【4部】第38話「限界」
正解は、消えていない。
観測も、止まっていない。
それでも――
現実は、成立しない。
視界が、遅れている。
いや、違う。
遅れているのは視界じゃない。
「結果」だ。
NOMADのコックピット内。
警告音は鳴っていない。
――鳴るべきかどうか、決まっていないからだ。
「……」
操縦桿を握る。
重さがある。
だがその重さが、今の自分のものかどうか分からない。
前方。
敵影。
――いる。
同時に、
――いない。
機影は重なっている。
同じ位置に、複数の存在が重複している。
撃てば当たる未来と、外れる未来が、同時にある。
「……撃つ」
引き金を引く。
発射音は、あとから聞こえた。
弾は、先に当たっていた。
――だが、当たっていない。
装甲は崩れている。
同時に、無傷のまま存在している。
「……」
LOGは、何も言わない。
違う。
言えない。
「正解」が複数存在し、
どれも確定しないからだ。
空間が、歪む。
いや、歪んでいない。
歪んだ結果と、歪まなかった結果が並んでいる。
機体が前進する。
進んだ。
進んでいない。
距離が縮まる。
距離は変わらない。
「……」
理解は、できる。
世界が壊れているわけじゃない。
壊れているのは、
――「確定」だ。
ノイズ。
違う。
それは声だ。
「――提示可能な最適解は、存在する」
リツ。
声は静かだ。
いつもと同じだ。
「ただし」
一拍。
「――確定不能」
表示が展開される。
軌道。回避。攻撃。撤退。
すべてが正しい。
すべてが成立する。
だから――
どれも現実にならない。
「……そう」
返す。
選ぶしかない。
理由はない。
根拠もない。
選択だけが残っている。
「観測は継続されている」
別の声。
真白。
視界の端。
いや、違う。
視界の外側に、いる。
「だが」
間。
「意味を持たない」
観測結果が並ぶ。
すべての結果。
すべての可能性。
――だが、それらは何も決めない。
「……」
息を吐く。
分かる。
正解はある。
観測もできる。
でも、それは――
現実を決めない。
機体が揺れる。
いや、揺れていない。
被弾している。
していない。
損傷ログは表示されない。
損傷が確定していないからだ。
「……それでも」
操縦桿を握り直す。
「選ぶ」
言葉にする必要はない。
だが、言う。
選択は、意思だから。
前へ出る。
進む未来を選ぶ。
その瞬間、
世界が一瞬だけ、固定される。
弾が当たる。
機体が揺れる。
距離が縮まる。
――成立した。
だが、それは続かない。
すぐに再び、分裂する。
「……まだ、足りない」
選択はできる。
だが、確定には届かない。
遠く。
ゼロ塔。
光が揺れている。
収束していない。
世界そのものが、
決められない状態にある。
「……次で決める」
それが分かる。
次。
選ぶだけじゃ足りない。
何を成立させるかを、決める。
第38話「限界」了
正解は、存在する。
観測も、成立している。
それでも――
世界は、決められない。
だから次は、
選ぶのではなく、決める。




