【4部】第40話「到達」
ここで止まれば、まだ選ばなくて済む。
振動が、切れる。
NOMADは動いている。
だが、その動きはもう繋がっていない。
入力。
停止。
遅延。
微動。
ひとつの操作が、ひとつの結果に結びつかない。
操縦桿を握る。
応答はない。
わずかに遅れて、別の結果だけが残る。
「……」
LOGは沈黙している。
表示もない。
補助もない。
あるのは、今の操作と、
その結果が残るかどうかだけだ。
前を見る。
空間が重なっている。
都市。
荒野。
光の構造。
どれも、そこにある。
どれも、決まっていない。
機体を進める。
——進んだ。
次の瞬間、同じ場所にいる。
進んだ軌跡と、進まなかった軌跡が、
同時に重なっている。
「……いい」
言葉に意味はない。
ただ、進む。
それだけだ。
距離が、曖昧になる。
ゼロ塔は見えている。
だが、近づいていない。
近づいた結果が、残らない。
操縦桿を押す。
機体が前へ——
出ない。
完全に止まる。
振動が消える。
音が消える。
入力する。
何も起きない。
もう一度。
何も起きない。
同じ操作なのに、さっきとは違う。
「……」
息を吐く。
理由は分からない。
ただ、進まない。
外界が揺れる。
都市が成立する。
消える。
荒野が成立する。
崩れる。
どれも残らない。
何も固定されない。
操縦桿を握る手が、わずかに止まる。
静止。
完全な静止。
時間が、切れる。
何も起きない。
——ここで止まればいい。
そのまま、何も決まらないまま。
「……」
指に力が入る。
離さない。
入力する。
無反応。
もう一度。
無反応。
さらにもう一度。
——遅れて。
ほんのわずかに、機体が動く。
進んだのではない。
進んだ結果だけが、残る。
また止まる。
また入力。
また止まる。
連続しない前進。
成立しない移動。
それでも、距離だけが削れる。
ゼロ塔が、視界を埋める。
巨大な構造。
形は見える。
だが、位置が揺れている。
「……」
もう一度、入力。
完全に止まる。
今度は、何も返らない。
振動も、ない。
手応えも、ない。
——死んでいる。
NOMADは、もう動かない。
それでも、手は離さない。
もう一度だけ、力を込める。
応答は——ない。
——遅れて。
一度だけ、機体が前へ出る。
それで十分だった。
視界が切り替わる。
外界が消える。
振動が消える。
音が消える。
完全な静止。
何も動かない。
何も返ってこない。
もう、二度と動かないと分かる。
前を見る。
ゼロ塔の入口。
距離はない。
到達している。
「……」
息を吐く。
何も決まっていない。
何も終わっていない。
ただ。
ここに来た。
それだけだ。
手は、まだ操縦桿を握っている。
動かない。
動かせない。
その必要もない。
その先を、まだ見ない。
見れば、何かが決まる。
だから。
ここで、止まる。
「……まだ、決めてない」
第40話「到達」了
選ぶ場所には、辿り着いた。




