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第56話:エピローグ

「エフィー様、私もう40歳ですよ?さすがにこの格好は・・・」

「マーサ様!何をおっしゃっているのですか!かっこいいじゃないですか!心は常に少年少女にようにありたいではないですか!」

「心だけでいいのではないでしょうか・・・」

「そうは言わずに!アルマ様からも言ってください!」

「えっ?わたしですか?マーサ様、諦めてください」

「アルマ!?」


私はすでに着替えを終えたファウナとレイラ様の方を向いた。すると、若干厨二病っぽい衣装をきた2人から目を逸らされてしまった・・・!覚悟を決めた私は着替えを終え、依頼者のもとに向かった。


私たちは、アメリア南部にある米農家に着いた。今回は、久しぶりにみんなとの交流をしつつ、お忍びでファントムとして依頼を受けることにした。


米農家さんの家から若い女性が1人出てきたので、エフィー様が話しかけた。


「あなたが依頼者さんですか?」

「そうよ。ケイディーというの、よろしくね。引っ越しまえに、米の収穫と魔物の間引きをしたいと思ってるのよね。あなたたちが依頼を受けた冒険者さんたちで合ってる?」

「そうですわ」

「早速で悪いんだけど、作業をお願いしてもいい?」

「わかりましたわ!」


やる気満々のエフィー様を筆頭に、私たちは田んぼに向かい作業を開始した。ファウナが日焼け避けの結界を田んぼ全体に展開しているけれど、この農家さんの土地って相当広いと思うのだけど・・・。


「わたしとアルマさんは魔物を討伐してきますね」

「お願いしますね、レイラさん」



依頼分の作業を終えた私たちは、ケイディーさんの申し出によりご飯をご馳走になっている。

歓談を楽しんでいると、家のドアがノックされた。


「ケイディーいるか?魚を釣りすぎてしまったから分けにきたぞ。ついでに引越しの準備も手伝ってやる」

「あらウィリアム?入ってきていいわよ」

「邪魔するぞ」


ウィリアムと呼ばれた男性は家に入って私たちの姿を見て驚いたように目を見開いているけれど、どうしたんだろう?不思議に思っていると、ケイディーさんが紹介を始めた。


「みなさん紹介するね!この野暮ったいのがわたしの弟のウィリアム!たまにこうして釣った魚をわけにきてくれるわね」


弟紹介を受け、思わずという雰囲気で、聖女のファウナが口を開いた。


「ケイディーさんと、ウィリアムさんというのですね!ご姉弟で、開拓の聖女様と、初代スパイン帝国の皇帝と同じ名前なんですね!」

「そうそう!」

「伝承によるとあのお二人はライバル関係で会うたびに殴り合っていたそうですけど、お魚を分けにいらしたり、お名前が同じなだけでお二人は仲が良さそうですね」

「さすがに会うたびに殴り合うのは伝承されるうちに盛られたんじゃない?でも仲良く見える?よかったわね、ウィル!」

「おい、ケイディー。話がある」

「もうしょうがないわね。あっ、みなさん!ちょっと弟のウィルと話してくるから楽しんでて!台所にあるつまみと味噌汁は好きに食べてね!」


マーサたちを家の中に残し、ケイディーはウィリアムとともに家からでた。そして、田んぼが見渡せる椅子に腰掛けた。


「ケイディー。なぜ、独立後のアメリア共和国の初代首相、アメリアの首都オールドミルの知事夫人、スパイン帝国の皇后、ユースティティア王国の王妃、ユースティティア王国騎士団長夫人がお前の家にいるんだ?」

「米農家として冒険者に依頼を出したら、たまたま彼女たちがきたわ!」

「おい。どれだけ悪知恵が働くんだ」

「まぁ細かいことはいいじゃない!それと、機転がきくって言ってほしいわね、弟のウィル君?」

「おい!!俺はそれを聞いて鳥肌がたった!!!なんだその設定は!」

「だって、あなたが嫌がると思って?」


ウィリアムは思わず殺気を纏ったが、マーサたちがいることを思い出してすぐに冷静になった。


「・・・まぁいい。しかし、もう2度と呼ぶな」

「はいはい。それで、今日はどうしたの?」

「魚のお裾分けと、引越しの手伝いだ。たまたまきてみたら・・・」

「まぁまぁ、いいじゃない!それにしても、引越しの手伝いをしてくれるなんて思わなかったわ」

「西大陸に行くのだろう?その餞別も兼ねてな。先代の忘形見だからか?」

「うーん、あの人たちはそれを嫌がるでしょう。単純に開拓がしたいからよ。美味しい食べ物がわたしを呼んでいるわ!」

「わかっていると思うけど、やりすぎるなよ。他に方法がなかったとはいえ、西大陸の戦争を止めるために先代が直接この世界に干渉した代償は」

「わかっているわよ。ただの一般市民として移民団に混ざるだけよ。時期をみて行方不明にでもなるわ」

「そうか」


少しが間が開き、ケイディーが口を開いた。


「みんなを放置しすぎるのもあれだし、家に戻らない?」

「そうだな。それにしても、俺のお姫様の前世と同じ40歳になったお前のお姫様の成果はとんでもないな。器が違かったのだろう」

「あなたのお姫様のことだけど、この世界のためにそういう人材を選んだんじゃないの?」

「それもそうだな」

「それと、わたしのお姫様だけじゃなくて、アイフィルトとエフィーもよくやってくれてるじゃない?やっと、あなたが望んだスパイン帝国になってきてよかったわね」

「余計なお世話だ!」


2人がドアをあけて家の中に入るとマーサが勢いよくケイディーに話しかけた。


「あっ!ケイディーさん!!このお味噌汁ってどうやって作ったんですか?味噌はどこで買ったんですか??もしも手作りだったら対価はしっかり払うのでレシピを教えてもらえたりしませんか・・・?」


アルマ、ファウナ、エフィー、レイラはマーサの様子を見て、内心首を傾げていた。確かに、マーサは食に対する探究心が強い。

スパイン帝国の侵略戦争の後、1年間の旅行の間に食べた料理や食料をまとめ出版したグルメ本は、世界中に広まり、今や世界中の食を開拓した最初の1冊と呼ばれている。西大陸の開拓の先遣隊に自ら参加し、様々な食べ物を発見してもいる。

しかし、料理人や相手に敬意を払ってレシピを教えて欲しいと言った場面をみた記憶がなかった。さらに、今や味噌はアメリアでも探せば見つかる上に、目の前のマーサの様子は普段とは明らかに違っている気がする。


「あら?そんなに気に入ってくれたの?けどごめんね。この味噌はここから遠い極東の小さい村で、廃業直前の味噌屋さんからたまたま買ったからもう残ってないし、レシピもわからないわね」

「そんな・・・」



しばらくして、ファントムを見送ったケイディーはウィリアムと手分けして引越しの準備をしていた。


「それにしてもさっきは焦ったわね。本当はわたしの手作りなんだけど、日本人なんだから味噌汁の味の違いがわかるわよね」


ケイディーは目を閉じて、世界の管理者の後継者の話をしたときの紗都が言った言葉を思い浮かべていた。


「私の前世の人生は短命で終わってしまいました。それもあって、この世界では1人の人間として、しっかりと人生を満喫したいです。だから」


目を開けたケイディーの紗都が収穫を終えた田んぼを見つめる目は優しげだ。

(そうよね。1人の人間として今度こそ人生を満喫してね)


そして、田んぼに背を向けてウィリアムを手伝うために家に歩き出した。

(わたしは二兎を追って二兎とも得たわ。世界も守ったし、誰にも気付かせず、世界の管理者の制限にもふれず、さっちゃんあなたのことも)


ーーーーーーーーーーーーーー


後の世界史ではこの時代のことを、アメリアの諜報員の暗躍、ユースティティア王国の無能王子、スパイン帝国の侵略戦争、など一歩間違えれば2度目の世界大戦が起こり得た一方で、近代世界の基盤を構築した重要な時代として扱っている。


侵略戦争を仕掛けたスパイン帝国は、アイフィルト・スパインのクーデターもあり戦争に負けた。クーデターを起こして新皇帝になったアイフィルトは、当時支配下に置いていた南中央大陸諸国に自治権を与え、また希望があればスパイン帝国からの独立も許可した。

ユースティティア王国の王女エフィー・ユースティティアを妃に迎え、ユースティティア王国との関係も良好になり、当時の大国同士が友好関係を結んだため、世界情勢も安定しはじめた。

それまで圧政をしていたスパイン帝国は、その後、アイフィルと皇帝エフィー皇后の内政により、平和的な路線を歩みつつもしっかりと発展し、今では南中央大陸の中心的な国として機能している。


ユースティティア王国は、ユーノ・ユースティティアが当時の聖女ファウナ・クラークと婚姻を結んだ。国王ユーノの有能さにより国はさらに発展し、平民出身の王妃ファウナ主導で国民全体の生活水準も劇的に向上した。

騎士団長のレオ・コリンズ、騎士団長夫人のレイラ・コリンズは他国と協力し、北中央大陸を横断する国際的な交易路の開発を行なった。魔物討伐に多大な貢献をした2人の成果を讃えコリンズロードと名付けられた。

また、ユーノとファウナは国内の領主の裁量を拡大し、並行してカミラ・フラメルとともに議会を発足させた。ユースティティア王国の内政は、時間をかけて王族から議会に移行し、今では王族は象徴としての王族となっている。一説によれば、無能王子として記録に残っているムーノのような人物のせいで国が傾くのを防ぐために、王族の権力を自ら削ったと言われている。


アメリア共和国は、スパイン帝国の侵略戦争からアメリアを守りきったユースティティア王国アクトゥール公爵家の長女マーサ・アクトゥールが統治者として派遣された。マーサ・アクトゥールは、アメリアの代官の家系であったクラトス・アメルーシャと結婚し、マーサ・アメルーシャと名を改めて、各種改革を行なった。アメリアをいくつかの行政区に分けてそれぞれ知事と議会を置いた。アメリア共和国の首都でもあるオールドミルの初代知事夫人は、マーサ・アクトゥールの専属侍女であったと記録が残っている。マーサ・アメルーシャが統治者になってから10年後、アメリア内部で独立の声が高まっていたこおtに合わせ、アメリアはユースティティア王国から独立を果たし、アメリア共和国として新たな旅立ちを迎えた。その際、宗主国であったユースティティア王国と大きないざこざがなかったことから、何かしらの密約があったのではないかと言われているが定かではない。

独立後のアメリア共和国は、マーサ・アメルーシャが初代首相となった。マーサ・アメルーシャの主導により、アメリア共和国とユースティティア王国の間に大陸間経済共同条約が結ばれ、モノ・コト・ヒトの移動、経済の活性化が実現した。


一方、アメリア共和国の内政に関しては、移行期間を設けて、首相、行政知事、議会は民の選挙をへて選ばれる制度となった。初代騎士団長エシロップ・ノムアダルの意向もあり、騎士団長も数年おきに査定をうけて、能力不足と判定されれば騎士団長をおろされる。マーサ・アメルーシャの施した改革は選挙をはじめ近代の根幹を成すものが多いが、数年おきに民や審査官から能力査定をうけるという点では一致している。これは近代の民主主義の根幹にもなっている。


歴史学者の間では、諜報員であったジャンヌ・スプーキーと共に国賊として処刑された歴史上の暗君として有名な元婚約者のムーノ・ユースティティアの影響があるのではないかという説が有力視されている。ムーノ・ユースティティアの無能により、ユースティティア王国に損害が出ていたことを反面教師にし、無能を権力から極力排除する仕組みづくりに苦慮した結果が民主主義ではないか、という説が一般化している。アメリア共和国の代々の首相の間では「権力だけの無能になるな」という言葉が引き継がれているということがまことしやかに囁かれていることも、この説を後押しする。


マーサ・アメルーシャは、権力が必要以上に集中するのを防ぐためにアメリア共和国の首相は慣例的に連続では2期までしか務めることができないことを提唱し、本人も初代首相を2期務めた後は、政界の前線から退いている。

その後は、品種改良という手法を確立し、世界中の食の水準の向上にも貢献した。グルメに強い探究心をもち、数々のグルメ本の執筆も行なっていることから、学生時代の本人のあだ名である氷の女神からとって、食の女神という異名も記録に残っている。なお、スパイン帝国の侵略戦争の際に彼女が作った氷樹は今なお現存しており、民主主義の氷樹、としてシンボルにもなっている。

また、マーサ・アメルーシャは冒険者として西大陸の開拓に寄与した記録も残っており、数々の食べ物の発見などの成果があり、歴史上人物として人気を博している。



かくして、無能王子に婚約破棄をされたご令嬢は、無能を国の権力から極力排除するために民主主義の礎を築き、一方で冒険者や食の探究にいそしみ1人の人間として人生を謳歌した。

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