第38話 思いの指輪と召喚士ユウ
自身の体から出ている1本の光の線は目の前の少年、召喚士ユウの身体を通って人の溢れる街の何処かへ伸びている。
これを辿ればおそらくイベントが先に待っている事だろう。
だが、コーディーは一先ず目の前の事に対処する。
光の線を目で追うがあまり不自然な行動を取っていたので、まずは佇まいを正してから「どうかしましたか?」と聞いてきた少年に言葉を返す。
「いや、申し訳ありません。少々奇抜な格好をされていた方を見かけましたので、驚いてしまいました」
言い繕ったコーディーの視線の先には多くのプレイヤーが街を闊歩している。
通路の端寄りに居る2人にはもちろん、往来に居る者なら多種多少な格好をしたプレイヤーをその目にする事だろう。
コーディーとしては最早慣れつつあるのだが、理由としては十分ではないだろうか。
青の全身タイツを纏った無駄に顔の良い男性や『生涯童貞』という文字がデカデカと記されているデザインが整っている服を着たプレイヤー。
SM嬢の様な黒のボンテージスタイルに蝶の形をした仮面を付けている女性プレイヤーなど男女共におかしな格好をした者が多い。
そして当然、SM嬢の格好をしている女性プレイヤーの腰には武器である鞭が下げられている。
ここまで来るとコーディーのような格好は霞んでしまう。
白髪に白衣と銀縁のモノクルだけでは目立てないのだ。彼の前に居る少年は青を貴重としたローブに身を包んでおり、黒髪というリアルではありきたりなのでコーディーよりも目立たない。
いや、普通すぎて逆に目立つ可能性もあるだろうが、それにしても通常ではありえない格好のプレイヤー達より目立つ事などありえない。
「そうなんですか……本当に凄い格好をされてますよね。何だか僕みたいな装備が逆に恥ずかしい気がします」
辺りを見回し、ユウは改めてプレイヤー達の格好を認識し恥ずかしそうに頬を掻いた。
周りのプレイヤーからすればハーレムクソ野郎と名高い少年と、掲示板を騒がせているコーディーが一緒にいるのだからこちらの方が驚きである。
実はこの2人、第2の街【ツヴァイト】でコーディーから声を掛けた事から今のような関係になったのだ。
といってもここ最近は全く見かける事なく、結構久しぶりな再開だ。
直接依頼――冒険者ギルドを通さず行う口約束の事――をコーディーが出した事から始まり、【ツヴァイト】では出逢えば挨拶はする程度の仲は構築されていた。
彼が直接依頼を出した理由は爆裂鉱石を使って作成した爆弾を用いてPKが行えないかという実験に加えて、ハーレムを作っていたユウに軽く嫉妬したのと扱いやすそうだったからという事から。
ただそれだけの理由で他のプレイヤーも掲示板を使い孔雀狩り、もとい召喚士ユウの撲滅計画と称しておびき出してちょっとした事件に発展させた。
嫉妬したプレイヤー達は扇動し易いのである。
そんな事があったのだがユウは事件について知らずに、コーディーを数少ない知り合いの男性プレイヤーだと認識していた。
今では孔雀狩りの事は有耶無耶になりコーディーがPKをしていたという事、PKが可能だという事、彼の所持スキルやアイテムについての方が話し合われている。
それでも、ユウには女性プレイヤーの知り合いが多いのでコーディーとそれなりに仲が良ければ噂について知らせているはずなのだが、おかしな反応は見せていない。
(未だに知られていないのでしょうか? いや、それはありえませんよね)
どういう理由にせよ、ユウが純情な少年のキャラクターであるならば、利用するだけ利用すればいい。
コーディーはそういう結論に達した。
それでキャラクターが崩れてしまうなら、それまでである。
所詮はクールな魔女のロールをしていた女性プレイヤーのナタリアと同じで、未完成であると言わざるをえない。
「それで、私にどのようなご用件でしょう。何かお聞きになりたいことでも有りましたか?」
呼び止められた理由を問うと同時に自分に関する噂を知っているのか? という意味を込めて聞いた。
「あっ、そうでした! えっと、この指輪の事について知ってたら何か教えて欲しいなと思って」
そう言って彼がストレージから手に出現させたのは1つの指輪。
噂についてではなく、アイテムの情報を欲していたらしい。
「この指輪ですか……」
態とかどうかは分からないがユウの見せてきた指輪は光の線が邪魔で見えなかったので、コーディーは彼の手を下から支えて不自然にならないよう気を付けつつ線の上へと上げた。
交換ではない事から、コーディーは知っていてもその情報について出す気はなかったのだが、ユウの取り出した指輪に見覚えが有り、取り敢えず会話を続けることにした。
「アイテム名を教えてもらっても?」
引っかかりを感じたので、指輪の固有名詞を聞いた所「思いの指輪です」と返ってきた。
その名前から自分もこの指輪を持っていると思い出し、ユウの手を離してコーディーも同じアイテムを取り出した。
「これを見てもらってもいいですか?」
「全く同じ物をコーディーさんも持ってるんですね!」
ストレージの中に眠っていた"思いの指輪"を見せた所、ユウから直ぐに言葉が返ってきた。
(なるほど、彼にはこの線が見えていないのですね)
コーディーは自身から伸びる光の線の下に手を出して指輪をユウに見せている。
それにも関わらず、言葉は直ぐに返ってきた。
これで確かめたいことの1つが解決し、引き続き指輪についての話を広げる。
「この指輪をユウさんは何処で手に入れましたか?」
「ツヴァイトの外れに森があるじゃないですか。その森の奥に遺跡があって、最奥の部屋にあった小さな宝箱にこの指輪が入っていたんです」
コーディーは自分と同じように指輪を手に入れたのだと理解した。
遺跡には獅子の胴体に鷲の顔と翼を持つ怪物と言われている、グリフォンが描かれていた壁画が存在していた。
【ミリアド・ワールド・オンライン】のストーリーに関連しているだろうと読んでいるが、まだ情報は少ない。
「私もユウさんと同じように指輪を手に入れましたね。それで、この指輪についてどのような事を聞きたいのですか?」
彼の情報は全く持っていないのだが、話はまだ切り上げない。
場合によってはこの会話によって、ユウから情報を手に入れることができるかもしれないと思っているからだ。
掲示板では、現状ユウが1番ストーリーについて情報を持っていると言われている。
それなら、考える振りでもして質問をすれば情報を貰うことができるかもしれない。
コーディーがそんな事を考えているとは露知らず、ユウは言葉を返してくる。
いや、知っていたとしても純情なキャラクターを演じているであろう彼は、無理やり話を切り上げる事が出来ない。
切り上げてしまえば純情少年を壊すことになる。
「この指輪に関することなら何でもいいんです。何か分かりませんか?」
情報をただで貰おうとしているのですか?
内心でそう呟いて、それならばとコーディーは口を開く。
「何でもと言われても、抽象的ですね……具体的にする為、ユウさんが今までどのような情報を集めてきたのか教えてもらってもいいですか? 既に知っている情報をお教えしても意味がないと思いますので」
これにはどう返すのかと思いながらも、紡いだ言葉を放った。
「そうですね――」
適当にはぐらかしたり、話題を逸したり、キャラ崩壊をしてまで話を切り上げたりするのかと思っていたコーディーだが、ユウの口からは今まで集めてきたが何の情報を躊躇いもなく吐き出される。
これには、浮かべていた微笑が消えて疑いの視線を向けてしまう程、コーディーは動揺をしてしまった。
理想とするコーディー像は動揺を顔に出さないのだが、あまりの衝撃に演技が一瞬だけ壊れる。
しかし、直ぐに思案をする表情に変えて事なきを得た。
一瞬だけ浮かべた疑いの視線も考え事をするあまり、顔にシワが寄ったのだと誤魔化せるだろう
そんな風にしている間にも、ユウはストーリーに関わりがありそうな情報を教えてくれる。
嘗て存在していた幻獣という存在、冒険者の中に不死の力を持った者が多い理由、始まりの街の名前について、昔はスキルが存在していなかった等、世界設定に関わる情報も存在していた。
ユウが出してくれた情報はとても興味深いが、それらを開示してくれる彼という存在の方にもコーディーは興味を持った。
(召喚士ユウ……面白いプレイヤーですね)




