第17話《ウェイクアップ》
―――やられた。そう思ったのは一瞬で、俺はすぐに行動に移す。
「クソッ!《魔導の体現者》―――【テンペスト】、バスター!」
殺気を感じ取ったのと同時にドアを思いっきり蹴飛ばし、全開になったドアの先を目掛けて旋風を叩きつける。
「急にどうしたの!?」
「敵だ、敵!見事に待ち伏せしてやがった!」
「―――なら、ここからどうする!?」
一瞬の思考。その後に俺は声を荒げながらも伝える。
「予定は早まったが―――正面戦闘だ!俺が隙を作るからその間にこの部屋から脱出、そのまま戦闘に入るぞ!誰が来ても恨みっこなしだからな!」
「了解。二人とも、動ける?」
「問題ないわ。‥‥‥流石に怖いけれど」
「―――同じくね。私の力がどこまで通用するか分からないけど、最善を尽くすわよ」
「―――目をつぶってろ。そんでもって―――走れ!《魔導の体現者》、フラッシュ!」
前方に手を付き出し、魔力球を飛ばす。扉を越えたあたりでその球は炸裂し、強烈な光を生み出した。
その間に、全速力で駆け抜ける。恐らく視界は潰されている。だが、それを読まれたり、足音で判断したとしても―――俺がどうにかする。いや、しなくちゃいけない。
「後一秒で切れるぞ‥‥‥終わりだ、目を開けても大丈夫だ」
光が戻ってくる。それと同時に周囲を見渡して―――四人の人影を捉えた。
倉庫の中央部分に四人。これが俺達だ。誰一人欠けることなく、なんとか無事に突破できたらしい。そして、俺達が出ていったドアの付近に四名。これが傭兵一味、と呼ぶべき存在だろうな。
「‥‥‥してやられたよ。それと―――素晴らしい判断力だ」
目元を押さえたオッサンがそう言い、こちらに鋭い視線を向ける。
「そりゃどうも」
‥‥‥不味い。余裕が無かったとはいえ、乱戦に持ち込まれた。お互いが一ヶ所に固まり、今から散開しようとしてもその隙を狩られる予感しかしない。
「‥‥‥今の状況、私達からしてもあまりよろしくないものでね。これは私からの提案なのだが―――」
その言葉は、俺にとって‥‥‥いや、俺達にとっても渡りに船とも言える提案だった。
「―――タイマンといこうじゃないか」
本気か、コイツ。
「―――正直に言おう。俺達としてもその提案はありがたいものだ。だが、アンタらにそれをするメリットはないだろ」
そう、タイマンは俺達の勝率を上げる最善手。だからこそ、それを避けるだろうと踏んでいたが‥‥‥。
「‥‥‥増長が過ぎる、とも思うがね。だが、確かにそうだ。下に見る言い方をするが、学生風情がプロである我々に連携で勝てる筈がない。‥‥‥そうだろう?」
「その通りだ。俺達は個々のスペック、それだけで見ればワンチャンあると思っている。だが‥‥‥それだけだ。連携が上手い訳じゃないし、逆に白月と天宮はお互い潰し合うような能力だぞ?逆に負けるわ」
俺がそう言い切ると、オッサンは溜め息を吐いてから話をする。
「‥‥‥こちらの事情だが、我々は別に仲間ではないのだよ。同じ人物から依頼を受けた、一日だけの関係さ。だが‥‥‥お互いの能力はしっかりと理解している。要するに、こちらも集団戦は得策じゃないというだけだ」
‥‥‥成程。確かに合理的な考え方だ。それに、俺達にチャンスが生まれた。
「‥‥‥いいぜ。やってやろうじゃねぇの」
「その言葉が聞けて嬉しいよ。それでは‥‥‥相手はこちらが指定させてもらう」
「なっ―――」
最悪だ。俺と悠斗はまだいい。少なくとも、能力はバレていない筈だ。だが―――二人は違う。日本で有名な能力である《獄炎の巫女》と《氷雪の女王》はその能力が知られている。それは明確な隙となり‥‥‥。
「‥‥‥いいわよ。その条件でやりましょうか」
白月が口を挟んだ。
「お前、何を言って―――」
「安心なさい。少なくとも、学園に入ってからの情報は相手には漏れていないはずよ。ならば―――私達にも勝機はあるわ」
「俺としてはそれでも嫌なんだがな‥‥‥。仕方ない、なら任せる」
俺がそう言い、彼女たちはそれに頷く。
「話は纏まったかね。それでは、発表しよう‥‥‥と、言っても今君たちの目の前にいるのが相手だがね」
俺の前には凄まじい覇気を持ったこの男が。
悠斗の前にはどこか扇情的な雰囲気を感じる女が。
天宮の前には猫耳の女―――猫耳?
猫耳が気になるが思考をリセット。
―――白月の前には何個もピアスを開けている金髪の男が。
それぞれが構え、敵意を向けてきた。
それを見た俺は全身に魔力を循環させ、戦闘体勢を整える。
―――循環した魔力が眼に到達して数回。魔力が眼に流れる度にバチッ、とスパークが迸る。
それに気付いた俺は更に眼に魔力を注ぎ込む。
―――バチッ、バチィッ、と回数を増やすスパークの中で、痛みと共に一つの景色を一瞬だけ捉えた。
「なる、ほど‥‥‥な」
IFの可能性を見た。いや、見えてしまった‥‥‥とでも言うべきか?
幸か不幸か、どちらともとれるが‥‥‥俺の見たビジョンが正しければ、俺達は―――勝てる可能性がある。
猫耳女と男が突撃し、その後ろから雷撃が迸る。その雷撃が二人を巻き込みながら攻撃し、男は回避に成功するが―――猫耳女はその一撃をモロに喰らって気絶。そんな景色を見た。
‥‥‥こりゃ集団戦に向かないわけだ。突撃のタイミングもバラバラ、見境ない攻撃‥‥‥連携のれの字も知らないのか。
だからこそのタイマン。相手にとっても、俺達にとっても楽な選択肢。だからこそ、あの男はそれを選んだのだろう。
それに―――相手は天宮と白月のメタを立てることに成功したと思っているんだろうが‥‥‥失策だったな。あいつらはその想定の一歩先を行っている。
「―――戦闘開始だ」
今、戦いの火蓋は切られた。




