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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第五章 オクシタン征討
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8.後始末

2週間後、クリーガーは帝国軍本部軍務局からの呼び出しを受けて首都星ルフトヴァルデを訪れていた。帝国軍本部は皇帝直属の親衛軍を管轄する組織で、その下に首都星ルフトヴァルデ及び帝国直轄領の防衛及び治安を担当する内宙軍(通称「陸軍」、各星系を防衛する警備艦隊を含む)と、恒星間を移動し叛乱惑星制圧等を任務とする外宙軍(通称「宇宙艦隊」、降下猟兵部隊を含む)、そして軍全体の予算、人事、武器開発や軍需品の購入等を管轄する軍務局が置かれている。軍全体の人事を管轄するといってもそれは親衛軍内部のことで、宰相のいわば私兵であるヴェスターブルグ軍に所属するクリーガーが帝国軍軍務局から呼び出しを受けるのは異例のことであった。

この異例の呼び出しに不安がる妻のイリーナと従者のハンスに対し「なに、なにか褒美をくれるのかもしれんぞ」と笑ってヴェスターブルグを後にしたクリーガーであったが、今回は歴史上稀にみる程の大敗である。帝国軍内で犯人捜しがかまびすしいことはクリーガーも耳にしていた。しかしながら、総司令官ヴェルニッケ侯爵初め名だたる将官は戦死するか、オーベルニュ伯の虜囚となっている。となると必然的にそれより下で生き残った将校達にお鉢が回ってくるのもあながち考えられないことではない。

(それに・・・)ふとクリーガーはギュンターローデ中佐の美しい白面が歪む様を思い出した。(坊ちゃんを殴ったしな)ギュンターローデとは戦闘後は殆ど話していない。


軍務局長執務室前で取り澄ました秘書に椅子も進められずしばらく待たされた後、部屋に通されたクリーガーはしかめ面をした老人に向かって敬礼した。「エルンスト・フォン・クリーガー・ヴェスターブルグ軍大佐です」最後のヴェスターブルグ軍、というところを強調したつもりだが、小柄で薄い白髪のベルント・フォン・デレクスラー軍務局長の興味は一切引かなかったようだ。

軍務局長は分厚い眼鏡越しにクリーガーを眺めていたが、しばらくしておもむろに口を開いた。

「今回のオクシタン征討戦役は失敗だった。従って戦役に参加した指揮官はおしなべて責任を負わねばならん」

(やはりか・・・)クリーガーは目を瞑った。総司令官と左翼艦隊司令官の未熟な指揮、対して敵の優れた艦隊運動と新兵器、そしてミスラータの裏切り・・・抗弁はいくらでもできるだろうが、上層部はそんなものは求めていない。生贄が必要で、それは特権に守られた上級貴族ではないのだ。それは今までにもいやというほど思い知らされている。クリーガーは観念しつつ考える。(せめて軍追放ぐらいで勘弁してもらえないかな)


しかしデレクスラー軍務局長の話は予想外の方向に向かった。

「・・・ところだが、貴殿に対してはさる方からの強い推薦があり例外措置がとられることとなった」

(え・・・?)目を開いて首を傾げるクリーガーに、デレクスラー軍務局長は突然大声を張った。

「エルンスト・フォン・クリーガー大佐!」

「はっ」慌てて背筋を伸ばすクリーガーを見つめ一拍置いた後、一転して静かな声で軍務局長は続けた。

「貴殿を帝国軍准将に任ずる。併せて、親衛軍への異動を命じる」

(この老人は何を言っているのか・・・?)呆然と軍務局長を見つめ返すクリーガーだったが、先程の老人の言葉を思い出し尋ねた。「あのう、さる方の推薦というのは・・・」

当然、デレクスラー軍務局長もその質問を予期していたのであろう。さっさとそっぽを向きもう話は済んだ、とばかりに手を払った。「人事じんじ人事ひとごと。その詳しい背景まで知る必要はない」それから、と老人は続けクリーガーを横目で睨んだ。

「知っていると思うが、親衛軍の人事は帝国軍本部、つまりこの軍務局、いや儂の管轄下となる。つまり貴殿は、その何といったかな」急に嫌味たらしい口調になった。

「もはやヴェスターブルグ軍とやらの所属ではない、ということだ。それを心しておけよ。儂の下でこのような特別扱いは二度とない」(ちゃんと聞いてるじゃないか・・・)心で苦笑しつつ敬礼してクリーガーは軍務局長の執務室を辞去した。

つんと澄ましながらも横目で好奇心をむき出しにしている秘書にも気づかず、クリーガーはすたすたと廊下を歩いていきながら、もう(これでイリーナを舞踏会に連れていってやれるかな)などと考えている。皇帝の宮廷で行われる舞踏会は上級貴族、あるいは軍の将官以上しか足を踏み入れることは許されない。イリーナは喜んでくれるだろうか・・・とクリーガーは考えながら、はた、とあることに気付いた。(マタニティのドレスってあるのかな?)



~第一巻 Fin~


ここまで駄文を読んでいただいた皆様、ありがとうございました。

背景の設定を考えているうちにどんどん細かくなってしまって、随分と説明臭くなってしまいました・・・。

現在、二巻目を執筆中で、8月中には再開したいと思っております。よろしければまたご笑覧ください。

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