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グルゥとリル、もりのはずれで  作者: うつチャリンカー


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26/30

木の皮のあたたかいところ

全30話 五月五日まで毎日朝七時投稿

昼すぎの森は、あさのひかりを少しだけしまいこんで、木のあいだにやわらかな影をのせていました。小屋のそばの道も、いつもよりしずかで、草の先だけが風にゆれていたようです。


リルは戸口の石のところで、しゃがんでいました。きょうはどこへ行くでもなく、足もとに落ちていた細い枝をつまんでは、土の上にころころと転がしていました。けれど、その枝はすぐに忘れてしまったようで、こんどはすぐそばの木の幹へ手をのばします。


木の皮は、遠くから見ると茶色いだけなのに、ちかくでさわると、思っていたよりいろいろでした。かたいところ、うすくめくれたところ、指のはらにざらりとのこるところ。リルは手のひらをぺたりとあてて、しばらくそのままでいました。ひんやりしていて、けれど奥のほうには、ひるのあたたかさが少しだけ残っているみたいでした。


「……ここ、さかなみたい」


だれに言うでもない声が、小さくこぼれました。


ちょうどそのころ、グルゥは小屋の横で、乾いた枝の束を持ちなおしていました。積んであったものの向きをそろえ、崩れないように下のほうを静かに押しています。リルの声を聞くと、顔だけそちらへ向けました。そして枝を置くと、土を鳴らさない足どりで歩いてきます。


リルはまだ木の幹をさわっていました。指先で、みぞの深いところをなぞったり、うすくはがれたところをそっと押したりしています。木の皮は、古い布を何枚も重ねたようにも見えましたし、かたく焼いたパンの表面にも、少し似ていました。


グルゥはとなりに立つと、べつの場所へ大きな手をのせました。リルの手があるところより、すこしだけ高い位置でした。そこは陽が当たっていたので、さっきのところよりぬくもりがあります。グルゥは何も言わず、そのまま手を置いています。


リルは見あげて、それから同じように立ちあがりました。背のびをして、その場所へ指先をあてます。


「こっち、あったかい」


グルゥは小さくうなずきました。


幹の表は、場所でちがうらしく、日のあたる側はかわいていて、影のほうはすこしだけしめっていました。リルは木のまわりを半歩ずつ動きながら、手ざわりのちがいをたしかめていきます。すると、片がわには、細い苔がやわらかくついているところもありました。そこだけ、ざらりのなかに、ふかふかがまじっていました。


リルは目をまるくするでもなく、ただ足を止めて、苔のところへ指をうずめました。


「ここ、ねてるみたい」


グルゥはしゃがんで、足もとの石をひとつ道のはじへよけました。リルが木のまわりを歩きやすいようにしただけでした。それから、幹からはがれかけていた小さな皮が、風でひらひらしないように、指でそっと戻します。木にさわる手つきまで、いつもと同じように静かでした。


風がひとつ通ると、梢がかすかに鳴って、上のほうから明るいものがこぼれてきました。葉のあいだから落ちた光が、幹の表に細くのびて、木の皮の段々をきれいに浮かべます。茶色だと思っていたところに、うすい金や灰色がまじっていて、古い木なのに、新しいひかりを着ているみたいでした。


リルはその光の筋へ手をあてました。ざらざらのうえに、ひかりだけがなめらかにのっていました。


しばらくして、グルゥは小屋へ戻り、袋から布を一枚持ってきました。ふくのためではなく、木の根元の石の上を軽くぬぐうためでした。土の粉がとれると、そこはちいさな腰かけになりました。グルゥは手で一度たしかめてから、石のほうを見ます。


リルはすぐに意味がわかったようで、木から手をはなして、その石にちょこんと座りました。まだ片手は幹にふれたままでした。離すほどでもなかったのです。


グルゥもすぐそばの草の上に座ります。大きな背が木の影と重なって、そこだけ色がすこし深く見えました。


ふたりはしばらく、何も言いませんでした。リルの小さな手は、ときどき木の皮をなで、ときどき止まりました。グルゥの手はひざの上に置かれたままで、風が来るたび、葉の鳴るほうを見あげます。


森の木は、いつもそこにあるのに、さわると、その日ぶんだけちがっているようでした。ひるのあたたかさや、影のつめたさや、風の通り道まで、みんな幹の上に残っているのでしょう。


やがてリルは、木にもたれるようにして、静かな声で言いました。


「また、あしたも、さわる」


グルゥはとなりで、短くうなずきます。


それだけで、もうじゅうぶんそうでした。木の皮はざらざらしたまま、ひかりを細くのせて、午後の森に立っていました。

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