第30話 火山フィールド
あれ、おかしいな?
投稿する度にブックマーク減ってるのに、モチベーションが落ちない。
バグかな?
「毒耐性と麻痺耐性を付与させるにはどうするんでしたっけ……?」
コーディーは火山フィールドに向かう準備の為、錬金釜と向き合っていた。
錬金釜付近のテーブルに積んである書類には今まで《錬金術》で作ってきたもののレシピが書き記されている。
「検索機能オープン」
コーディーがそう呟くと検索ボックスが表示されているウィンドウが視界に現れた。
書類の束を漁るのは止めて、そのボックスに触れるとキーボードを操作し『耐性』という単語を打ち込んだ。
すると、アトリエ内の耐性と名の付く物を一斉に検索し始め、数秒後には数枚の書類が独りでに宙へ浮かび上がった。
その書類を手に取ったコーディーは探していたを探し当てたので、検索の為に表示していた先程のウィンドウを消した。
手にした書類には彼が錬金術によって耐性を付与させる装備品が作れる手順が記されている。
メニューからストレージを開いて必要な素材を確認した後、彼は錬金釜に近づくと表示されるウィンドウを操作し始めた。
まずは作成する物のジャンルを選択する。アイテムや素材、様々な武具に装飾品、そしてホームに飾る為の調度品などが表示されている中、コーディーは装飾品を選択肢、その中の指輪を選択した。
これで後は自由に素材やアイテムを入れれば一定時間後に作りたい物が出来上がる。
しかし、自由度が高い反面、レシピが全く存在しないので失敗する可能性が非常に高い。
元々存在するレシピだけでは、すぐに物足りなくなるだろう。
なので、コーディーは失敗を何度も乗り越えて数々のレシピを自ら探し当てた。
彼はそれを基本として色々アレンジしたり、釜に入れる素材がどのような効果を及ぼすのかをある程度把握できるようになっている。
「まずは指輪となる鉱石を1つ。銅鉱石でいいですかね。次に毒の耐性を持つモンスターの血液とそのモンスターが持つ毒を入れる。ブラックヴァイパーのが余ってますし、それでいいでしょう。そして、最後にMPを50%ですね」
片手に1枚の書類を持って、もう片方の手でストレージを操作する。
素材を選択すると、錬金釜が近い事でストレージと錬金釜ウィンドウとで繋がりが生まれ、『素材を錬金釜へ』という文字が現れる。
そうして、鉱山で手に入れた銅鉱石とはじまりの街の外で、非公式ボスモンスターのブラックヴァイパーの毒袋と《採取》スキルのお陰で手に入る様になったモンスターの血液を入れた後、錬金釜ウィンドウへと移る。
素材投入後になると先程まで操作できていたアイテムや武具などのジャンルが暗転し、触れても反応を示さなくなり代わりに『MP』の項目が現れる。
コーディーはそれをタッチして、素材化するMPの『パーセント』を決めるとその数字に触れた。
突如身体から淡い緑色の光がコーディーの身体から錬金釜へ移動していく。
(どうにかしてMPを増やせないでしょうか……)
コーディーは身体から流れる淡い緑の光を見ながら内心で呟いた。
MPを使用する際、彼は疑問に思っていた事がある。
もしかすると、錬金釜には良質なMPが必要なのではないかという疑問だ。
(これは後でしっかり考えなければいけませんね)
錬金術にはMPが重要なのではないかと言う考えを一旦隅にやり、目先のことに集中する。
と言っても、後はグツグツと煮立っている謎の液体を壁に立てかけてあった棒で混ぜるだけなのだが。
錬金釜の上には『残り時間10分』という文字が表示されており、後は適度にかき混ぜ完成まで待つだけだ。
少し混ぜてからは暇を潰す為に改めてアトリエ内を見回してみた。
「ふむ、そう言えばイベン塔ってかなりレアですよね……見た目からして金色ですし、金鉱石なんですかね。これをどうにかして作れないものか」
顎に手を当て、ブツブツと呟くコーディー。
金鉱石はまだ1度も手に入れたことがない。そもそも、今ある鉱山フィールドで金鉱石が手に入るのか判明していないのだ。
素材として何かに使えないか、錬金釜で作る際はジャンルは何になるのか、どうやって作れるのか。
頭の中でぐるぐると"1位のイベン塔"について思案していると、毒の耐性が付与される指輪が完成した。
錬金釜は淡い光を帯び、その光はコーディーの元へと入り込んだ。
それを確認した後、彼はストレージから指輪を取り出し右手の人差指に嵌めると、《鑑定眼》を行使してみた。
『毒耐性の指輪』
銅で作られた無骨な指輪。
装飾品としての価値は低い。
毒の耐性が付与されている以外に価値がない。
前に作成した毒耐性が付与された指輪はNPCの店で売り払っていたので、新しく作ることになったが毒の耐性が必要なだけなので別にいいだろう。
素材が鉱山でよく手に入る銅鉱石だったので、装飾品としての価値が低いものの毒耐性はちゃんと付与されている。
コーディーは満足そうに頷くと、同じ要領で麻痺耐性が付与されている指輪も作成した。
それと右手の中指に嵌めて、所持品の最終確認を行うと彼はアトリエを後にした。
アトリエを出てから火山へ来るまでにプレイヤーから接触はあったものの、のらりくらりと躱してコーディーはついにボスモンスターとしてドラゴンが生息すると言われている火山の登山口に到着した。
噴火こそはしないが、ドラゴンの目撃情報が相次ぐ頂上には溶岩地帯が存在する。
まだ登山を初めて間もないというのに熱気を感じられ、頂上付近はどれほど熱いのかという思いが浮かんだ。
(洞窟があるらしいですから、そこで採掘でもしたいですね)
初めの方はなだらかな山容なのだが、中腹を過ぎたあたりから途端に険しくなりモンスターもこの付近から多く現れる。
掲示板で共有されていなければ、コーディーは万全を期す為にまだ火山へは来なかっただろう。
(現在の所持品ではおそらくドラゴンは倒せないでしょうね……今回は偵察と採掘だけで済ませましょう)
内心でそう呟くと、コーディーは登山を開始した。
まるで夏場の蒸し蒸しした風を浴びているような感覚に嫌気が差すが、ゲーム世界のお陰で汗は掻く事がない。
現代科学が成長したお陰で、VR技術は進歩を続けある程度リアルな感覚でも脳が勘違いを起こすことがなくなった。
他のゲームよりも【ミリアド・ワールド・オンライン】がよりリアルな感覚を経験できるので、他のVRゲームの追随を許さない。
更にはその事に注目を浴びて、現在も次々と新規ユーザーがMWOには増えてきている。
モンスターが出てきていない今の内にとコーディーは満腹度を30%回復させる"兵糧丸"を"アタックポーション"と"ディフェンスポーション"を飲んで流す。
これで、5分間、与ダメージが10%上昇する効果に加え、10分間、被ダメージが10%減少する効果を得た。
兵糧丸は苦い丸薬なので、味を気にしなければ1粒で満腹度を30%も回復できる便利な食料だ。
満腹度はHPの自動回復に影響し、10%を下回るとHPとMPの自動回復が無くなり、0%になるとAGIが半減という現象が起きるので、適宜確認を行わなければ万が一という時に困る事になるだろう。
周りの警戒を行いつつ食事を取れるのであれば問題ないが、コーディーのようなソロで行動をしている者には兵糧丸は大変助かるのだ。
「薬でも飲んでいる気分ですね」
思わず苦笑気味に呟いた。
その時、少し先にある枯れた木々がかすかに揺れたのをコーディーは認識する。
少しばかり油断していたが即座に戦闘態勢を取り、辺りを警戒したが《索敵》には反応がない。
近くにはプレイヤーはおらずモンスターの気配は感じられないのだが、確実に前方に生えている数本の枯れてい木々は動いた。
《索敵》というスキルは保持者の認識力や把握力などを上げるという物。それにより、モンスターの気配なども感じ取れるのだが、その感覚によるとモンスターは存在しないと言っている。
しかし、コーディーは自らの目を信じて、枯れ木の1本に投げナイフを投擲した。
「――――!!」
すると、どうやって出しているのか発泡スチロールをこすり合わせた様な奇声を発した枯れ木は、今まで閉じていた口を開きこちらに弾丸を飛ばしてきた。
「やはりっ」
枯れ木が擬態をしていたモンスターである事を見抜いたコーディーは、弾丸を横に飛ぶことで回避した。
1本の枯れ木が動き出した途端に他の枯れ木たちも動き出し、口から次々と弾丸を飛ばしてきた。
それはよく見ると種のような見た目をしており、気のモンスターに合う攻撃をしているのだなとコーディーは冷静に分析する。
(もっとしっかり確認しておけば……)
彼は眼の前に居るモンスターの事を知らなかった。
それは掲示板を流して読んでいたが故のミス。情報収集の甘さはあったが、今回はギリギリでモンスターに気がつけたので助かった。
見ていたのに忘れていたのかも知れないという考えも浮かんだが、今は目の前のモンスターを対処する方が先だ。
頭を切り替えたコーディーは種の弾丸を巧みに避けながらも、攻撃を始めた。
(効けばいいのですが!)
コーディーは相手の動きを遅くする"スロウポーション"を思い浮かべる。
すると、彼の指の間には片手に2本ずつ灰色の液体が入ったフラスコが現れた。
そして、4体存在する枯れ木に向け投擲をする。
《投擲》スキルの恩恵も相まって、前方で種を飛ばしてくる枯れ木4本にフラスコは打つかり、破片による軽症を負わせた後、中の液体を浴びた。
(効果はありですね)
目に見えて動きが鈍り、先程まで飛んできていた種の弾丸も容易く回避できる数にまで減った。
1体の枯れ木から放たれる種の弾丸は数秒に1粒のペースにまで落ち、これであれば最早敵ではない。
1体ずつ冷静に"ポイズンポーション"を使用して毒になった後は腰に下げている短剣でHPを減らして行き、動きの遅くなった枯れ木が伸ばしてきた枝で攻撃してきたのだが、その攻撃をしてきた時には既に2体の枯れ木が倒されていた。
そして、残りが1体だけになった所で余裕ができたので、コーディーは《鑑定眼》を枯れ木に使用した。
【枯れント】
《種マシンガン》
《種マシンガン》というスキルを持っていたようだが、モンスター特有のスキルなのだろう。
スロウポーションにより動きが遅くなった時には、マシンガンではなく単発銃のような感じになっていたので名前負けしていたが。
最初は1秒に1発ペースで放たれていたのだが、動きさえ遅くしてしまえば脅威ではないようだ。
コーディーの様に単独ではなく、パーティーで来ていた場合はタンク職、つまり仲間を守る役割を持っている者が盾で防ぐだけで、種の弾丸は対処できる。
1発の威力はそこまで高くないのだ。
だが、コーディーのような紙装甲であった場合、その1発すらもかなり高威力だ。
枯れントを鑑定し終えたコーディーは、もう用無しだと他の枯れント達同様に、ポイズンポーションと短剣で倒した。
彼が持つ短剣は最前線のプレイヤー達の武器に比べると、強い武器ではない。
第2の街【ツヴァイト】の露店でプレイヤーから購入した以降、全く何もされていないのだ。
だが、弱すぎるわけではない。まあ、ドラゴンには通用しないだろうが。
「さてさて、ドロップした素材を回収して先へ進みましょうか」
枯れントから手に入ったのは枯れた木の枝だった。
前に知り合った【ツヴァイト】付近の森フィールドで知り合ったハルというドワーフの少女であれば、使いみちを知っているだろう。
彼女は木工職なのだから。
すっかり存在を忘れていたハルのことを枯れントの木の枝によって思い出したが、既に様もないので視界の隅に追いやった。
そうして、素材を回収し終えたコーディーは歩みを再開し、先へと進んだ。




