼とした暗い雰囲気の森だったが、今、目の前に広がっているのは見るも美しい神秘の森だ。


 まるで、この一画だけ聖域となっているかの様だ……


「さあ、皆さんこちらです。もう少しで彼等の群れが見えて来るはずです」


 そう言うとラッセルさんは地面から飛び出した大木の根を飛び越えて見せた。


 彼は先程から木の根を踏まないようにして森を進んでいる。


 確か、木の根を踏んだりするのは余り良くないらしいからな。特に桜の木なんかはそれで駄目になってしまうこともあるらしいし。

 それに、今、俺達が歩いている地面も幾人に何度も何度も踏み締められることで水捌けが悪くなったりして、木々の生育に悪い影響が出るとも言われてるからな……


 たしか、そう言う時の対策は……


「あれは……」


 俺はそんな事を思って周りを見渡していると、ある場所が目に入った。

 その一画だけ、地面が掘り返されており土の山が築かれているのだ。

 そうだ、あれだ……


「あれは踏圧対策ですか?」

「ええ、よくご存じで。ああやって、毎年ある一定の区画だけ耕して土壌に空気を入れているんです」


 俺の問い掛けにラッセルさんが朗らかに笑いながら答えてくれた。


 やっぱりそうか。


 見るとあちらこちらに土の山や、耕し終わった後の柔らかいなくなった土壌が目に入る。どうや、かなり丁寧に手入れされているみたいだ。


 成る程、だからこの一画だけ木々が立派に育っているんだ。


 思わず感心してしまう。恐らく、ラッセルさん一人ではない。先祖代々脈々とその知識と土地を受け継ぎ守って来たのだろう。


 ラッセルさんを見ると、不意に目があった。そして、それを合図にするかのように彼が口を開いた。


「失礼ですが。お嬢さんは先程の品種改良と言い、踏圧対策と言い何処でその知識を学んだのですか?」

「え?」


 そう言えば、何処で学んだんですかね?

 学校では習わなかったしな……


 ちょくちょく、知りもしない知識が流れん込んできたりするんだよな。うーん、なんだろうこれ?


「どこで学んだのですかね。私にもわからないんですよ?」

「は、はあ……」


 俺がそう言うとラッセルさんは眉を潜めてしまった。俺はその表情に満点の苦笑いで答えて見せる。


 いや、仕方ないじゃん。

 本当にわかんないんだもん。


 ラッセルさんは暫くの間は怪訝そうな表情をしていたが、暫くすると元の表情に戻り、道案内を再開してくれた。


 暫く俺達は、ラッセルさんに従って森の中を歩いた。そして、数分の時が経った後。件の群れに俺達は出会った。


「あれですね、見てください。私も直に見るのは初めてですが、本当に美しい……」


 ラッセルさんがうっとりとした表情を浮かべ彼等を見つめている。俺達もその視線に誘われ、彼等へと視線を向ける。


「……すごい、綺麗」


 俺は気づいた時に、そう口に漏らしていた。

 

 我をも忘れる美しさ。それには何処か既視感を覚える。どこかつい最近、これと似た感覚を味わった覚えがある。


 そうだ思い出した、学園だ。学園の学長を見た時の感覚に似てるんだ。あの時は彼女の神秘的な雰囲気に思わず行き飲むのも忘れた。その感覚に似てるんだ……


 見ると、俺以外の全員もその姿に目を奪われ唖然としている。

 やはり、その神秘性に皆、目を奪われている。


 純白を地で行くかのような白毛の体に、すらりと長く筋肉質な四肢。白金を思わせる輝く鬣はまるで輝いているかのように見える。

 そして、一角獣の代名詞である額から伸びる一本の角。それをかくも美しくまるで輝いているかの様に見えた……


 紛れもなく、幻想の世界の住人。ユニコーンだ。


 すごい、すごいすごいすごい!!

 大きくてカッコいい、おめめも黒くてクリクリで可愛い!!


「皆さん、本当にすごいですね。ユニコーンですよ!」


 その言葉と共に俺は視線を皆に向けた。

 それと同時に俺は戦慄した。


「え? 皆、どうしたんですか?」


 その問い掛けに答える物は誰一人として居なかった。

 何故か皆、我を忘れたかの様に一点を見つめている。


 それに眺める事に没頭してしまっているからか、誰も俺の言葉に答えようとしていない。それに、なんだか目の焦点も合っていない。


 まるで正体を失っている様だ……


「み、みんな。どうしたの?」


 俺がそんな言葉を吐くと同時に、背後から何かが忍び寄って来る気配がした……

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