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正解圏外 – The Outside of the Answer – 灰歴のアリア編  作者: 咲凪すず


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【3部】第29話「崩壊」

動いた。

消えた。

残らなかった。

違う。

残すものを、

選ぶだけだ。

進んでいる。

そのはずだった。

NOMADは前へ出る。

脚部が沈む。

装甲が軋む。

推進が入る。

——遅れない。

だが。

次の瞬間。

どこにもいない。

消えたのではない。

前へ出たという結果だけが、

そこに残らない。

操縦桿の重さはある。

踏み込んだ圧もある。

だが。

機体が“いた位置”が定義されない。


アリアは視線を動かす。

通路はある。

壁もある。

光もある。

だが。

それらが、

“そこにある”という前提が、

続かない。


右腕を上げる。

駆動は応じる。

関節は回る。

装甲同士が擦れる。

振動も来る。

だが。

視界の中で右腕は上がっていない。

遅れてもいない。

止まってもいない。

上げたという結果だけが、

現れない。


戻す。

その瞬間。

右腕が上がっている。

今の動作ではない。

さっきでもない。

どの動きが、

今ここに残っているのか、

定義できない。


足を踏み出す。

床の線が三つに分かれる。

一つに乗る。

残り二つが消える。

残った一つも、

次の瞬間には意味を失う。

踏んだ場所が、

“踏んだこと”を続けられない。


NOMADの内部で、

Gが揺れる。

落ちる。

浮く。

そのどちらも同時に来る。

だが。

どちらが先か分からない。

加速がある。

だが方向がない。

慣性が残る。

だが移動が確定しない。


アリアは止まらない。

止まるという行動も、

同じように成立を失うと分かっている。


通路の奥。

リガルがいる。

いた。

いや——

“いると判断した形”が、

集まりかけている。

肩がある。

次の瞬間には首になる。

脚がある。

その位置に体がない。

“いる”と“いない”が、

同時に保てない。


NOMADが前へ出る。

出た。

その瞬間。

出ていない位置で、

装甲が裂ける。

回避したはずの軌道で、

損傷が発生する。

帳尻が合わない。

いや。

帳尻という概念が、

成立しない。


攻撃が来る。

来たように見える。

だが。

衝突がない。

衝撃がない。

次の瞬間。

離れた場所で、

同じ深さの損傷が開く。

命中という結果が、

場所を持てない。


戦闘が成立しない。

攻撃が成立しない。

防御が成立しない。

“当たった”が、

定義できない。


アリアは息を吐く。

息を吸ったかどうかは分からない。

だが。

胸の奥に圧だけが残る。


灰剣端末に触れる。

反応する。

ここだけが、

ずれていない。

引き抜く。

灰色の刃が伸びる。

発光ではない。

ただ、

“切れる余地”だけが立ち上がる。


振る。

何もない場所へ。

その瞬間。

さっきまで残っていた

“踏み込んだ結果”が、

まとめて消える。

静止する。

一瞬だけ。


アリアは理解しかける。

灰剣は、

存在を切っていない。

“残るかどうか”を、

断っている。

成立を続けさせない。


次の瞬間。

全部が戻る。

いや。

戻ったという結果だけが、

遅れて現れる。


リガルが二つになる。

並んでいない。

同時に保てない。

片方が肩。

片方が首。

どちらもリガル。

どちらも違う。


NOMADが突進する。

加速がかかる。

だが。

加速の方向がない。

前へ出た感覚だけがあり、

位置が確定しない。

コックピットが揺れる。

だが揺れた位置がない。


操縦桿が重くなる。

次の瞬間、

軽くなる。

抵抗がある。

だが入力が成立しない。

操作したという事実が、

残らない。


アリアは判断する。

ここでは。

動作と結果と位置が、

一つの出来事にならない。

世界が。

成立していない。


灰剣を振るう。

今度は、

“当たったことになりかけている軌道”へ。

刃が通る。

何も切れていない。

だが。

損傷の位置が全部ずれる。

胸部の裂け目が消える。

肩に浅い傷が残る。

その傷も消える。

残るのは。

当たったかもしれないという、

曖昧さだけ。


自由ではない。

成立しないだけだ。

だが。

成立しないなら。

固定もされない。


アリアは操縦桿を外す。

見えている線から。

正しい位置から。

わずかに。


その瞬間。

すべてが落ちる。


音が消える。

光が遅れる。

NOMADの上半身が消える。

視界からではない。

“存在として”。

操縦桿の感触だけが残る。

機体がない。

だが操作だけがある。


通路が崩れる。

いや。

通路という定義が外れる。

壁が壁でなくなる。

床が床でなくなる。

距離が消える。

奥行きが消える。


リガルがばらける。

肩だけが残る。

脚だけが遠くにある。

首が床に落ちる。

だが落ちたという結果が続かない。

全部が。

一つの存在になれない。


NOMADの下半身が戻る。

上半身がない。

次の瞬間。

逆になる。

どちらも保てない。


世界が。

成立を保てない。


アリアはその中で、

操縦桿を握る。


分からない。

何が起きているのか。

どこにいるのか。

何を切っているのか。


分からない。

だが。

一つだけ分かる。


ここでは。

存在していることより。

選んだことの方が、

先に残る。


違う。

残るのではない。

残せる。


それだけだ。


灰剣を振るう。

どこへ向けてかは、

もう定義できない。

それでも振る。


リガルの輪郭が、

今度は戻らない。

消えたのではない。

“続かない”。


通路が静止する。

完全に。

何も動かない。

何も残らない。

何も定義されない。


空間が消える。

時間が消える。

存在が消える。


選択以外、全部落ちる。


アリアは言う。

「……なくなるなら」

声は揺れる。

途切れる。

消えかける。


それでも。

次の言葉だけが残る。


「それでも、行く」


NOMADは進む。

機体がなくても。

位置がなくても。

結果が残らなくても。


一歩は残らない。

距離も残らない。

進んだ証明も残らない。


それでも。

進むと選んだことだけが、

前へ伸びる。


何も成立しない世界で。


アリアは進む。


ただ。

選ぶ。


それだけだ。


第29話「崩壊」了

全部なくなる。

決まらない。

続かない。

それでも。

選んだことだけは、

消させない。

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