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グルゥとリル、もりのはずれで  作者: うつチャリンカー


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12/30

窓辺の布

全30話 五月五日まで毎日朝七時投稿

朝のひかりが、窓辺の棚にうすくたまっていました。

まだ火は小さく、かまの口のあたりで、あたたかな色だけがゆっくり息をしているみたいです。


リルは、椅子ではなく床にすわって、ひざの上へ小さな布を広げていました。

その上には、森でひろったものがすこしだけのっています。ほそい草、やわらかな羽、木の皮のくるんとしたかけら。それから、朝つゆをすって、すこしだけ匂いののこった葉っぱもありました。


どれも、なくても困らないようなものばかりでした。

けれどリルは、ときどき指先でならべかえて、光のあたり方を見ていました。

草をまっすぐに置いてみたり、羽を端によせてみたり、葉っぱを布のまんなかへちょこんと置いてみたりします。


まだ、結びません。

まだ、まとめません。

ただ、そこにあるとどんなふうかを、見ているだけでした。


井戸のほうで水の音がして、しばらくしてから、グルゥが桶を運んできました。

大きな手が戸を押しても、音はあまりしません。

グルゥはいつものように、ぬれたくつを外へそろえて、火をひとつ見て、それから机の上へ小さな袋を置きました。


袋の口から、布きれがのぞいていました。

古くなった服を切ったものらしく、やわらかな色の、細い切れはしでした。


リルはそれを見て、すこしだけ目を上げました。

グルゥは何も言わず、やかんに水を入れています。

火のそばで、湯気がまだ出る前の静かな時間が、ふたりのあいだにそのまま置かれていました。


リルは袋を手もとへ引いて、中をのぞきました。

布のほかに、細いひもが一本と、まるい石がふたつ。川べりにあるような、手のひらでころがすと気持ちのいい石でした。


リルは石をひとつ持って、草のとなりへ置いてみます。

すると、さっきまでばらばらだったものが、急にどこかへ出かけるしたくみたいに見えてきます。

布は包むためのものかもしれませんし、ひもは結ぶためのものかもしれません。

羽は飾りではなくて、風のにおいを思い出すためでもよさそうでした。


リルは首をかしげて、また並べなおしました。

売る、という言葉は、まだうまく形になっていません。

けれど、だれかの手にのるくらいの大きさで、森のなかのやさしいものをすこしだけ集めたら、どうなるだろうと思っています。

パンひとつぶんくらいの重さで、ポケットのすみに入るくらいの、小さなもの。

手に持つと、ひんやりした朝や、木のあいだを通る風が、すこしだけついてくるようなもの。


グルゥが黒パンをあぶり、木の皿へのせました。

そのとなりに、なにも言わず、小さな布きれをもう一枚だけ置きます。

端のほつれを、あらかじめ指でおさえてあります。


リルはそれを見て、ほんのすこし笑いました。

それから、布の上の草や羽を、こんどは急がずにひとつずつ袋へ戻していきます。

今日はまだ、作らないようでした。


窓の外では、風が草をうすく倒して、また起こしていました。

小屋の前の石にも、朝のひかりがまるくのっています。

思いついたものは、まだ名前もなく、かたちもきまっていません。

それでもリルの手のなかでは、やわらかな布のしわみたいに、すこしずつ広がっているようでした。


グルゥは湯のみをひとつ、リルの近くへ寄せました。

リルはうなずいて、あたたかい湯気を見ました。

その白さのむこうで、布も、草も、羽も、みんな静かに待っているみたいでした。

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