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グルゥとリル、もりのはずれで  作者: うつチャリンカー


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21/30

窓辺に来るひかり

全30話 五月五日まで毎日朝七時投稿

朝のはじまりは、すこし白くにごっていました。

小屋のまわりの木々は、まだ目をさましたばかりみたいに、葉のうらへうすいひかりをためこんだままです。窓辺にも、いつものような明るさはまだ来ていなくて、棚のうえの袋や木の皿が、やさしい影の中に並んでいました。


グルゥは井戸から水をくんで、桶を壁ぎわへ置きます。つぎに、かまの火を見て、細い枝を二本だけ足しました。ぱち、と小さな音がして、それきりまた、おとなしく赤くなっていきます。

木の椀を机に置き、パンをあぶる用意をしてから、グルゥは外へ出ました。軒下には、昨日の夕方に寄せておいた枝がならんでいて、まだすこしだけ、朝のつめたい気をまとっています。グルゥはその向きをそろえ、ぬれの残るものを手前へ、乾いたものを奥へ、黙って分けていました。


そのあいだに、リルは寝台からおりてきました。

かけもののあとが、ほっぺたにうすく残っていて、髪の先はまだ、夜のつづきみたいです。リルは机のそばまで来ると、窓のほうを見ました。今日は、いつも窓辺にたまる朝のひかりが、まだ床の上まで来ていません。


リルは首をかしげて、椅子にのぼりました。

窓の外には、葉と葉が重なって、みどりの布を下げたような景色があります。風はあるようで、ないようで、葉のふちだけがときどき動きました。


グルゥが戻ってくると、リルは窓を見たまま、

「おそいね」

とだけ言いました。


グルゥは返事のかわりに、湯のみへ水をそそぎ、リルの手の届くほうへ置きます。それから自分は窓の横に立って、外を少し見上げました。高い枝のあたりに、朝のひかりがどこかでつかえているようでした。


パンがあたたまる匂いは、まだ明るくなりきらない部屋によく合いました。

火の色は先に来ているのに、ひかりのほうは、森の奥で道をまちがえたみたいに、なかなか小屋へ入りません。リルは湯のみを両手で持って、机の木目をながめていました。木のすじは、ほそい川のようでもあり、眠るまえに見た夢のつづきのようでもありました。


やがて、外で葉ずれの音がひとつ、さらさらと流れました。

それから、もうひとつ。

窓のはしに、うすい金色がそっとのりました。最初は糸みたいに細くて、棚のすみに置かれた袋の口だけを照らしています。それが少しずつほどけて、木の皿のふちへ、机の角へ、リルの指先へと移ってきました。


「きた」

リルが小さく言って、その指をひかりの上にのせます。


グルゥはパンを裏返し、焼けたほうを先にリルの皿へ置きました。

その手の甲にも、遅れてきた木漏れ日があたっています。葉のかたちをした明るさが、大きな手の上でゆっくりほどけて、またつながっていました。


部屋の中は、急に明るくなったわけではありません。

けれど、さっきまで見えていなかったものが、ひとつずつ、やさしく顔を出していきます。棚の木目、袋のしわ、椀のふちのまるさ。火のそばの床には、葉のすきまを通ってきたひかりが、浅い水のように揺れていました。


リルはパンを両手で持ったまま、その揺れをしばらく見ていました。

それから、椅子の上で足をゆらさずに座りなおし、窓辺へ落ちた明るさへ、そっと肩を向けます。あたたかさは、火のものよりも薄いのに、春のはじまりの布みたいに、ちゃんとそこにありました。


グルゥは何も言わず、机の端へ塩の袋を置きなおしました。

ひかりがよく当たる場所を、少しだけあけるようにです。すると、その空いたところへ木漏れ日がのびてきて、ちいさな金の四角をつくりました。


リルはそれを見て、ほんのすこしだけ口もとをゆるめます。

朝がおそく来る日もあるのだと、部屋の中のものたちが、順番に教えてくれているようでした。外の森は変わらずそこにあり、小屋の火も、水も、パンの匂いも、いつものままです。

ただ、木漏れ日だけが、今日はあとからやってきて、机の上にひとつ、やわらかな席をつくっていました。

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