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グルゥとリル、もりのはずれで  作者: うつチャリンカー


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30/30

門を出るころ

市場のすみには、夕方のいろが静かにおりてきていました。

古い木箱の上の布も、昼の白さをしまって、やわらかな影をまとっています。

そのまんなかに、もりのわっかがひとつだけ残っていました。葉は橋のように通され、継ぎ目の羽は、ひかりを細くつかまえていました。


リルは、そのひとつを見ていました。

輪と、布のしわと、木箱の角。

目はそのあたりを行ったり来たりして、手はしばらく膝の上にありました。


通りを行く人は、まだいます。

けれど昼のようには立ちどまりません。

荷をまとめる人の音、戸を引く音、遠くでパン籠を重ねる音が、ひとつずつ広場に残っていました。

市場は、だんだんと、昼の顔をぬいでいくみたいでした。


グルゥはいつものように、木箱のわきに立っていました。

大きな袋の口をひらき、荷がしまいやすいようにしてあります。

声は出さず、急がせもしません。

ただ、木箱の上へ落ちるひかりを見て、風で布がめくれそうになれば、その端をおさえるだけでした。


リルはようやく立ちあがって、最後のわっかを両手で持ちました。

羽の先を指でなぞり、葉の重なりを見て、それから布をたたみます。

ふたつのルクスは小さく鳴って、布の上から掌へ移りました。

その音は、すぐ静かになります。


木箱の上が空になると、そこだけ風の通り道が見えるようでした。

リルは輪を胸の前に抱えます。

グルゥは布と袋を持ち、ふたりは市場のすみを離れました。


町の道は、昼より長い影をのせていました。

石畳のすきまにたまった夕方の色は、うすいお茶みたいでしたし、軒先につるされた布は、もうあまり揺れていません。

店じまいの気配が、どの戸口にも小さく集まっていました。


ふたりは、来たときと同じ道を、ゆっくり門のほうへ歩きます。

リルは前を見て、ときどき腕の中の輪を見ました。

手を広げたくらいの輪は、昼のあいだ何度も見られて、いまはひとつだけになっています。

やさしくゆがんだ形が、腕のなかでおとなしくおさまっていました。


門のそばには、いつもの衛兵が立っていました。

高い槍を持ち、町の出入りを見ている人です。

毎日そこにいて、ふたりが通るときも、ただそこにいることのほうが多いのでした。


今日も、はじめはそうでした。

門の影が石にのびるなかで、衛兵は無表情のまま立っています。

リルとグルゥがその前を通ろうとしたとき、ふいに、その目がリルの腕の中へ向きました。


「それ、いくらだ」


声は低く、いつもとおなじ顔のままでした。

風向きでもたずねるような、短いひとことです。


リルは足をとめました。

輪を見て、それから衛兵を見あげます。


「……いちるくす」


衛兵はうなずきもせず、腰の袋からルクスをひとつ出しました。

金属の丸い光が、夕方の色をうすく返します。

それを差しだされたリルは、腕の中の輪を持ちなおしました。

羽がつぶれていないか、継ぎ目がきちんとしているか、指先でひとつたしかめます。

それから、両手で衛兵へ渡しました。


衛兵は輪を受け取ると、しばらく見ました。

顔は動かず、口元も変わりません。

ただ、門の石と槍と、その輪がひとつの景色になっていました。

そして、ルクスをリルの手に置くと、また元のように立ちました。


もう何も言いません。

輪は衛兵の腕に下がり、羽の先だけが夕方の風にふれています。


リルは手の中のルクスを見ました。

そこには、さっきまでふたつだった丸い光に、もうひとつが加わっています。

みっつ。

指のあいだで、ちいさく重なりました。


グルゥがその手もとを見て、それからリルを見ました。

声はなく、ただ歩きだせるように、門の外の道へ体を向けます。

リルもそのとなりに並びました。


町の外へ出ると、空気はすこしひんやりしていました。

石畳は土の道になり、草のにおいが足もとからのぼってきます。

遠くで鳥がひとつ鳴いて、森へ帰る風が道の上をなでていきました。


リルは歩きながら、手の中のルクスをときどき握りなおしていました。

布に包まれた輪はもうありません。

胸の前はかるくなっていて、そのぶん、手の中に丸い重みが三つあります。

道の先には小屋へつづく草の色が見えていて、夕方のひかりが、そのうえに薄くのっていました。


グルゥはいつもの歩幅で歩いています。

急がず、遅すぎず、リルがとなりにいられる速さでした。

大きな足が土をふみ、袋が背でかすかに揺れます。

町にいるあいだも、門の前でも、そしていまも、ずっと同じようにそばにいます。


リルは前を見たまま、手の中のルクスを親指でひとつずつたしかめました。

それから、握る手をそっと閉じます。

道は小屋へつづいていて、夕方はまだ、やわらかくのびていました。

最後までお楽しみ頂けましたら幸いです

ありがとうございました

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