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グルゥとリル、もりのはずれで  作者: うつチャリンカー


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倒木のそばのひかり

全30話 五月五日まで毎日朝七時投稿

ひるすぎの森は、すこしだけ光がやわらいでいて、葉のあいだからこぼれる明るさが、地面のうえにうすい布を何枚も重ねたように見えていました。


小道のわきに、ながいあいだ雨と風にふれてきた倒木がありました。苔はやわらかくふくらみ、ところどころ木の肌がのぞいていて、古いけれど、まだちゃんとそこに座れる顔をしていました。


グルゥは、その倒木の前で足を止めます。背にかけていた袋を静かにおろし、中から包んでおいたパンを取り出しました。布をひらく手つきは大きいのに、森の音をこわさないやさしさがあります。


リルはそのようすを見て、すこしだけ首をかしげました。それから、ことんと倒木に腰をおろします。小さなからだがちょこんとのると、倒木は前からそこにいた子を迎えるみたいに、なんでもない顔でその重みを受けとめていました。


風がひとつ、枝から枝へぬけていきます。高いところの葉がさやさや鳴って、リルの髪がほんのすこし揺れました。リルは目を細めて、となりに立つグルゥの影を見ます。おおきな影は、木の根や石のうえをまたぎながら、ゆっくり短く伸びていました。


グルゥはパンを半分にして、片ほうをリルに渡しました。


「ん」


それだけでしたけれど、リルは小さくうなずきます。


「ありがと」


声も、森の奥へ飛んでいかないくらいの大きさでした。


焼いた粉のにおいに、木の湿り気がまざります。リルはひとくち食べて、それから足もとの石をつま先でそっと押しました。石の下の土はまだ少しつめたくて、さっきまで日かげだったことがわかります。そういうことを、リルはよく見つけます。見つけても、わざわざ言わないことが多いのでした。


グルゥは倒木のそばに立ったまま、近くの枝先にたまったしずくを見ていました。朝の名残りでしょうか、小さな玉がまだ落ちずにいて、ひかりをひとつ抱えています。しばらくして、しずくは重たそうにゆれ、すとんと土へ落ちました。音はほとんどなくて、でも、落ちたことだけはきちんとわかる静けさでした。


リルはパンを持ったまま、空を見あげます。木々の間の細い青は、川の水を遠くからのぞいたみたいに、すこしだけゆらいで見えました。


「ここ、すき」


ぽつりと落ちたことばに、グルゥは倒木の苔を手で軽くはらってから、自分も端に座りました。大きなからだが乗ると、木はほんのわずかにきしみましたが、それきりでした。


ふたりのあいだには、ひとり分もないくらいのすきまがあります。近いけれど、せまくない距離でした。リルはとなりのぬくもりを気にするでもなく受けとって、パンをもうひとくち食べます。グルゥは、自分の分を食べ終えると、布をたたんで袋にしまいました。その動きはいつも通りで、何かを整えることが、そのまま一緒にいることになっているようでした。


少しすると、また風がきました。こんどは倒木の上をなでるように通って、苔の匂いと、遠くの水の気配を連れてきます。リルはその匂いに気づいて、目をぱちりと開きました。


「みず、ちかいね」


グルゥはうなずきます。


「……ああ」


それだけで、じゅうぶんでした。


どこかで小さな鳥が鳴いて、またしずかになります。光は葉のかげで丸くほどけ、リルの膝や、グルゥの大きな手の甲にのっていました。急ぐものはなにもなくて、森はただ、ふたりをそこに置いておくみたいにやわらかでした。


リルは食べおわった手を見て、指先についたパンくずをそっと払います。ひとつだけ残ったくずを、グルゥが黙って受けとるように掌にのせました。リルは少し笑って、倒木の端へ手をつきます。木の肌はひんやりして、苔のところは小さな獣の背のようでした。


そのまま、ふたりはしばらく座っていました。話すことがなくても、木のぬくもりがゆっくり移ってくるのを感じたり、風がまた来るのを待ったりしていれば、それで夕方まえの時間はきれいに満ちていきます。


森のなかの倒木は、道の途中にある小さな椅子のようでした。ふたりが少し休むための、だれにも知らせない場所です。立ちあがれば、またいつもの暮らしへ戻っていくのでしょう。それでも今はまだ、座ったまま、葉のあいだから落ちる光を見ていました。


それはとても小さなひとときで、だからこそ、手のひらにのる水の粒みたいに、静かにまるく残るのでした。

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