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はいはい、美少女美少女  作者: 佐藤鈴木
3.委員長(美少女)
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4

 恐る恐る顔を上げると、正面に座る幼馴染みがすごい形相で睨みつけていた。私をじゃなくて、間に入ってきた委員長を。美少女が台無し……にはなっていないのがちょっと腹立たしい。

 でも、当の委員長は別に気にした様子もなく、自分の椅子をそっと私の席のそばに引き寄せて座った。そして弁当箱を包む可愛らしい柄の布をほどき始める。

 虫も殺さないどころか、下手したら虫に殺されそうな見た目なのに、ずいぶん肝が据わっている。もしくはものすごい鈍感なのかもしれない。

「いただきます」

 お行儀よく手を合わせて挨拶し、委員長は弁当に箸をつける。

 委員長は慎ましやかな見た目に似合わず、相当な肉食系らしかった。文字通りの意味で。その弁当箱には、今日も肉料理がぎっしりと詰められている。


「今日も肉いっぱいだね」

 思わずその場の空気も忘れて素直な感想を言った私は、幼馴染の醸しだす雰囲気がさらに緊迫したことに気づいてぎくりとした。

 そーっと横目で彼女を見ると、刺されて死にそうなほど尖った視線が今度はこちらに向けられている。なんでそんなに荒んだ目をしているのか分からないのがよけいに怖い。

「お肉好きなので」

 この雰囲気の中ではにかんだような顔ができる委員長はすごい。

 私は作り笑いで応え、そそくさと自分の弁当箱に目を戻した。


「……今日のお弁当、いつもとちょっと違いますね」

「私の力作なの! 美味しそうでしょ!」

 私の弁当を覗き込んだ委員長の言葉に、勢い込んで答えたのは幼馴染みだった。委員長は眼鏡の奥の目をちらりと幼馴染みに向け、それから私を見てにっこりする。

「お肉はいいですよね、元気が出ます」

 見た目を裏切る体育会系な発言だった。スルーされた幼馴染みの表情がますます険しくなる。

 ……もしかして、幼馴染みの今日の「気合い」は、委員長の弁当を意識したものだったんだろうか。そんなに肉料理を見せびらかしたいなら、私じゃなくて自分の弁当を肉まみれにすればよかったのに。


「何のお肉が一番好きですか?」

 眉間にしわを寄せる幼馴染みをまったく気にする様子もなく、委員長は穏やかな口調で話をつないだ。この空気をちょっとでも和らげたくて、私はその話に乗る。

「何だろう……ひき肉かな?」

 言ってから、幼馴染みお手製の肉弁当にひき肉は入っていなかったことに気づいたけど、もう遅い。

 正面から美少女らしからぬ歯ぎしりの音が聞こえる。怖くてそっちを見られない。

 でも委員長はぱっと表情を明るくして、自分の弁当箱の中身を箸でつまむ。

「ちょうどよかった、今日はハンバーグを入れてきたんです。よかったらおひとつどうぞ」

 そう言って差し出されたのは、一口サイズの小さなハンバーグだった。


「あ、えっと……」

 人の弁当をもらってもいいものか、ちょっと迷う。あと、ほっぺたあたりに幼馴染みの視線が刺さって痛い。

「……いただきます」

 でも、せっかくくれようとしているものをいらないと言うのも感じが悪いような気がした。それに、委員長のにこにこ顔が可愛い。あと、きれいに焼き目のついたハンバーグは美味しそうだった。

 素手で受け取るのも……と思って弁当箱のふたを差し出したら、委員長は微笑んだまま首を傾げた。

「そのままどうぞ?」

 そのまま……って、いわゆる「あーん」状態か? 横目で幼馴染みを見る。こっちは般若状態だった。

 でも委員長は動じる風もなく、箸でハンバーグを差し出し続けている。

 前門の委員長、後門の怒れる幼馴染み。この世界に来てからこんなことばかりだ。

「遠慮なさらずに。……もしかして、私のお箸では嫌ですか?」

 ちょっと悲しそうに眉を下げてそう言われ、私の退路は完全に絶たれた。覚悟を決め、潔くハンバーグに食いつく。


「……美味しい」

 見た目通り、とても美味しいハンバーグだった。幼馴染みに睨みつけられていることも一瞬忘れるくらいに。

「本当ですか? よかった」

 委員長は頬を赤らめて、弾むような口調で言った。ほぼ同時に奇妙な声が聞こえる。

「ぬぬぬ……」

 顔を正面に向けると、幼馴染みが修羅のような顔で箸を握りしめていた。顔立ちが整っているせいで、むしろ鬼気迫るものが感じられる。

「私も! 私もやる!」

 幼馴染みは私の弁当箱に箸を伸ばし、だんっと唐揚げを突き刺した。勢い余って貫通したらしく、弁当箱の底に箸が当たる音が聞こえた。

 憤怒の形相のまま、彼女は唐揚げを私の口元に突きつけてくる。

「ほら、どうぞ!」

 自分の弁当を分けてくれるわけじゃないのか。


 さっきからの騒ぎが注目を集めているのか、他の生徒からの視線を感じる。いくら女子同士とは言っても、この衆人環視の中、幼馴染みの箸から直接食べるのはちょっとためらわれるところだ。

 迷っていると、彼女の大きな目がすうっと細められた。

「……私の唐揚げが食べられないって言うの?」

「いただきます」

 その凍りつくような眼差しに身の危険を感じて、私は素早く唐揚げを口に入れた。

「美味しい?」

「……美味しい」

 地を這うような声音に強制されたわけじゃなく、心からの感想だ。幼馴染みが料理上手で助かった。

 私の感想に幼馴染みは満足げにうなずいて、勝ち誇ったような顔で委員長を見た。委員長は無表情に幼馴染みを見つめ返す。またしても不穏な空気が漂った。


 それを破ったのは、委員長の一言だった。

「つくねもおひとつ、いかがですか?」

 いかがですか? と言いつつ、既に彼女の箸がつくねをつまんで私の前に差し出されている。拒絶を許さないその微笑みに押されて、私はつくねを口に入れた。

「……これも美味しい」

 委員長の手作りなんだろうか。だとしたら、幼馴染みといい勝負ができるくらいの料理上手だ。

「むきー!」

 奇声を発した幼馴染みが、今度は豚の生姜焼きを押しつけてくる。もちろん私の弁当箱に入っていたものだ。


 後はもう無限ループだった。二人の美少女に交互に「あーん」されるという夢のような状況。まあ、私にとっては悪夢に近かったけど。

 しかし、この絵面を客観的に見ると完全に餌付けだ。この世界では希少なブスという生き物に、餌を与える美少女二人。……いろいろと辛い。

 弁当箱が空になったところで、やっと私は解放された。

「……げふ」

 いくら美味しい料理だと言っても、さすがに弁当箱いっぱいプラスアルファの肉はきついものがある。


「ねえ、委員長のお弁当と私が作ったお弁当、どっちが美味しかった?」

 たまらず机に突っ伏す私に追い打ちをかけるかのように、幼馴染みは追及してくる。答える気力もなくてぐったりしていたけれど、突っ伏している机をばんばんばんばんと打ち鳴らされて、返事をせざるを得なくなった。

「どっちも美味しかった! 同じぐらい!」

 どちらの味方をしてもこじれそうな気がして、この話はここで終わりという意志を込めて断言した。

 それを聞いた幼馴染みと委員長は顔を見合わせ、すぐにふいっと顔を背けた。


 やっぱり、幼馴染みと委員長は折り合いが悪いみたいだ。

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