第七十五頁 王都の冒険
「私は乗用馬の育成、飼育、調教をしております。ラッセルと申します」
だそうです。
俺を含め、ザックさんにロランさん、そして、アリッサちゃんが一堂に会しラッセルさんを囲うようにして彼の話を聞いていた。
もちろん、その光景を見たラッセルさんは「なんだコイツらは?」と言った感じの表情を浮かべているが、取り敢えずは大人しく話をしてくれている。
「最近、馬の仕入れが滞っておりまして。業者から話を聞くと、どうも最近になって馬の群れを率いるリーダーが変わったらしく。かなり手を焼いているらしいんです」
「なるほど。んじゃあ、その馬を殺っちまってくれって話か?」
ラッセルさんの話を聞いていたザックさんが、事も無げにそう口にした。
正直、話こ半分を聞いた感じ、そんな話なんじゃないかとは思ったりはしていた。
ぶっちゃけてしまうと俺はあんまり乗り気になれない。人間の勝手な都合で馬をどうこうしようってのはあんまり気に入らない。
そう言うの俺もあんまり好きじゃない。
人に危害を加える魔獣とかならいざ知らず、仕事の邪魔だから馬を始末したいってのは正直嫌いだ。
それに馬って可愛いし……
「いえ、違います。もう少し、話を聞いて下さい」
どうやら、俺の様子を察したのかラッセルさんはなだめる様に手で俺を制止してみせた。
毎度、思うけど。俺ってそんなに顔に出てるのかな?
「いやはや、確かに今の話し方だとそう思われても仕方ないですね」
そう言うとラッセルさんは後頭部を押さえると、申し訳なさそうな表情を作った。その表情は朗らかで暖かい優しさを感じさせる。
その表情に俺はほんの少しだけ安心した。
たぶん、この人なら馬を悪いようにはしないだろうと、なんとなくだが思わせられる。どことなく、スミスさんやシーナさんの様な雰囲気を感じさせられる。
ラッセルさんは申し訳なさそうに頭を何度か下げると、俺達一同を眺めた。そして、真剣な表情を見せるとおもむろに口を開いた。
「私は馬に生活を支えられて来た者です。むやみに危害は加えることは避けたいんです」
「ほう……」
ザックさんが感心したように声を漏らした。
俺も同様に感心する。今までのラッセルさんからは何処かうだつの上がらない雰囲気を感じられたが、今の彼からは間違いなく一人の職人の様な雰囲気が感じられる。
「実は現在、群れの長となっているのは一角獣ユニコーンなんです。ユニコーンは非常に環境の整った場所にしか居着きません……」
ユニコーンと聞いては一同の目の色が変わる。
明らかに依頼の難度が上がったからだろうか。
正直、この世界の常識に無知な俺からするとユニコーンがいかなる存在かまったくわからい。
そんな俺を他所にラッセルさんは話を続けている。
「……ですから、私が管理していた場所からユニコーンが現れたのは誇らしいことです。なので、その環境自体にも余り手は加えたくないんです」
「んじゃ、どうすればいいんだよ?」
ザックさんが眉を吊り上げながら口を開いた。
確かに、彼の疑問はもっともだ。今の話しぶりからして、俺達に何をして貰いたいのかがわからない。ユニコーンをぶっ殺して貰いたいのか、それとも他に何かして欲しいことがあるのだろうか?
「ええ、今回皆様には少しの間でいいのでユニコーンの気を逸らして欲しいんです。その隙に私達が数匹の馬を捕まえようと思っています。今の群れにいる数匹はユニコーンが種牡馬となっており、非常に優秀な個体なんです。ですから、この中から、どうしても数匹捕らえたいのです」
ううむ、成る程……
やっぱり、あんまり気乗りしないな……
つまり、ユニコーンの子供を拐う手伝いをしてくれって事でしょう。やっぱり、可愛そうだよ……
思わず苦い顔を浮かべてしまう。
「アイラはあんまり、乗り気じゃないみたいだな」
「え?」
俺の様子を察したのかザックさんが声を掛けてきてくれた。どうやら、気を使わせてしまったらしい。
どうにも俺は顔に出てしまうらしい。
いかんいかん。私情を挟むのは控えなければ。依頼主がやってくれって言ってるなら、俺達はそれに従うだけだ。
そんな時、ラッセルさんが俺に語りかけてきた。
「あまり、良い印象を受けないとは思いますが。今回の依頼を期に群れから馬を捕らえるのは辞めようと思っています」
「え? どうして、ですか?」
そう問い掛けると、ラッセルさんは大きく頷くと語り始めた。
「今回の件で、私の管理方法に間違いが無かったのはわかりました。ですので、今後はその環境を保護する方向に進んで行こうと思っているんです。馬の商売の方は最初の種牡馬さえ確保すれば、無闇に群れの馬を確保しないで済みますからね」
「つまり、馬の捕獲は止めて。品種改良に尽力すると言うことですか?」
そう言うとラッセルさんが「ええ、よくご存じで!」と力強く笑ってみせた。
なるほど、確かに種牡馬さえ用意できれば品種改良は可能だ。
ただ、系統の維持だとかは至難の業だろう。
でも、恐らく彼はそれを承知の上で力強く笑って見せたのだろう。必ず、やってみせますよと……
そう言う意思を俺に見せたかったのだろう。その思いは間違いなく俺には伝わった。
あんまり、乗り気にはなれないけれど。彼がそう言うのなら信じてみよう。それに、依頼に対して私情を挟むのはやっぱりよろしくないしな。
「わかりました。私は納得しました。依頼を受けるか受けないかはザックさんに委ねます」
俺はそう言うとザックさんに視線を向けた。
彼はその視線に答えるように不敵な笑みを浮かべてみせた。そして、握り拳を作ると勢い良くその口を開いた。
「なら、決まりだ。俺達はアンタの依頼、受けるぜ!!」
そう声を挙げるとザックさんは拳をラッセルさんの目の前に突き出してみせた。そして、ラッセルさんはその拳に答えるように握り拳を作ると、ザックさんの拳に向かって自らの拳を突きだしてみせた。
どうやら、契約成立のようだ。




