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いつかの日のアングウィス  作者: シユロさん
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①

 01話  『No rain. No rainbow』


  一人の少年――いや、少女だろうか。が、無表情に焼け朽ちていく村落を前に無表情に立っている。

「おいおい、まさかまだ、動いている人間がいるなんてな。お前さん生き残りか?」

 ――――この邪龍の暴れまわった地に?

 白銀の全身鎧(フルプレートメイル)に身を包んだ竜騎士は兜越しにその子供を不思議なものを見る目で見つめる。

 中性的な顔をしたその子供は、生き残りなどゼロと思われる被害を受けた村から逃げたとは思えないほど綺麗で煤一つのついていない姿だった。

 ここは人類の生存圏としては最果ての村。

 もっとも近い村であろうとも馬を走らせて五日はかかるのだ。他の村の者であろう可能性は低いだろう。

 一体何者だ――……。

 そんな男の内心の疑問が聞こえたわけではないのだろうが、ふ、と件の人物が動いた。

「……お前は? こんなところで何をしてる? 馬鹿か、死にたがりか?」

 美しい――……可憐と言ったほうが相応しいだろうか。しかし、そんな少女の口から飛び出してきたのは少しばかり乱暴な言葉だった。

「あー、それはこっちのセリフなんだが。まあ、これだけの被害だ気が動転していても仕方ねえか」

 言いながら、懐から一つの徽章を取り出す。

「見ての通り、俺は王国竜騎士団所属のレン・バハムト・ライドさ。と、言っても今日は非番で旅してただけなんだけどな。まさか邪龍と出くわすとは思わなかったぜ」

 男が掲げたのは大陸に住むものの誰もが知る、大陸中央に位置する王国の紋章が彫られた徽章だった。

「なに、それ? 食べられるもの?」

「っいや、食べられねえよ!?」

 流石に誉れある竜騎士徽章を、食べ物と間違えられるとは思っていなかったライドは声を上げてしまう。

「お前が、あいつを追っ払った所為で、腹ペコ……」

 ぐるる~。と小さく鳴る腹の虫。

「いやいや邪龍(あいつ)食うつもりだったの? どんだけ逞しいんだ……」

 呆れつつ、溜息一つ。

「さてと、しっかしこの現状……いくら最果ての村とはいえ報告せんわけにはいかんよな……」

 ――村は壊滅。生き残りはゼロ……ゼロ?

 ライドは近くに立つ、子供を見、目が合った。

「なに?」

「えっと、……お前さんはどこに住んでるんだ? この村の人間なんだよな?」

「あれ。あそこにいた」

「え?」

 指の示す先にあったのは平凡な村の景観においては極めて目立っていたであろう、極めて頑丈そうな石造りの建物だ。

 元は塔だったのだろうか。僅かに形を残した残骸が地に転がっている。

「そうか、残念だったな。ところでお前さんの名前は? まさか名無しなんて慣習のある村じゃないんだろ?」

「名前………、名前……ある。エキドナ・テュポン・マナフ」

「へぇ……家名持ちとは……もしかして好いところのお嬢さんだったりする?」

「知らん。それとお嬢さんではない、勘違いするな」

「おっと、それは失礼」

 しかしそうか……村は焼け落ち、この分では恐らく家族も――。

 平和な生活から一気にこれだ、精神に異常をきたし、このように粗暴になるのも仕方のないことだろう。

 そんな子をこんなところに置き去るわけにはいかないか。

「お前さん――――マナフ。王都に来ないか? こんなところで燻れてたって仕方ないしな。それに被災児の保護っていう名目もある」

「…………面白そうだ。それもまた一興……それと我は被災児ではない。この村の惨状は我があの塔から出てしまったが故に起こった、云わば我がこの事態を起こした罪人だ」

「……ああ、お前は混乱しているんだ。落ち着いたところに行けばそれも回復するだろう」

 さてと……

「なにか、大事なものがあるなら、軽いものなら持っていけるが」

「いい。そんなものはない」

「そうかい、それじゃ――……」

 ライドは今一度生き残りのいないことを確認すると、胸に手を当て、語詞を紡いでいく。

「深淵へと呼びかけるは我、バハムト也。金炎を司りし眷属よ、盟約に従い我が前に姿を現せ」

 細くなった瞳孔が金色に輝く。

 かくて――虚空より出でいずるは黄金の龍鱗を煌めかせる巨大な四肢を持つ体躯。

 頭長から伸びる二本の角、獅子の面、体は爬虫類の如く。


「――――龍――……」

 マナフの呟きに応えるように轟くような咆哮が大気を震わせた。

「そーぅだ。こいつが俺の相棒さ。ほら行くぞ乗れ」

 

 背中へと二人を乗せた龍は再度声を上げ黒煙の立つ大空へと舞い上がった。

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