スケールスタディ致しましょう。
再び1994年
「ジャズサククフォンパロット?」
「ジャズサキソフォーンメソッドな」
「あ、ジャズサキソフォーン・・」
「そう、メソッドのⅡ。これな。」
先輩たちは「青本」と呼んでいるそうな。なら赤本もあるの?と考えたりもするけど、あるんだなこれが。ジャズサキソフォーンメソッド「Ⅰ」が赤いんだとか。どちらも山中良之先生著。
「B♭一音だけでロングトーンしてもつまんないだろ。せっかくならスケール吹けよ。」
「そうですね。スケール吹きましょう・・・スケール・・・」
「頑張ったんだけどねえ。知ったかぶり。諦めるまでが短いね。」
海老川さんは今日もクールに語りかけるし、石川さんはいつもとかわらず何だか楽しそうだ。
「まずお前の持ってるテナーサックスの「ド」は、ピアノ音階では「B♭」。つまりシの♭なわけだ。テナーサックスでドレミファソラシドと吹けば、ピアノ音階ではB♭から始めるメジャースケールを吹くことになる。ちなみに石川のアルトや俺のバリトンのドはE♭、ミの♭。」
「はい。」
「市山君、そんなに生きていない「はい」は無いよ・・・」
真剣な海老川さんの隣で石川さんはお腹を押さえて笑っていた。
「で、今度は数字で言うぞ。ドを1度とすると、レが2度でミが3度で・・・・と8度は1度のドから1オクターブ上のドになるわけだが、3度、6度、7度を半音下げると、マイナースケールになる。」
そういえば、高校の選択科目で音楽を履修していた時に、メジャーとマイナーについては学んだことを思い出した。
「スケールにはメジャーとマイナーだけじゃなくて、Jazzスケールも含めて色んなスケールがあって、それがその本に書いてある。」
「ああ、なるほど。そういうことですね。」
「うん、どれがほにゃほにゃスケールとか1個1個全部覚えることが重要ではなくて、指使いと音の感触を感覚で理解していくことが大切になる。」
「市山君、今ロングトーンやってるでしょ?ド、つまりB♭で2小節吹いたら次はレ、Cね。ミ、ファソラシドーーーって上がって、もう1オクターブ上がっても良いし、下がっても良い。」
「メジャーでやったらマイナーでやって、セブンス、ディミニッシュ・・・青本に書いてるスケール順番にやれば良いよ。」
基礎練習だというのはすぐにわかった。それでいて、つならなそうな感じもなく、なんとなく早く吹きたい気分だった。
「テンポは上げないで良い。ロングトーンとスケールスタディの良い所どりだから。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2023年1月
山手公園の木々達もB♭に飽きるころだった。メジャー、ハーモニックマイナー、メロディックマイナー、マイナーセブンス、ペンタトニック、ブルーノート、ドリアン、フリジアン・・・・慣れてくるとテンポが上がって・・・そうするとだれかに怒られたような気がして、やっぱりテンポは落とした。
ドからファはではハーモニックマイナーでソからはブルーノート・・遊んでみると懐かしかった。後ろの木が私を監視しているように見えたが、斜め前の木は笑っているような気がしたから、後ろの木のことは気にしないことにして、自分の感覚に従うことにして、指は自由に動いて良いことにした。
スケールの組み合わせは今日その時そのタイミングでしか産まれない特別な音楽の1ページになる。
少しづつ、自分の体に血が流れ始めているような気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「市山君、バリトン似合うだろうな。」
「音が太いし、それでいて口元に変な力みが無いな。で、不思議なのは・・」
「ピッチが凄く良いね。」
「そう。音楽未経験者なんだろ?管楽器はそれっぽい音が出てから正しい音程で吹くのが難しいのが。。。あんまり苦にしてない。」
「羨ましいね(笑)」
「凄く(笑)」
サックスの先輩達は、とても後輩思いの良い人達で。そんなまだまだ平成な春だった。
次回 プラザの風




