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昨日投稿出来ずすいませんでした。お詫びと言ってはなんですが、時間のとれる日に二話投稿出来るよう準備していきます。
平地の端に立ち、手のひらを虚空へと伸ばすマリス。本来必要の無い動作だが、対象を視覚的に捉えて誤発動を防ぐため、それとチャイチェへの魔法使い演出のためにあえてポーズをとる。
[簡易拠点作成開始]
マリスの手の先から放たれる黄土色の光。それが土地の丁度中央にあたる地点へと根付き、波紋のように波打ちながら全体へと広がっていく。
〈面積、地質分析開始。完了。作成開始〉
土地に満ちた光が徐々に沈み込みその分だけ地面が消えるように抉りとられていき、あっという間に五メートル近く。
その様をはわーと口を開けたチャイチェが覗き込んでいると、大穴の底の光が強烈に輝き出す。
「うひゃっ!?」
光に目を焼かれたのか、両手で顔を覆いひっくり返るチャイチェを尻目に、光は輝きを抑え出しそこからガガガガと轟音を立て始める。
やがて音が止むと、今まで地面に潜っていたのか光から何かが浮上してくる。
それは建築と言うにはあまりにも乱暴な現象だ。文字通り建物が直接生えてきているのである。音もなくニョキニョキと伸びたそれは近未来的な意匠と銀の外壁を持つ、ただの家屋というよりも最早特撮作品に登場する秘密基地とでも言うべき三階建ての建造物。
最後にガタンッと重たい音を残して地中からの光は消え、建造物だけがその場に鎮座した。
「すっごーい! すっごーい!」
いつの間にか目は良くなったのか、ぴょんぴょんと跳ね回って感動を表現するチャイチェ。まるで兎人のようなその姿に込み上げてくる笑いを噛み殺しつつ、マリスは告げた。
「良いものが見れただろう?」
「はい! とっても良いものでした!」
ぴかーと笑いながらもぴょんぴょんと跳ね続けるチャイチェ。長い耳も相俟って一層見えてくるその姿に、今度は堪えられなかった。ぷっと決壊したダムから溢れ出る水の如くマリスはハッハッハッハッとと大口を開けて笑ってしまった。
酷いです酷いです酷いですー! 私は兎じゃありませんよ!?等散々にマリスへ文句を言った後、すっかりブー垂れたチャイチェは「お父さんに言ってきます」と言い捨てて帰ってしまった。
「でも笑ってるところ初めて見れた」
最後に何故か笑顔でぶつぶつと呟いていたが、それを聞き取ることは出来なかった。
(少し悪いことをしてしまったな)
小さな大工によって作られる簡易拠点は全自動の武装整備室、小規模ナノマシン生成室、低級機人用回復アイテム製造室が備え付けられている一階、寝室やリビング、キッチンが置かれている主な生活スペースとなる二階、そして通信設備が設置されてある三階からなる。
一階の整備室に松竹梅セットを預け非戦闘用衣服に着替えたマリスは、久しぶりに身軽になった身体の各部をチェックするようにゴキゴキと異音を立てながら、二階のリビングでストレッチをしていた。
(流石に笑いすぎた)
チャイチェへの態度を反省しつつ30分、漸く身体が異音を立てることはなくなりストレッチを止める。
(疲労回復スキルだけでは、身体的疲労を補助しきれていないな)
実際に装備を脱ぎ動かしたことで、軽度の違和感を覚えた。長時間、硬質の装備に身を包んでいたための無意識の筋肉の凝りや間接の強張り。ちょっとしたストレッチによって解消出来るものでしかないが、それは明らかなゲーム内との相違点だった。
(ゲームのスキルを現実に即したものとしたことで生まれた齟齬か、それともこの異世界のスキルがそうしたものであったためにそちらへ改正されたのか。今の時点では確かめようもないが、こういうことは今後も起こるかもしれない。少なくともスキルを過信してはならないな)
答えの出ない疑問より現実的な注意を自らに言い聞かせ、寝室──三つあるうちの一つへ足を運ぶ。
ドアを開けると中は広さ四畳半程で壁や天井、家具に至るまで全体的に外観と同じく近未来を思わせるようなメタリックな配色をしている。入り口から一番遠い位置に寄せられたシングルサイズのベットと、その横に置かれた小さな収納棚。ベットと迎え側の壁には簡素なデスクとシステムチェア、足元の側にはクローゼット。
此方はゲーム内と寸分違わぬ内装をしていることに安心感を覚えながらも、あらかじめ白竹の内ポケットから引き抜いておいた銀筒を取り出すマリス。
手の平で転がしながら少しの間見つめると、銀筒の丁度中程についている小さな開け口へ指をかけ、パキっと軽く力を込めて開けた。そしてその状態の銀筒をベットへと放り投げる。
すると──。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?!?」
銀筒の開け口──アイテム名『簡易休眠カプセル(極小)』のハッチから絶叫を上げながらジェイルがポケットなモンスターよろしく飛び出てきた。
「ッ!?!?!?」
ベットへと落ちたジェイルはその態勢のまま、我が身に起きた理解不能な現象に声も無く驚愕し、混乱しきっている。その様にまたも決壊しそうになるダムを補強しながらマリスはベットへと近付いた。
「やっぱり面白い奴だな。お前は」
感想よろしくお願いいたします。