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グルゥとリル、もりのはずれで  作者: うつチャリンカー


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霧ののこる朝

全30話 五月五日まで毎日朝七時投稿

朝の霧が、いつもよりすこしだけ森にのこっていました。


木々のあいだは白くやわらかくて、道の先まで見えるはずなのに、きょうはそこが布を一枚かけたみたいにぼんやりしています。葉のさきには小さなしずくがついていて、風がないぶんだけ、ひとつも急がずに光をためていました。


小屋の戸をあけると、グルゥはもう外にいて、井戸の水を桶にくんでいました。大きな背に霧がうすくふれて、肩のあたりが朝の色にまるくなっています。桶の水は冷たそうでしたが、グルゥはいつもどおり、静かにそれを運んでいました。


リルは戸口に立ったまま、しばらく森を見ていました。ねむたげな目をすこしだけ開いて、白くにじむ木の枝を見上げます。いつも見えるはずの向こうの大きな岩も、きょうは半分だけ、霧のなかにしまわれているようでした。


グルゥが火を見にいき、昨夜の灰の下に残っていた赤みをそっと起こします。細い枝を足して、息を入れすぎないようにしていると、火は小さく、でもたしかに明るくなっていきました。その色だけが、霧の朝にあたたかな穴をあけたみたいでした。


リルは水差しを持って、桶のそばにしゃがみました。指先でふちにふれると、木のつめたさが手にのこります。ひとくちだけ水をのんで、それから顔をあげました。


「きょう、しろいね」


グルゥはうなずいて、火の上に小鍋をのせました。


それだけで、朝のしたくはだいたい進んでいきます。


ほどなくして、小屋のなかに湯気がゆれて、あたためた水の匂いと、焼いたパンのやさしい香りが混ざりました。リルは椅子にすわる前に、窓辺に置いてあった小さな袋を持ちあげます。昨日、町で買った塩が入っている袋でした。口をきゅっと結び直して、またそっと戻す。その手つきまで、霧の朝はすこしゆっくりに見えます。


朝ごはんを食べたあと、ふたりは町へ行く道の入口まで歩いてみました。今日は出かけるつもりはなかったけれど、霧の日の森がどんなふうか、見ておきたかったのです。


道ばたの草はしっとりして、石は洗ったみたいになめらかでした。リルはときどき立ち止まって、葉についたしずくをのぞきこみます。丸い水のなかに、空とも木ともつかない淡い色が入っていて、それが不思議そうでした。


グルゥは少し前を歩き、ときどき振り返りました。リルがちゃんとついてきているのを見て、また前を向きます。急がせることもなく、手を引くでもなく、ただ歩幅を小さくしていました。


町へつづく細い道の手前まで行くと、霧はようやくうすくなってきました。向こうの木立ちのあいだから、朝の光が細くさして、白い空気のなかに金の糸みたいにのびています。リルはその場で足を止め、しばらくそれを見ていました。


「もう、すこしだけしたら晴れるね」


グルゥは近くの枝先についたしずくを指で払いました。ぽつりと落ちた水が石にはねて、小さな音をひとつだけ置いていきます。


ふたりはそこで引き返しました。町は逃げませんし、森の朝も、今日は今日だけの形をしているからでした。


小屋へ戻るころには、霧はずいぶん上のほうへあがっていて、屋根のまわりだけがまだ白くかすんでいました。火はおだやかに残っていて、鍋の湯もぬくもりを保っています。リルは椅子にすわり、窓の外を見ながら、まだ半分ねむたいような顔でまばたきをしました。


グルゥは濡れた木の枝を軒下に並べ直し、そのあと、パンくずを小皿に集めて外へ置きます。じきに小鳥が来るだろうと、言わなくてもわかる置き方でした。


朝の霧が少しだけ濃い日には、何かが変わるわけではありませんでした。ただ、見えすぎないぶんだけ、いつものものがやわらかく近くなるようでした。火の色も、水のつめたさも、並んで歩く足音も、白い朝のなかで静かに丸くなって、しばらくそこにありました。

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