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第9話:王都で冒険者活動をしました(2)

空中でワイバーンを殴り、地上に戻ってきた私は自分が今どこにいるか把握しようとした。

さっきまでいた山があっちにあって、ワイバーンが飛んだ方向はこっちだから、王都は向こうかな?

そろそろ夕方になるし急いで戻ろう。


身体強化をしながら王都がある方向に走っていた私は、馬車が盗賊に襲われていることに気づいた。

なんというタイミング。

まずは状況を把握しないと。私は気づかれない程度に近づいて物陰に隠れた。グンマジンの私は目がやたらといいので、近づきすぎずに観察できる。魔法も使わないからバレにくい。


襲われている馬車は、一見すると派手ではない。

しかし、よく確認するとしっかりしたと作りで、細部まで手がこんでいる。

防御力も高そうだ。


盗賊に応戦している護衛についても、見た目こそ高級ではないけれどしっかりとした作りの武器や防具を使っている。練度も非常に高く、味方との連携の仕方も冒険者というよりも騎士のそれだ。

たぶん、高位貴族のお忍びかな。


盗賊のほうが人数が多いとはいえ、護衛の方が優勢で。このまま私が加勢しなくても大きな怪我人も出さずに無事に乗り切れるだろう。

それでも、王都まではこの道を通るのが最短だし、これも何かの縁だと思って加勢に入ることにした。


ただ、平民冒険者のアテナとして高位貴族と接点は持ちたくないし、年齢を誤魔化して登録したからマーサだとバレるのも避けたい。

そこで、私はとあることを思いついた。



「そこで襲われている馬車のみなさま!困っておられるとお見受けしました!不肖わたくしめが加勢いたしますわ!」


護衛たちは、なんだこいつは?という目をした。


「怪しいものではありません!たまたま通りかかったので、義によって助太刀いたします!」


そこには、なぜか仮面を被った少女が立っていた。めちゃくちゃ怪しい。仮面をつけた見知らぬ少女がいきなり現れて、急にこんなことを言い出したら控えに言っても怪しすぎる。


怪しい少女ことマーサは顔を隠すことにしたのだ。マジックバックから仮面を取り出して被っていた。幻惑魔法を掛け直し、髪の色も変えている。武器もショートソードをしまって、ガントレットを装備している。肉弾戦をする気満々だ。


護衛側も、怪しさは拭えないがこの少女が敵ではなさそうだと判断したらしく、ノリもいいようで、茶番っぽい口調にものってくれた。


「おお!どなたかは存じぬが助太刀感謝いたす!ともにこの悪党どもを懲らしめようではないか!」


マーサは身体強化魔法を自分にかけて戦闘に飛び込み、護衛たちと一緒に盗賊を撃退した。


戦闘が終わり、先ほどのノリの良かった護衛が話しかけてきた。


「この度は、危なかったところを助けていただきありがとうございました」

「いえいえ、当然のことをしたまでです。それでは道中お気をつけください」

すぐにその場を去ろうとした私を見た護衛は、私が訳ありであることをすぐに理解してくれたようで、深く聞かずに見送ろうとしてくれた。気が利く。


その場を離れようと歩き出したところで、別の護衛に呼び止められた。

「お待ちください。我が主が、貴方様に直接お礼をお伝えしたいそうです」

せっかくシレッと帰ろうと思ったのに、、、


どう答えるか考えていたら、品のある振る舞いで馬車から降りてきた女の子に声をかけられた。

「それほどお時間は取らせませんわ。皆を守ってくれた恩人のかたに一言感謝をお伝えしたいだけです。素敵な仮面もそのままで結構ですよ」

ニコッと笑っている様子は可愛らしいが、これはあれだ。人の上に立つ側の人間の笑みだ。しかも、メガネをかけ、幻惑魔法で変装しているように思う。私の中の危機感が大きくなる。

当たり障りなく答えよう。

「仮面への配慮ありがとうございます。加勢については当然のしたことをしたまでです」

「ご謙遜を。何かお礼の品を送りたいのだけど、希望の品はありますか?」

おそらく引き込み?

「お気持ちだけで、十分です」


頭をさげつつ、私は改めてその女の子をみた。グンマジンである私の精神力だと素の状態でも幻惑魔法に耐性があるのだけど、今回はそれが裏目にでた。幻惑魔法の効果が薄れ、見えた素顔には見覚えがあった、第一王女のエフィー殿下だ。私が今の状態で会うとかなりまずいお方だ。


「そうですか・・・せめてお名前だけでも教えてくださらないかしら」

相手が王女殿下だと認識した直後だったので、私は咄嗟に淑女の礼をして名乗りそうになった。まずい。

「名乗るほどの者ではございません!」


私はすぐにその場を離れた。


第一王女のエフィーはその様子を見て目を細めた。名前を尋ねたときに、咄嗟に淑女の礼をしそうになった彼女。仮面で素顔はわからないけど、幻惑魔法で変えていた髪色は本来銀色だろう。王族は立場上、幻惑魔法や精神干渉の魔法に対する訓練をうけている。


エフィーは近くにいた護衛に声をかけた。

「国の諜報部に頼んで先ほどの少女が誰なのか調べてちょうだい。幻惑魔法を使って変装していたけど、本来の髪色は銀色ね。淑女の礼をしそうになっていたことを考えると、貴族の令嬢が立場を隠して冒険者登録しているのだと思うわ。それと、私が誰かわかっていた様子ね。宮廷魔法師が私にかけた幻惑魔法と、メガネの認識阻害効果も見破ったということだから、実力も高いと思う。味方にしたいわ」


今日会ったのがムーノ王子だったら、ここまでばれなかっただろう。エフィー王女は有能である。

しかし、マーサからお願いされた父ルイスが対策をしたため、例の冒険者の名前がアテナということまではわかったが、それ以上の捜査は難航することになる。

逆にそのことにより、エフィー王女はアテナの素性が、国の諜報部の捜査を撹乱できるほどの高位貴族の令嬢だろうと絞り込むことになった。



マーサは、大変な目にあったと思いながら王都に到着した。王族が幻惑魔法に耐性があることを知っているので、幻惑魔法が苦手な自分の魔法では効果がなかったかもしれない、幻惑魔法が得意なアルマがいれば、と後悔していた。


依頼完了報告のためにそのままギルドに向かったら、依頼を受けた時のギルドのおじさんが対応してくれた。


「嬢ちゃん!無事で良かったよ!怪我はないか?大丈夫か?」

「怪我はしてないよ。大丈夫大丈夫。おじさんが色々教えてくれたから、ワイバーンもすぐに見つかったよ。はいこれ尻尾」

1メートルほどあるワイバーンの尻尾をマジックバックから取り出し納品した。


依頼主の女性もいた。順調にいけば今日の夕方くらいにはアテナが戻ってくるだろうと、ギルドのおじさんが伝えていたようで待っててくれたようだ。

「アテナちゃん、今回は本当にありがとう!なんてお礼をいっていいのか」

感極まったのか、泣き出してしまった。


ギルドのおじさんと一緒に依頼主の女性を宥めているとギルドのドアが開いて、私と同じ歳くらいの女の子が入ってきた。ギルドの中をキョロキョロみわたして、こっちに歩いてきた。


「お母さん!」

例の娘さんね。確かにかわいいわね。髪はストロベリーブロンドで、ヘーゼル色の瞳をしていて、胸も膨らんできているようで女の子らしい体付きだ。

「ファウナ、どうしたの?」

私は自分の耳を疑った。えっファウナ?

「お母さんが遅いから心配だったの。ここ数日全然休んでないじゃない。ワイバーンの肉も常連の冒険者のお姉さんがお店に来たらお願いしてみようと思うの。この前Aランクになったって言っていたから、強いと思う。それに、もしダメでも私が我慢すればいいだけだから」

ファウナと呼ばれた女の子は俯きながらほほえんだ。

「大丈夫よ!隣にいるアテナちゃんがワイバーンの肉を取ってきてくれたわ!それと、あんなやつに大切な娘をやるくらいなら、どこか遠くの街に行きましょう!」


私とギルドのおじさんは、空気を読んで親子の会話を見守っていた。


ファウナと呼ばれた女の子は私の方を向いてぺこっと頭を下げた。

「アテナちゃん、今回は本当にありがとうございます。なんてお礼をいっていいのか」

お母さんと同じようなこと言っている。微笑ましい。

「すでに報酬は受け取っているから気にしないで」

私は気になっていたことを聞いてみた。

「パン屋さんをやっているみたいだけど、お店の名前はなんていうの?」

「レイニーベーカリーです!お父さんとお母さんが作るパンは美味しいの!」

笑顔が眩しい。


そう、レイニーベーカリーというパン屋さんの娘で名前はファウナというのね、、、

ゲームの聖女じゃないですか。いきなりの遭遇でびっくりした。


ムーノ殿下と聖女の仲を疑った私が嫌がらをしたという噂を流されるのでしたっけ。実際は、貴族に慣れてない彼女への真っ当な指摘だけど女スパイに利用されちゃうのよね。私と同い年だけど、遅れて洗礼を受けるから、今はまだ聖女の自覚はないのよね、たぶん。


確か、女神様から教会の神官への神託により、聖女のスキルを持つ少女がユースティティア国内にいることが明らかになり、以前より多く共同洗礼式が開催されるようになって、そこで聖女だとわかるんでしたっけ・・・?


それはそれとして、将来のために悪役令嬢になりそうなフラグは折っておきたい。

「ファウナちゃん。貴族に関わると大変なことになるかもしれないことは今回の件でわかったと思う。今後の為にも、貴族のことは勉強しておいた方がいいわ」

ファウナはきょとんとしていたけど、根がいい子なのか、素直にうなづいた。

「うん、そうするね!」


例の男爵のことは匿名で通報しておこう。もともと、権力をひけらかすだけでたいして国に貢献していない人だから、貴族として不適切だし。



私はギルドから出て久しぶりの王都の様子を見渡しながら、家に帰るために歩いている。

「ふう、今日1日で王女様と聖女と会うなんて。なんか疲れたわ」

「充実しているようで何よりだわ。元気でね」

誰っ!?すれちがいざまに女性に声をかけられたと思ったけれど、振り返ってあたりを見渡すと誰もそれらしき人物が見当たらなかった。


独り言に反応する声が聞こえるなんて、やっぱり私疲れているのかな?早く帰って寝ましょう。

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