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第31話 落下ダメージ

話が進まない……。


 火山フィルドに入山してから数十分経過した頃、枯れ木のモンスター"枯れント"や赤みを帯びている2メートル程の無骨なゴーレム、二足歩行の赤い鱗を持ったトカゲなどを倒しながらコーディーは中腹辺りまで来ることが出来た。

 ここまではなだらかな坂道を上がってきていたが、少し先からは少し勾配が上がる。


 途中は横に崖まであったりと、ただ山道を歩くだけでもキツイだろうにそれに加えモンスターが襲い掛かってくるのだから、運が悪いと崖から真っ逆さまに落ちてしまうだろう。

 崖が近くにある時に限ってモンスターが湧くので、運営は道もモンスターが出てくるタイミングも狙ってやっているに違いない。

 そんな考えをコーディーは抱いていた。


(ゴーレムが出てくるのは知っていましたが、流石にやりづらいですね……)


 元々数の少なかった爆弾。残りは30個も無いというくらいか。

 赤みを帯びているゴーレムは、火山に出てくるモンスターなので火への耐性が強いのか爆弾1発では倒れてくれない。

 攻撃力と防御力に欠けるコーディーでは現状、爆弾以外にゴーレムに大きなダメージを与える方法がない。


 状態異常が効かないので得意のポーション類を使えないのが、非常に惜しい。

 それでも、毒や麻痺は効かずとも動きを遅くするスロウポーションは使えるので、場合によっては足止めだけをして逃げることもある。

 コーディーのメイン武器である短剣が、石の塊であるゴーレムにダメージを全く与えられないというのも困りものだ。


 しっかりとした攻略は元よりするつもりはなかったが、それでもここまで戦闘が辛いのは少し苛立ってしまう。

 コーディーは冷静に立ち回っているつもりでも、その動きには少し粗が目立ってきている。

 そんなコーディーが中腹で休憩をしていると、1人のプレイヤーがここまで上がってきた。


 この場所にソロで挑む様な人が自分以外に居たことに少し驚き、そしてこの火山フィールドで崖を見てから少し気になっていたことを検証する為と、少しばかりのストレス解消に彼はその男性プレイヤーに声を掛けた。


「おや、こんな所に1人で来るなんて珍しいですね」


 声を掛けられた短い黒髪の男性はコーディーに言葉を返す。


「そういう貴方も1人じゃないですか。こんな所でどうしたのですか?」


「いやぁ、実はお恥ずかしいことに一緒に来ていた仲間と逸れてしまいまして……途方に暮れているところなんですよ」


 コーディーは相手の言葉から自分のことを知られていないのだと当たりをつけ、居もしない仲間と逸れたのだと嘘を吐いた。

 自分の事を知られていたとしても、臨時パーティーを組んでいると言えばいい。

 この火山フィールドに仲間が居るという事を、目の前の青年に認識させる事が重要なのだから。


 人の優しそうな青年はコーディーを怪しいと思うこと無く、休憩がてら荒れた山道にある少し大きな岩に腰を落ち着け、二人して談笑した。

 数分ほど会話を楽しみ、【ミリアド・ワールド・オンライン】のシステム設定の話を振って、コーディーは青年が痛覚設定を無し、つまり痛みを一切感じない設定にしている事を聞き出すことに成功した。


 それを聞くことが出来たコーディーは少しした後、仲間から漸くチャットの返信が来たと告げ、別れの挨拶をすると下山をした。

 と見せかけ、途中で脇道に逸れる。


(さてさて、後は時を待つだけですね)


 荒れ地で隠れる場所が全くない山道だが、少しの時だけでも身を隠せることができれば問題ない。

 辛うじて大岩が存在していたので、そこに隠れているコーディー。

 先ほど別れた青年の様子を岩陰からこっそり伺っていると、彼は休憩を止めて動き始めた。


 青年が向かう先はまだなだらかな坂道なのだが、道幅はそれなりにあるものの右側は崖になっており、ここでモンスターに襲われては非常に危ない。

 このような道が中腹に来るまでに何度かあり、訪れた者はここまで来たように対処すればいい、と少しだけ気が緩んでいるだろう。


 右側には崖、そして左側には岩壁がある。その岩壁側を移動すれば崖とは距離が離れるので安心感もあり、足を踏み外して転落という事にはならない。

 コーディーは視界を遮る物が少ない中でモンスターではない本物の枯れ木の影や、大岩の陰に身を潜めたりして青年の後を付ける。


 そして、青年が坂を登り始めた時、コーディーは《投擲》による恩恵に頼り青年が進む少し先の上空へ"モンスター誘引ポーション"を2つ投げた。

 その2つは上空でぶつかり合い小瓶が割れると中の液体が地面へと降下する。

 それなりに高い位置、そして、距離も離れている場所に投げたのだが、先にいる青年は少し首を傾げた。


 小瓶が割れる音を聞き取ったのだろう。

 だが、様子を見るに何かこの場に合わないような音を聞いただけ。それが戦闘音か何かだと思ったのかあまり気にすること無く、青年は歩みを止めずに先へ進んだ。

 その事にコーディーは安堵して、坂道に入る前で足を止めた。

 此処から先は隠れる場所がない。


 片側は崖でもう片側は岩壁だ。岩壁に上がろうにもその高さは見上げなければ上が見えないほど。

 ここを上がるのは不可能だ。なので、先程投げたポーションの効果が現れるまでは、待機するしか無い。

 コーディーは前方しか警戒していない青年を見つつも、岩壁の上方へと視線を向ける。


(……来ました。まさか本当にそこから来るとは思いませんでしたね)


 彼が見つめる岩壁の上方から、何かが青年目掛けて落ちてくる。

 それは赤色の岩のようだった。


「うわっ、ひっ!? なんでゴーレムが!?」


 低い音を立てながら岩壁側から落ちてきたのは、3体の赤みを帯びている2メートル程の無骨なゴーレム。

 数十メートルほどの高さから落ちてきたというのに、砂煙が晴れた先のゴーレムは全く傷を負っていなかった。

 それ程までに頑丈で、強力なゴーレムを目にして青年は思わず尻餅をついてしまう。


 だが、直ぐに反転してこちらへと道を引き返そうとしたが、それを邪魔するようにまた1体のゴーレムが彼の目の前に落ちてきた。

 モンスター誘引ポーションに惹かれた二足歩行をしたトカゲのモンスターも数体落ちてきたが、それらは体が耐えられなかったようで落ちてきた瞬間にHPを全て無くし、光へと化す。

 誰が倒したでも無いそのトカゲのモンスターからドロップした素材は、近くに居た青年へと取り込まれた。


 しかし、そんな事を気にしている余裕は青年には無い。

 前後をゴーレムに囲まれ、あたふたとしている様子が窺える。

 この坂道をコーディーが全力で登れば、青年の元にはすぐに向かえるだろう。

 コーディーの居る場所から青年の場所へはそう離れていない。


 なので、青年の様子も岩壁の端から覗く事でこちらの存在がバレる心配が少なく見ることが可能だ。

 一応後方にも気を配り、《索敵》を使いながら辺りの安全を確保している。


 モンスター誘引ポーションにより誘われたゴーレム達は青年をターゲットにロックしてしまった。

 本来の使い方がどうなのかは分からないが、コーディーは基本的に他人へモンスターを仕向ける事に使っている。

 コーディーがモンスターを操る調教師のように見えるだろう。


 だが、勘違いしないでもらいたい。これはただの悪意からの行動ではないのだ。

 このMWOの世界をより深く知る為に、自分以外のプレイヤーを使って実験をしているだけ。

 その中に少しだけストレス解消が入っているかもしれないが、9割……いや8割くらいは純粋な興味だ。

 高い場所から落ちた場合、プレイヤーにはダメージが通るのかということについての興味がこのようなことを起こしているだけである。


「くっ、クソッ! やってやるよ!」


 青年は自らを鼓舞するかのように大きな声を出した。

 彼の目の前には、先程行く手をはばむかのように落ちてきた一体のゴーレムが。

 後方には先ヘ進むのをこばむかの様に落ちてきた3体のゴーレムがいる。


 こうなれば1体しか居ない方へ進むのが一番安全だ。そう考えるのは当然だろう。

 今回は運が悪かったと思って、ゴーレムを抜けた後は下山するしかない。

 青年は腰に下げていた片手剣を抜き去り、叫び声を上げてゴーレムへと突進した。


「うおおぉぉぉおおぉっ!!」


 剣はゴーレムとの相性が悪い。鈍器であれば攻撃が通りやすいのだが刃物の場合、与ダメージが低下する。

 それでも、青年の獲物は片手剣なのだ。少し心もとないだろうが、この場を潜り抜けるため彼は《片手剣術》のアーツを発動した。


「スラッシュ!」


 《スラッシュ》というアーツ。これは《片手剣術》がレベル5になると覚える初級のアーツだ。

 コーディーは知らないが、このアーツには熟練度というものがあり、使えば使うほどその威力は上がっていくと言われている。

 その限界がどれほどの威力を有するのか、未だに掲示板では色々と話し合われている。


 青年が目の前に居るゴーレムへと迫り、水平に剣を振る。

 《スラッシュ》は宣言されると次に振るわれるつるぎの威力が1,2倍になるという効果を持つ。

 繰り出された水平斬りは、青年を掴もうと伸ばされたゴーレムの片腕を切断することに成功し、腕の失われた方を通り抜けた彼はそのまま走りコーディーの居る方へと迫って来ていた。


「よっしゃあ! 見たかゴーレム!」


 嬉しさのあまり、青年は走りを止めぬまま頭だけで振り返り、重い体を動かしてゆっくり迫ってくるゴーレムへと言葉を吐いた。

 それはつまり、コーディーの居る方へと視線を向けていないということ。


 その僅かな隙きを突いて、保険のために片手には麻痺煙玉を持ち、自慢のAGIを生かしてコーディーは全速力で青年へと迫る。

 そして、青年がゴーレムを抜けた事で既にお互いの距離は縮まっていたこともあり、コーディーは数秒で青年の元へと近づき、空いている手で崖の方へと青年を押した。

 これは攻撃ではないので青年へと力が伝わり、次の瞬間には彼の身体は空へと投げ出されていた。


「えっ……?」


 短い声を漏らした青年は自分の身に一体何が起きたのか、崖の下へと姿を消す前に辺りへ視線を向けた。

 だが、おかしな点は見当たらず、彼の身体が崖の下へと消すその前に、ゴーレムの陰から白い布のような物が目に入った。

 そうして、何が何だか分からないまま青年は、重力に従い崖下へと落ちていく。


 青年が落ちていったのを確認した後、ゴーレム達の前に出ていたコーディーはこちらを捕まえんと伸ばされる腕を容易く避けて、戦うことなくただ時間を経過させる。

 そして数十秒後に、ゴーレムから離れ崖下を覗いた。


「誰もいませんね。モンスター同様、プレイヤーも高所から落ちればダメージを負うという事でしょうか……」


 眼下には既に青年は存在しておらず、興味を失ったコーディーは呟きを漏らした後、傾斜は緩いとは言え坂道を風を切る勢いで駆け上がって行った。

 道を塞いでいた3体のゴーレムだが、コーディーが装備している靴は"跳躍の靴"と言い、虚空に一度だけ見えない床を生み出せる。

 その能力を使い、崖側へ飛んでいき虚空に透明な床を生み出すとそれを踏んで、ゴーレム達を邪魔な障害物とばかりに通り抜けた。


(この先に洞窟があるはずなのですが……一度様子を見た後にドラゴンでも探しに行きましょうか)


 もう少し進むと勾配が上がってくる。

 その付近に洞窟が存在するのだが、コーディーはその洞窟を確認した後、ドラゴンを見つけに行こうと考えながら少し足を緩め先へと進んだ。

主人公コーディーの中の人について描写があった方がいいと思われる方がおられれば、遠慮なく仰ってください。

なるべくリアル世界の描写はしないようにしてるのですが、少し抽象的で宜しければ中の人について描写致します。

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