第1章-12
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―カーメリー某執務室外―
バカラにお願いしてからもらった棒についてだが、無駄に注文を付けてしまったため3時間程度準備に手間取ってしまった。生前では白状と呼ばれたわたしの道しるべは、どうやら白い棒のようである。白杖の音と杖からの触感を頼りに、行く先の道を示してくれた相棒-棒ではなく杖-は安易に頼んだものの、そこらの棒では賄えないものであった。太さや材質などの握った触感、長さ、重さ、杖の先が鳴らす音、それらを中心にやたらと細かく伝えてしまい、1時間経過した頃からバカラはいなくなり、侍女のピアニッシモさんは戸惑い、執事の皆さんは材木を検討し合っていた。
そんなこんなを経て、先程疲労を浮かべた執事から受け取った物はしっくりとくるものであった。杖を地面に置くと胸元までの高さ程度の長さで、先端はやや太く中ほどは削ってくれているようだ。グリップ部分は革性となっていてどの程度巻き太さを出すか検討された形跡が伺える。頼りにしていた杖を持つとやはり安心するもので、より情報を与えてくれる。目を開けて視るが慣れない情報が多く、しばらくは目を閉じる時間と開ける時間を分けながら生活しようかと考える。
執務室からきらびやかな一室に移動していた私は部屋を見渡す。もともとの住まいを見たことはなかったが、この部屋だけでも前の家の1階部分全部くらいあるんじゃないかと思う位に広い。ベッドも豪華で、壁や床の絨毯には様々な模様となっている。そんな豪華な部屋を使って良いとのことで落ち着かない気持ちになるが、ようやく落ち着いた今、これまでのことを思い出してみる。
先ず私の最期の記憶は雨の中で意識を失ったことである。だがその前に何をしていたかが思い出せない。
「たしか…大学からの帰宅途中で…。それから…」
完全に抜け落ちている記憶をどうにか思い出そうとするが、校門を出た後から意識を失う直前までが欠落している。しかし思い出したこともある。
「確か、校門を出るまでは雨は降っていなかったのになあ…」
とはいえ、現時点で思い出せないことは確かであり、兎にも角にも今現在我が身に起きていることの対処が先決と頭を切り替える。先ず私の外見は変わっている。2本の湾曲した角、紅の瞳、黒い尻尾。それ以外の差がないことは救いであり、性別や身長が変わってしまっては色々と困ることが増えていたに違いない。変わってしまったことの最たるものは視力があるということだ。これまでは聴覚と触覚を主とした上で、物事や人、場所をイメージして生きてきたが、見る情報というものは新鮮であり、心を揺さぶられる心境だが、同時に視る情報に対しての理解に時間を要してしまう。自分でいるのもなんだが想像することはとても得意であり、生前慣れ親しんだ音楽とともに自分の中でこんな色なのだろう、この人はこんな顔をしているのだろう等と思い描きながら過ごしてきたが、実際に目にする情報との違いもあり、「ああこれが赤で、絨毯ってこんな模様をしているんだあ」と見る情報に意識を取られ過ぎてしまう。もちろん、目を開けて実際の世界を見ていたい気持ちも大いにあるのだが、見えない世界を当たり前としてきた自分には相違に困惑することもあるので、それぞれの世界をリンクさせることに時間を費やそうと考える。
あと忘れてはならないのが魔法と呼ばれる力だ。前世の電気やら火や水は、自然や科学の力由来のもので、間違っても一人の少女がガスバーナーみたいに火は出せないし、冷凍庫みたいに氷を生産できる訳ではない。この力についてもバカラを筆頭にこの屋敷の人たちから教わっていこう。
「まとめると3つね。1つ目は生前の記憶を思い出すこと。これは思い出せないかもしれないけど、どのようにして、どうしてこうなったかの原因がわかるかもだからね。2つ目は見える世界に慣れること。3つ目は自分の力やこの世界について理解していくこと」
よしと思いながら、ふーと一息ベッドにダイブする。考えもまとまったところで脱力したようで、気付かぬうちにものの何秒かで眠りに落ちてしまうのであった。
初投稿となります。
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