第37話「ユリー・ライラック」
「ゔぇっ」
ユナは嗚咽する。嗚咽しながら、このもふもふのふうちゃんを汚すわけにはいかないと、その一心でなんとか耐えている。
その様子を感じ取ったふうちゃんは、ユナの安全も考えて街のほうへと方向を変えた。
「ふう、ゔっ…、ふうちゃん、待って」
「ホウッ」
それは、反抗の眼差しだった。ふうちゃんから見ても、あの赤紫の目をしたバウハウンドは危険だと感じたのだろう。ユナの体調もよくない。
それは、ユナにも伝わってくる。
「ふうちゃん…。でも、師匠が、師匠のところに行きたいの!!」
「ホウ…」
死を目の当たりにして、反射的にこみあげてきた気持ち悪さが過ぎ去ったユナに、次に巡ってきたのは、引きずられてきたのは、両親と、にーちゃんー偽神ーのことだった。
「私、もう誰も失いたくない!!」
「ホウッ!」
ユナの強い心に呼応するように、またふうちゃんは反転し、人間を探し始めた。どこか、契約のその先で、るーちゃんも呼応したような気がする。
ユナは、心を落ち着けて、途切れてしまった探知を再開した。
「人間の探知の仕方は、なんとなくわかった気がする…。ふうちゃんもお願いね!」
「ホウ!」
月はまた雲に隠れた。二人は闇の中で探し始める。
「死んでないよね…、師匠」
~~~
レンのパーティー、【ユリー・ライラック】は、追われていた。
「ジュン!カバー!!ぐっ!!!」
レンの声が響く。と同時に、バウハウンドが駆け寄ってきたのを左手のシールドで受け流す。
呼ばれたのは【ユリー・ライラック】の一人、ジュンゴだ。
「オウッ!!」
【鉄壁】のスキルを持つジュンゴは、自身の背丈と同じくらいのシールドを軽々と持ち上げるタンク役だ。レンの声に応じて、即座にその役目を果たす。
「ゥラアッ!!!」
突っ込んできた三匹のバウハウンドをまとめてはじき返した。
「ありがと!」
それに感謝を述べたのは、同じく【ユリー・ライラック】の一人、トウカだ。ふんっと力を入れ、【剣舞】のスキルには似つかわしくないほどの大剣を凪払い、噛みついていたバウハウンドを吹っ飛ばす。
「よいしょ!!っと。うちらとはちょっと相性悪いかなー」
「そうだな、ヨウコ、足止め頼めるか」
「うん」
【水魔法】のスキルを持つヨウコは、地面に手を付け、バウハウンド(?)の足元に魔法を放つ。魔法が通り抜けたところが、水を含んでドロドロの沼へと変化していく。だが、バウハウンド(?)は即座に気づき、沼が到達する前に軽々とかわした。
「魔法の察知能力も高いのか…」
【ユリー・ライラック】の四人のメンバーが一か所に集まる。
「あちゃ、ますますだねー」
【ユリー・ライラック】は大剣と大楯を擁するパワー型のパーティーだ。スピードが早いバウハウンド(?)とは相性が悪い。それをカバーする【水魔法】も察知されるとなると、いよいよ窮地だった。
「…ごめんなさい」
「いやいや、ヨウコは悪くないから!レンの作戦が悪いのよ」
「…そうね」
「いやいや!俺っちも頑張ってるからね!?」
「おしゃべりが過ぎる!くるぞ!」
ジュンゴが言うや否や、また数匹のバウハウンド(?)が体当たりをしてくる。
「グッ!!ッラア!!」
「ハッ!!」
またしてもジュンゴが振り払い、それを潜り抜けた一匹をトウカがタイミングを合わせて切る。
「鉄くらいなら切れるはずなんだけど、ねっ!!」
またしても牙で受け止められた大剣を振り払い、バウハウンド(?)を吹っ飛ばす。
「で、実際どうなの?レン!」
別のバウハウンド(?)数匹が、またこちらへ向かってくる。このままではジリ貧だ。
「撤退だ。それは決まってるんだけど、どうしたものか…」
バウハウンド(?)がまたまさに体当たりをしようとしたその時。
「アオーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!」
森の向こうから、遠吠えが響く。
すると、バウハウンドは足を止め、その声のするほうへと駆け出した。
「あれは?あの時と同じ…」
レンは、カストルファの調査の時と、ユナが森に入っていなくなった時に感じた、あの魔物の気配を、一瞬探知していた。




