アラルド・アルム
約束の庭園に少し早く着いた私は用意された席に先に座っていた。数歩後ろにネオールも立っている。
庭園には春を彩る花々が華やかに咲き誇り、涼しいそよ風が吹くと爽やかな葉の香りとほのかに甘い花の香りが漂っていた。
用意された席のテーブルには旬のフルーツで飾られたケーキやクッキーが並んでいた。
「レディ、お待たせしてすまない…。」
甘く柔らかくて少し掠れた色っぽい声が聞こえた。
彼はアルム国のアラルド・アルム、隣国の第二王子である。
人々は彼が一瞬でも視界に入れば魅了されるのではないだろうか。
腰まである少し癖のある藍色の髪が風になびき艶々と煌めいていて、目元が隠れるほどの長さの前髪から覗く紫色の瞳も艶があり、長いまつ毛が瞳を魅力的に縁取っている。時折見える左目の下にある泣き黒子も彼の魅力をより一層引き立てていた。
ドクッ…と心臓が大きくなった。
どうしよう…いつ会っても色気がすごいわっ…!
彼が結婚相手になって毎日隣にいたら、心臓が一万回は壊れるんじゃないかしらっ…
「いえ、私も先ほど来たばかりですわ。」
結婚後のアラルド様と自分を想像しかけて止めた。
煩い心臓の音を落ち着かせようとするのに必死で、無意識に発した言葉は無難な返答だった。
それから他愛もない話をしながらお茶とスイーツを食べていたのだが、彼の口元に視線を向けてしまう。
アラルド様には女心をくすぐるところがある。
それは甘党という部分もそそられるのだけど、それ以上に天然というか抜けているところが大人びた見た目とギャップがあり可愛く思えてしまうのだ。
今日だってアラルド様も緊張しているのか、口元にケーキのクリームが付いているのである。
言うべきか黙っているべきか悩み、つい彼の口元に視線がいってしまっていた。
「……?レディ、どうしたの?」
アラルドが口元をチラチラ見られていることに気づいたようだ。
「レディ、隣に行ってもいい…?」
甘く問いかけられては断わることはできない。
「…はい。」
頬を赤らめながら控えめに返答をすると、彼が椅子から立ち上がりこちらにやってきた。
隣までくると座っている私にあわせて彼は屈み、吐息が頬にかかるほど顔を近づけてきた。
ちゅっ……
「………!?」
彼が頬にキスをしてきた。
えっ…?なぜ?
「レディが僕とキスしたそうだったから…。嫌だった…かな?」
嫌ではないけど…
クリームが付いてたのを見てただけなのに…
あれ?口元のクリーム無くなってる…
「ふふっ…、レディ、頬にクリームが付いてるよ。取ってあげるね。」
はっ!!
そのクリームはあなたが今キスしてきたときに付けやつですって!口元のクリームを頬に付けられるなんて初めてよっ?
ペロッ……
脳内のつっこみに意識が持っていかれて、彼の行動は見ていなかった。私の頬に暖かく湿ったものが触れて、驚きのあまり目を見開いて思考が停止した。彼の舌で頬のクリームを舐め取られたと理解したのは数秒経ってからだった。
「美味しいね、レディは。」
彼はそう言って満足そうに微笑んでいた。
そこから先の記憶は曖昧で、気がついたら私の部屋の前まで辿り着いていた。




