プロローグ
プロローグ
暗い夜道、一人の少女が物々しい装いで歩いていた。頭の左右には、某殺人鬼のように懐中電灯を手ぬぐいで括り付け、首からも大小様々なライトをぶら下げている。道行く人には明らかに不審な目で見られてるのもなんのその。
市の北の高台にある市ノ倉高校の一年に所属する坂上詩奈乃。彼女は心霊研究同好会に所属し、先輩の言いつけである噂を調査していた。
都内から程近い場所にある市倉市。この街ではある噂が囁かれていた。
『吸血鬼がでる』
根も葉もない狂言だと相手にしない者もいるが、既に被害者が二十人以上出ている事実があった。
一部のネットの掲示板などではかなりの盛り上がりを見せており。
被害者は首に傷こそ無いものの、極度の衰弱状態で見つかっている。体には外傷は無く、回復した者の話しによると、とても可愛らしい十四、五歳の少女に出会った後に倒れたとのこと。
話しに尾ひれがつき、特に中高生の間で広まっている。
対処方として、吸血鬼ということで、十字架を携帯しておけば相手が近づいてこない。
もし少女に会ったしまったら、ある呪文を三回言えば、相手が怖がり逃げていくや、夜しか現れないので強い光を浴びせれば去っていくなど、胡散臭い噂が囁かれていた。
「部長も酷いよ…自分が怖いからって私に調査を押しつけるなんて」
今日の放課後、部室に行くと不敵な笑みで待ちかまえている部長がいた。嫌な予感。それは的中した。いま噂の吸血鬼の調査をすると高らかに宣言され、、何処から集めたのか、この大量の懐中電灯を渡された。
そして、約束の時刻になっても、先輩は待ち合わせ場所にしていた公園に姿を見せず、代わりに携帯が鳴った。
『ゴメン。今日は用事があるから行けなくなった。まあ適当に調べといて』
との事だ。部長は極度のビビリで、以前部室で研究と称しホラー映画を見ていた時、私がトイレに部室を出たとき、ちょうど自分もトイレに行きたかったと私の後をついてきた。
難点はバレバレなのにそれを決して認めないことだ。
さらに、始末が悪いのは、それだけビビリなくせに都市伝説や心霊現象の類が大好きな所だ。心霊研究同好会の部長なのだからそれは当たり前なのだが。きっと家では怖い映画を見る時は兄弟や親を無理矢理付き合わせるタイプだ。いや、そうに違いない。
「みんなの視線が痛いな」
溜め息を吐く。正直自分が通行人と逆の立場だと、どん引きする事うけあいである。
しかし、外す事は出来ない。私だって怖いから。
「…はぁ…はぁ…はぁ…」
背後から荒い息遣いが聞こえた。背筋に嫌に冷たい汗がダラダラと流れる。
こんな時に限って、熱い視線を向けてくれていた通行人の方々は見あたらない。
詩奈乃は震える指で、身につけている懐中電灯全てにスイッチを入れると、意を決して振り返った。
「女の子?」
其処には苦しそう肩で息をする女の子が立っていた。その姿を鮮明で、自分の懐中電灯の光でちゃんと影も出来ている。どう見ても人間だ。
詩奈乃は拍子抜けしたのと、安心した気持ちを織り交ぜた溜め息を吐く。
「あの…大丈夫ですか?」
その少女が余りにも辛そうにしているので、詩奈乃は彼女に駆け寄った。
近づいてみるととても可愛らしい子だった。年齢は自分より幼そうで、十四、五歳といった所だろう。しかし、其処まで考え、詩奈乃はある事に気づいて硬直する。
(あれ…確か噂の女の子って確か可愛らしい十四、五歳の女の子…)
ヤバイ!逃げなきゃ!そう思った時、少女は詩奈乃に縋るように抱きつく。
「渇くの…渇きが収まらないの…」
「やだ!、ちょっと放して!」
振りほどこうとしたとき 、急に力が抜け、その場に膝を付く。
「あ…れ?」
急激な睡魔。激しい倦怠感に彼女はそのまま昏倒した。