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第37話 運命の道

言うのが遅れてしまいましたが、レビューを書いて頂きありがとうございます。

 魔法技術がふんだんに使われた第4の街【クアルト】の外は、かなり荒れ果てた様子が見て取れる。

 街の外と言っても、第3の街である【ドリット】側は地面に緑が多く生えている。


 しかしその反対側、鎖に繋がれている刺々しい大岩がある方は草木どころか、枯れ木すらも存在していない。

 枯れ木に擬態している"枯れント"というモンスターが存在するが、本物の木ではない。


 その光景は街の中からでも確認できるので、コーディーは荒れ地側の門扉もんぴから見ている。

 街で生活しているNPCから情報提供をしてもらい知ることが出来た情報を反芻した。


(一度街が滅ぼされていたなんて、驚きですね。おそらく何かに繋がる情報でしょうから、忘れないようにしなければ)


 視線の先には鎖に繋がれている大岩。

 それは、どこか生きているような生命力を感じさせる。


 ――この光景が街が滅ぼされた事に関係しているのかもしれない。


 根拠も何も無いのだが、案外こういう突拍子もない考えが正解に近いこともある。

 どのように街が滅んだのかは聞くことはできなかった事もあり、情報収集をこれで終える気にはならなかった。

 NPCから手にできる情報というのは馬鹿にできない。


 中には普通の世間話があったりするのだが、実はそれが隠し要素やストーリー、イベントなどの伏線であったりする。

 言葉以外に隠されている可能性も否定出来ないので、今度はもう少し気を配ってみようとコーディーは内心で呟く。


 今のところ、ストーリー関連の話を聞いていないので少々不安を覚えているのだ。

 特に第3の街【ドリット】もだが、他の街に関しても探索が疎かになっている。

 街全体をしっかり見て回れていないし、街の外にあるフィールドもそうだ。


 ソロで活動している弊害が情報の少なさと、そのことによる不安感。

 だからと言って安易にクランに加入したり、パーティーを組むということはしない。

 知って入る人がいればまだ一考の余地はあるが、赤の他人と組むのは少々はばかられる。


 情報は力にも金にもなるのだから、《調合》や《錬金術》のレシピが漏洩する危険などもってのほかだ。

 特に所持アイテムの中でも数が少ない"チェンジマテリア"や"テレポートマテリア"に関しては、公開するなど馬鹿の所業。

 ゴーレムの作成方法もそれなりに重要度が高いだろう。


 プレイヤーの目の前で貴重なアイテムを使えば、譲って欲しいという者や売って欲しいという者は当然現れ、場合によっては粘着される事だってありえる。

 こういった系統の面倒事は避ける事が可能なら、それに越したことはない。


 他者と共に居るというのはメリットもデメリットもあり、コーディーの場合はロールプレイにも支障が出そうな為、避けたい事柄だ。

 打算的な考えの元、偶然を装ってパーティーを組むのであれば自身の思い描くイメージに合うのだが、ただの善意や馴れ合いの場合はコーディーというキャラクターに合わない。


 それなら、情報の少ない現状でもソロで活動していた方が良いだろう。

 何よりも優先されるのがキャラクターなのだ。


(取り敢えず、今日の所は情報収集に徹しましょうか)


 門扉もんぴから離れたコーディーは街を歩く人混みへと消えていった。




 まだログアウトするには早く、だからと言って街に来たばかりにも関わらず早速モンスターの溢れるフィールドに出るのは躊躇われる。

 特に【クアルト】の街はあからさまに他の街と違いが出ているのだ。

 この違和感がコーディーには引っかかった。


 生物型のモンスターであれば状態異常を駆使して削ることが用意だが、無機物のゴーレムなどのモンスターの場合、コーディーは苦戦を強いられる。

 一応爆弾は普段より多く所持しているが、それだって第4の街のモンスターにどれほど通用するか。

 作成したのは第2の街だったので、2つ先の街では最早頼りない。


 故に、現状で必要とするのはどれほど小さな情報でもかまわないので、それを足がかりにしてイベントを発生させることだと彼は考えた。

 第3の街で行われた運営主催の初イベントにてコーディーは《運命の道》というイベント発生率を上昇させるスキルを取得している。


 おそらく、トップ3に選ばれた者だけが取得できるスキルだろう。

 イベント発生率上昇がどれほどか分からないが、イベントと言うのはプレイヤーが強くなる為の、謂わば救済措置の面もある。

 イベントが発生し、それを達成すれば達成した分だけ特殊なスキルや道具が手に入る。


 最近で言うと《採掘》スキル取得のために受けた依頼で、謎を解いた事で手に入った"高性能つるはし"が良い例だ。

 あれも一種のイベントであり、高性能と付くだけあって耐久度が全く減る様子見せない。

 使用する際に耐久ゲージが見えるようになるのだが、現在そのゲージは90%も切っておらず更には通常のつるはしより断然掘りやすい。


 【ツヴァイト】の洞窟に行けば1日1本無料で貰えるのだが、それ以上つるはしが欲しければ課金をして購入するしか無い。

 それはリアルで金銭的余裕がなければ無理だが、高性能つるはしを手に出来れば課金をして大量につるはしを買う必要がない。

 だが、課金つるはしにも何らかの恩恵があると言われているので、もしかすると高性能つるはしよりも優れている可能性が否めない。


 とまあ、イベントという物は課金の必要がなくなる可能性だって存在するのだから、金がなければ運営ができないゲーム会社からすれば課金の必要性が薄れるイベントが発生する確率はできるだけ下げたいだろう。

 ここまでの観点からしてイベント発生率を高める《運命の道》のスキルは、所持者が少ないはずだ。

 トップ3であればイベントで堂々の1位を獲得したコーディー以外に、プレイヤー内で一番強いとも噂されているフレア。

 そして彼女と対を成す、クラン『流星』のリーダーであるヤクモが上位3名に入っている。


 その2人に話を聞く事ができれば《運命の道》について知ることができるだろう。

 しかし、話を聞いた所で課金について疑問が解決されるだけ。

 特に必要性が感じられない。


 話が逸れてしまったが、イベント発生率を上昇させるスキルを持っているのだからとコーディーは次々にNPCへ話を掛ける。

 これがイベント発生に繋がるかもしれないからだ。


「すみません、お話をお伺いしたいのですが、今お時間大丈夫ですか?」


 うら若い20代くらいの女性NPCに近づいたコーディーは自身のアトリエで必死に練習を重ねて形にした、人好きのする笑みを浮かべた。

 NPCと言えど所詮は女性である。それはユマという名前のNPCで確認済みだ。

 腹の中はどうであれ、顔が良い男に声を掛けられて嫌なはずがない。


 お買い物に向かう所だったのか、手提げカバンを持っている女性は振り返ってコーディーを視界に入れた。

 その一瞬だけで彼女の心は和らぎ、余所行きの声で言葉を返す。

 高度なAIもチョロいものである。


「え、あ、ハイ! 大丈夫です……!」


 彼女が顔で人を判断したものの、コーディーは特に何も思う事なく作業的に情報を収集する。


「お忙しい所すみません、私この街に来たばかりでして。観光する上で回ったほうが良いスポットとかあったら教えて欲しいのですが」


 笑みを絶やすことなく、外見だけで言えば他者を魅了する彼は仕事でこの街に訪れた人を装う為、いつもの研究者スタイルではなく上下、黒のスーツを着ている。

 【ドリット】の街でユマというNPCをデートに誘う際、着ていた服だ。

 コーディーの基本系は、いくら紙のような防御力であっても白衣を纏っている。


 その所為で、白衣のプレイヤーがつるはしを持って採掘しているというシュールな光景が生みだされるのだが、白衣に銀縁の片眼鏡はコーディーのアイデンティティーなのだ。

 故に、そうそう普段の装備を変えるといった事はしないのだが、NPCに話しかける上でスーツの方が好反応を得られるので今に至る。


 そして、流れ作業のような会話を終えたコーディーは女性と別れると小さく息を吐いた。

 この動作が何かをリセットするという癖のようなものになりつつある。


(特別な情報は得られませんでしたね。イベントも起きずじまいですか。1時間は粘ったのですがね)


 聞き込みを終えたので、思念操作によってメニューウィンドウを表示すると装備の画面へ移り『普段のセット装備』という項目を選択した。

 それによって服装が黒スーツから白衣に変わる。

 もうこれ以上はNPCに話しかけないという自分自身への意思表示でもあった。


 そうして、適当に宿泊先を探してログアウトしようと思っていたコーディーだったがその時、後方から彼に声が掛けられる。


「コーディーさーん!」


 無自覚系鈍感主人公の様な少年の声にコーディーは足を止めると、瞬時に作った笑みを浮かべる。


「おや、ユウさんじゃないですか。貴方もクアルトに来たのですね」


 NPCに話しかけるような優しさを感じられる声色を使って、ハーレムクソ野郎こと召喚士のユウに声を掛けた。

 走ってきたから少し息を切らし、肩で息をしている彼の黒髪が微かに揺れる。


(走った事で息を切らすなんて、とても自然な演技ができていますね)


 コーディーは目の前で息を整えている少年に対し、内心で呟いた。

 この世界でプレイヤーが息を切らすなんて事はありえない。

 いくらリアルを追求するVRゲームと言えども、動悸による息切れは必要無いとされ、実現可能ではあるだろうが設定されてはいないのだ。


 つまり、ユウは少年を装っているプレイヤーである可能性が浮上する。

 息を整えている様子が少年にしてはエロく見えるというのも、計算の上で行われているのだろうか。

 そんな事をコーディーは思った。


 その時、彼の視線に白く光る線が映し出された。

 後ろを確認した所、自分の身体から出現して前にいるユウに繋がっている。

 よく見てみると、線は彼の青色をしたローブを貫通しており、更に伸びていた。


 指し示しているのはこの街の何処か。

 人が多く、正確に何処を示しているというのはよく見えない。


「どうかしましたか?」


 線を目で追っていたコーディーを不審に思ったのか、ユウは小首を傾げて聞いてくる。

 どうやら、反応からして光の線に気がついていない様子だ。

 これは何かのイベントが発生したという事だろうか。


 周りの人達も特に反応をしていないということは、光の線が見えるのは自分だけ。

 視界の端にあるHPとMPのバーを一瞥したが、減少はしていない。

 そもそも街中でプレイヤーがダメージを負うには初イベントの時の様な運営の操作が必要。

 そうでなければ攻撃は不可能だ。


 ようやく何か事が起きたと認識したコーディーは笑みを深めた。

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