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休みがちで本当にごめんなさいm(._.)m。
これからも更新頑張って行きます!
「始まりはもう百年以上前のことだ──」
王国東部の近海に突如として新たな島が発見された。海岸線から目撃された島は、航海され尽くされた筈の海に唐突に現れた。更に奇妙なことにそれは若干だが、少しずつ王国の沿岸部へと迫りつつあったらしい。当然、王国側は非常事態宣言を発令し国内の有識者を集め対応を模索した。連日の会議の結果、一番始めに提案され実行に移されたのが魔法による島全体の詳細観測。次に最精鋭の騎士達による島への上陸調査。
しかし島にはこの島は魔法によるあらゆる干渉をはね除け遠見から観測することすら出来なかった。また島の全周を囲む巨大な結界に阻まれ空路でも海路でも上陸することは叶わなかった。そうやって王国がやきもきと謎の島に手を焼いているのを見ていた沿岸の人々は唯一、肉眼でのみ視認を許すこの島を『絶魔』の島と呼ぶようになる。
絶魔の島はその外見にも奇妙な特徴が幾つかあり、何故か自然の樹木が生えている大地に鈍く光る金属で出来た装甲板のようなものが貼り付けられていたのだ。金属は島全体を覆う規模に及び、その様はまるでこれが人工物であることをこれ見が良しに主張するかのようだったという。
他国の送り込んだ古代兵器か、もしくはかつての機械文明全盛期に作り出された人造魔獣か、はたまた何かの古代施設か。喧喧囂囂ともはや王国全土を様々な噂が飛び交い、あれは何なのだと日々王城の会議室から場末の酒場でまで人々の激論が交わされていたそうだ。そんなこんなで、ついには新聞や雑誌等も面白可笑しく騒ぎ立てては流れに便乗し出し、いよいよ収集の着かなくなった頃。
絶魔の島は忽然と姿を消した。
王国上層部は事態の急変に慌てて島の行方を探したものの、対した成果を上げることは出来ず捜索開始から一週間ほど経っても結局、消息は分からず仕舞い。騒ぎは一瞬加熱したものの徐々に下火となり、程なくして鎮火したのだそうだ。
そうして人々が騒ぎを過去のものとし、意識の外に置き始めたそんな折、またも突如として絶魔の島は現れた。しかも今度は沿岸部に接する形で海底より浮き上がってきたのだ。
前回の騒ぎの再来かと新聞、雑誌各社は準備に勤しみ人々も大いに盛り上がる。これは何だ、何が目的だ。そんな好奇心を満たすような刺激的な文章が記事原稿に躍り、人々は挙ってそれを買い漁ってはあーだこーだと井戸端会議を開く。
そういう展開を誰もが予想したが、果たしてそうは成らなかった。何故か、簡単な話だ。
今回はその正体も目的についてもこれ以上ないほど明確に示されていたからだ。
「宣誓ッ! 我々、超古代機械国家『グレムリン』は現国家元首、機巧王ハーロット様の名の元に、現行の全ての国家に対してここに宣戦を布告するッ!」
その台詞と共に目映い閃光、遅れて雷鳴が疾り王国東側の沿岸部は一夜にして焼け野腹となった。
突然現れた超古代文明の後継者を自称する国家からの奇襲じみた宣戦布告と先制攻撃の雨に、王国側は混乱しまともな反撃もままならないまま、首都カンタルまで攻め込まれてしまう。
彼らの掲げる大義名分は、超古代文明唯一の後継者足る自分達を差し置いて、各国が不当に長年利用してきた古代の施設や機材、またその技術と技能の全てを正義の名の元に奪還する、というものだ。
古代文明の崩壊から800余年、誰も持ち主の現れなかった落とし物を今さら来て全て私のものだから余さず返せ、それについて学んだ技術や技能も放棄しろ等と言われて納得する拾い主などいる筈がない。
また感情論を抜きにしても古代文明の施設や技術は、中には放逐されているものもあるが、そのほとんどが国家の運用や人々の生活に密接に関わっている。放棄しろと言われて容易く手放せるものでもないのだ。
各国は緊急に会談、協議の上で何とか体勢を立て直して首都カンタルを守死し続けている王国へ大規模の連合軍を送り込み、グレムリン軍打破へと舵を切った。
未知なる兵器を多数、戦場へと投入し一人一人が文字通り一騎当千の力を発揮するグレムリン兵ではあったが、数では三十万にも昇る連合軍に対して立ったの百五十程度とその差はなんと二千倍にもなる。勿論、兵の損耗率には大きな隔たりがあるものの、辛うじて両者の戦力は拮抗していた。
そして戦端が開かれてより約半年、未だ遅々として前へと進まない戦線に業を煮やしたグレムリン国王・機巧王ハーロットは更なる超兵器の起動を断行。現在では詳細は不明だが、沿岸部へと使われたものと同種のものと認識されているそれ。
再度放たれた前回よりもより目映い輝きと轟音がカルタンのおよそ三分の一を消滅させ、首都に詰めていた連合軍の半数も巻き込まれ死亡した。
そして、それに合わせたグレムリン軍の侵攻を半壊した連合軍が阻める訳もなく長らく抵抗を続けていたカルタンは僅か三日の後に陥落。住民達はその大半が問答無用に処刑されたという。
大敗を喫し大陸中央、当時はまだ帝国成立以前の小国家郡まで退却した連合軍は体勢を整えると再度、カルタン奪還を試みるも王国国境に配置された結界装置に阻まれ断念。その後、勇者リオネルと聖騎士ラザロが歴史の表舞台に姿を表し機巧王ハーロットを打倒するまでの十年間、ミレグリア王国は機械国家グレムリンによって恐怖と屈辱にまみれた支配を受けることになる。
「もう十分だな」
そこまでだ、と何だかんだノリノリでらしく語っているジェイルを止めるマリス。
「はぁ!? ここからが良いところなんだぞッ!?」
勇者リオネルと聖騎士ラザロについて話させろと磔にされたまま、ガタガタと身を揺するジェイルを無視して部屋を出ていくマリス。
「おいッ! ちょっと待てッ!? せめてこれ外して──」
バタン。
後ろ手に扉を閉めたマリスは、キッチンに向かうと備え付けの冷蔵庫を開け中から『美味しいヒーリングオイル・アイスコーヒー味(微糖)なる怪しげなパッケージの書かれた缶を一つ手に取る。
(グレムリン……百五十人の兵士……ハーロット)
機巧王という耳馴染みの無い単語さえ外せば、意外とそれはマリスの記憶に刻み込まれたものばかりだった。
プシュッと飲み口を開けキンと冷えた液体を喉の奥へと流し込むと、口の中に広がる独特の爽やかな苦味とほんのりとした甘味が、熱くなっている頭をスッと冷やしてくれる。
(ハーロットってあの我儘馬鹿王子(笑)のことか)
「頼むッ! 外してくれッ! トイレぇ、トイレに行きた──あっ」
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