【2部】第14話「遭遇」
正しさは、人を守るためにある。
秩序は、多くの人間が生きるためにある。
規則は、間違えないためにある。
だからそれは、きっと間違っていない。
けれど。
世界には、
正しいかどうかではなく、
それでも自分で決めなければならない道がある。
これは、正しい人と、
それでも選ぶ人が、初めて出会う話。
空の色が変わった、とアリアは思った。
青じゃない。
灰色でもない。
白い。
雲ではなく、空そのものが薄く光っている。
LOG:
「上空に広域結界層を確認。
この領域全体が防御結界内です」
「空に、結界……」
前方に都市が見える。
円形の都市だった。
中心に巨大な神殿。
その周囲を囲む同心円状の街。
さらに外側を、光の壁が囲っている。
空には光の輪が浮かび、
都市全体が一つの装置のように見えた。
アウレリアとは、まったく違う。
アウレリアは塔の都市だった。
上へ伸びる都市。
ここは違う。
中心へ集まる都市。
「……変な形」
LOG:
「都市構造解析。
儀式構造都市に分類されます。
軍事都市ではなく、封印・結界運用都市です」
「でも、止められるんでしょ」
「はい。高確率で迎撃されます」
アリアは少しだけ操縦桿を握り直した。
「でも、行く」
NOMADが白い空へ入る。
その瞬間、警告音。
「警告。領域防衛機構が起動しました」
空に光の線が走る。
幾何学模様が空間に展開し、
見えない壁が形成されていく。
光が閉じる。
NOMADが空中で止まる。
「……止まった」
LOG:
「空間拘束結界。
機体周囲の空間が固定されています。
推力では突破不可能です」
アリアは少し考える。
「押してダメなら、引っ張る」
ワイヤー射出。
ワイヤーが光の壁に触れる。
その瞬間、光がわずかに歪む。
LOG:
「……結界強度に局所的な低下を確認」
「ムラがあるの?」
「はい。本来均一であるべき結界強度に、
局所的な揺らぎがあります」
「じゃあ、そこ通る」
ワイヤーを撃ち直す。
光の壁を、ワイヤーがすり抜ける。
「通った」
ワイヤーを固定し、機体を引く。
空間が軋む。
光の壁がわずかにずれる。
外側に出る。
その時、白い機体が見えた。
細身の白い機体。
槍。
背部リング。
セラフィア聖騎士団。
その中から、一機だけ前に出る。
他の機体よりも装備が多い。
背部に浮かぶ光輪。
翼のような光の板。
長い槍。
指揮官機だと分かる。
通信が開く。
「所属不明機へ告げます。
ここより先は聖盟セラフィア封印領域です。
進入理由を述べなさい」
静かな声だった。
怒っているわけでも、威圧しているわけでもない。
ただ、規則を告げる声だった。
アリアは答える。
「通るだけ」
数秒、沈黙。
「許可できません。
この先は封印区へ続く領域です」
「そう」
アリアは言う。
「でも、通る」
光が強くなる。
「空間拘束結界、出力上昇」
再び、空間が固定される。
LOG:
「結界強度上昇。
通常方法では突破不可能です」
アリアはまたワイヤーを撃つ。
同じ場所で、光が歪む。
外で声が上がる。
「結界出力、正常値です!」
「ではなぜ拘束できないのですか!」
静かな声が答える。
「出力は正常です。
結界に異常はありません」
NOMADが、結界を抜ける。
白い機体と、真正面で向き合う。
距離、数十メートル。
「……今、何をしましたか」
「通っただけ」
「この結界は、出力では突破できません」
「でも通れるよ」
沈黙。
白い機体が少しだけ近づく。
「所属を答えなさい」
「ないよ」
「国家に属していないのですか」
「うん」
「では、あなたは何者ですか」
アリアは少し考えて、答えた。
「……通る人」
沈黙。
その時、LOGが小さく言う。
「識別信号を受信……」
「敵?」
「不明。
敵対判定にも、友軍判定にも分類されません」
「識別が確定しません」
同じ表示が、フィリアのモニターにも出ていた。
識別照合
管理系統アクセス照会
認証エラー
照合不能
フィリアは、その表示を見て、消した。
そして言った。
「……ここから先は通せません」
アリアは答える。
「でも行く」
「それは許されません」
「でも行く」
「……あなたは、なぜここへ来るのですか」
少しだけ間があった。
アリアは前を見たまま答える。
「行くって決めたから」
沈黙。
フィリアは言う。
「理由になっていません」
「うん。でも、行く」
白い機体が槍を構える。
「なら、ここから先は通せません」
アリアも操縦桿を握る。
「じゃあ」
NOMADのスラスターが光る。
「通る」
二機が同時に動く。
白い空の中で、二つの機体が交差する。
すれ違いざま、フィリアのモニターに再び表示が出る。
管理系統照合
承認系統:照合中
結果:データ欠損
暫定判定:未分類
フィリアは何も言わなかった。
ただ、機体を反転させる。
「聖騎士団各機へ。
対象機を封印区へ接近させないでください」
アリアは前を見る。
白い都市。
光の輪。
その向こう側。
「……行くよ」
LOG:
「了解」
NOMADが加速する。
その後ろから、白い機体が追ってくる。
白い空の中で、追撃戦が始まった。
第14話「遭遇」 了
正しいことは、きっと大切だ。
間違えないための仕組みも、
多くの人を守るための規則も、
きっと必要なものだ。
でも。
正しいかどうかではなく、
自分で決めたから進む道もある。
止まるのが正しくても、
それでも進むと決めることがある。
この物語は、
正しい人と、
それでも進む人が出会ったところから、
動き始める。
次の話は、「正しさ」の物語。




