確かな現実へ
「リアム、後で時間をくれないか」
話がある、とトレイズは言った。話の内容は承知していたのでリアムもそれは了承した。
ただ、リアムにはトレイズよりも先に話さなければならない相手がいる。
部屋に行くとエレミア様はリアムが来るのがわかっていたように迎え入れた。
「思い出したんですってね」
「…はい。 エレミア様はご存知だったんですね」
「だって、あのとき扉の前で聞いてたもの」
カイの想像が当たっていた。エレミア様は父親がリアムを呼び出したのが気になって扉の前でこっそりと聞き耳をたてていたらしい。
「だからお父様があなたに何を言ったのかも知ってる。 あなたがどう答えたのかも。
最初は忘れてるとは思わなかったわ。 私に気をつかって、覚えてないふりをしてると思ってた」
リアム自信も忘れていたことに驚いた。
「エレミア様は、カイの国に行くおつもりなんですか」
エレミアの答えを、リアムは半ば確信していた。
「行くわ」
エレミアは、はっきりと言った。
「私はもう、お父様の言いなりにはなりたくないし、あなたの重荷にもなりたくない。
自分のために生きる機会があるのなら、それに賭けてみたいの」
道を決めてそこに向かって生きていく。これまで出来なかった生き方を望むと言った。
エレミアがそう決めたなら、リアムも応えなければならない。
「エレミア様が決めた道を、私は応援しています」
決別だとは思わなかった。やっと父の呪縛から逃れて、それぞれの道を歩いて行ける。
エレミア様もわかっていたようでリアムを見て笑っている。幼い頃のように笑いあって、それから少しだけ泣いた。
「忘れないでね。 これからだって私たちはずっと姉妹よ」
ずっと、大切だから…。エレミアの言葉を聞いて、リアムは初めて姉を抱きしめた。
「リアム」
廊下の端でトレイズが待っていた。
「トレイズ」
名前を呼んで手を取る。ずっと待たせてしまって、ごめんね。抱きしめると頭を優しくなでられる。
万感の思いを込めて、一言、呟く。
「大好き」
この言葉を言うのに、とても長くかかった。ゆったりと満ち足りた気持ちなのに、胸がドキドキする。抱きしめているトレイズの胸も同じように高鳴っていた。
「リアム。 お嬢様たちが出発したら、俺たちも出よう」
一緒に生きよう。その言葉だけで、胸がさらに熱くなる。
でも、その言葉だけで終わらせはしない。
「トレイズは言ってくれないんですか?」
いつも冷静なトレイズの顔が固まった。困らせても絶対に言ってもらうとリアムは決めていた。
「私はちゃんと告白したのに、トレイズは答えてくれないんですか?」
上目づかいに問うと、トレイズの顔が赤くなった。身を引こうとするトレイズをさらに強く抱きしめる。
どんなに困っていても絶対に応えてくれるとリアムは確信していた。
「―――」
小さくリアムにしか聞こえない声で囁く。耳に残るその言葉をリアムは大切に胸にしまう。
これからもずっと一緒にいる人の最大限の愛の告白を―――。