第216話「魔法のインクとスーパー洗剤が世界を支配してる話 ~日本のグローバルニッチトップ企業と、誇張されすぎた独占神話~」
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※今回は以下の記事を参考にさせていただきました。
●だから習近平は心底焦っている…中国のITもEVも壊滅させる力を持つ日本が世界シェア8割を握る"素材"の名前
https://president.jp/articles/-/117292
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マリコ:(謎の薬品瓶を持って登場)サチコ、これ何やと思う?
サチコ:知らんがな。何やそれ、危ないもんちゃうやろな。
マリコ:実はな、これがあったら世界のスマホもEVも作れへんくなる、っちゅう「魔法のインク」らしいねん。
サチコ:魔法のインク!?急に何の話や。
マリコ:ニュースで見てん。「日本が持ってる3つの素材が、世界のハイテク産業の命運を握ってる」って。しかもそれを中国が持ってへんから、焦って尖閣に船を出してるんちゃうか、っちゅう話や。
サチコ:ああ、それはなかなか壮大な話やな。今日はその記事、ちゃんとファクトチェックしながら整理していこか。
マリコ:ファクトチェック!サチコ、厳しいな。
サチコ:厳しくいくで。まず記事に出てくる3つの素材から説明しよか。一つ目は「フォトレジスト」。半導体の基盤に回路を焼き付けるための、まさに魔法のインクみたいな薬品や。
マリコ:それを作ってるのが日本の会社なんやな。
サチコ:東京応化工業やJSR、信越化学、富士フイルムなんかがそうや。記事では「日本が世界シェア70から80パーセント」って書いてあったけど、実際に調べると、日本企業全体でおよそ80から90パーセント、最先端のEUV向けに限れば90パーセント超、ほぼ独占状態っちゅうデータもある。
マリコ:ほな、記事の数字はむしろ控えめやったってことか。
サチコ:そういう見方もできる。ただし東京応化工業一社だけで見ると、シェアは25パーセントくらい。JSRも含めた2社だけで「70から80パーセント」に届くかというと、それはちょっと足りひん。日本企業5社くらい合わせて、ようやく9割になる感じや。
マリコ:「日本の2社が独占」やなくて、「日本の複数の会社が束になって強い」っちゅう構図なんやな。
サチコ:まさにそこがポイントや。ちなみに東京応化工業の売上高、記事では約1700億円とされてたけど、実際の2023年12月期の連結売上は1622億円くらい。ほぼ正確な数字やった。
マリコ:数字自体はそこそこ合ってるんやな。二つ目の素材は?
サチコ:二つ目は「高純度フッ化水素」。半導体の基盤を洗浄するための、記事で言う「究極のスーパー洗剤」や。ステラケミファや森田化学工業が有名や。
マリコ:これも世界シェア70から80パーセントなんか。
サチコ:いや、ここが一番怪しいとこやねん。超高純度、いわゆる半導体グレードに限れば、日本企業がかなり強いのは事実や。でも全体の高純度フッ化水素市場で見ると、ハネウェルやソルベイなんかの欧米勢も上位に食い込んでくる。「70から80パーセントを日本2社が占める」っちゅうのは、条件を絞った時の数字であって、市場全体の話としては過大評価の可能性が高いねん。
マリコ:ははあ。「条件を都合よく絞って、いかにもすごそうに見せてる」パターンやな。
サチコ:しかも記事には「純度99.9999999999パーセント」っちゅう表現もあった。
マリコ:9が12個!それはもう、ほとんど不純物ゼロってことやんな。
サチコ:確かにステラケミファは12N級、つまりそのレベルの超高純度品を扱ってる説明はしてる。せやからこの数字自体は嘘やないんやけど、業界で一般的に語られるのは5Nから9N、つまり99.999パーセントから99.9999999パーセントくらいのレベルや。12Nをあたかも標準みたいに扱うのは、ちょっと演出が過ぎるかもしれへんな。
マリコ:ほんで三つ目は?
サチコ:三つ目は「フッ素化ポリイミド」。折りたたみスマホの画面みたいに曲げられる、記事の表現で言う「曲がるスーパープラスチック」や。住友化学が代表格や。
マリコ:これも記事では90パーセント近く独占って書いてあったな。
サチコ:ここが一番誇張が大きいとこや。住友化学は確かに主要プレイヤーの一つやけど、市場にはダイキン、デュポン、韓国のコーロンやSKCなんかも競合として存在してる。トップ数社合わせて50から70パーセント程度っちゅう報告が多くて、「ほぼ90パーセント独占」は確認できひん。
マリコ:韓国勢もしっかり食い込んでるんやな。ちなみに住友化学の売上2兆円超は本当なんか。
サチコ:それは事実や。ただし住友化学は総合化学メーカーやから、その2兆円全部がフッ素化ポリイミドの売上ってわけやない。
マリコ:会社全体の規模と、その素材単体の話を、混ぜて語られると誤解しやすいな。
サチコ:まさにそこが今回の記事の一番のトリックや。「世界シェア」と「特定分野に限った売上」を、都合よく混同して語ってる部分がある。
マリコ:ほな、この3つの素材が全部日本に握られてたら、中国は本当に「手も足も出ない」状態になるんか。
サチコ:そこもぶっちゃけ言い過ぎや。確かに中国の最先端半導体産業は、日本の素材への依存度が高い。輸出が止まったら深刻な打撃を受けるのは事実やけど、「即座に工場が完全停止する」っちゅうほど単純やない。
マリコ:なんでや。
サチコ:まず在庫がある。ほんで代替の調達ルートがある。段階的な規制なら対応する時間もある。それに中国自身も、猛烈な勢いで国産化を進めとる。中国製の半導体製造装置の比率は、2020年の5.1パーセントから2024年には11.3パーセントまで上がったっちゅうデータもある。
マリコ:「日本に頼りっぱなし」やなくて、「頼りながらも必死で自立しようとしてる」っちゅう状態なんやな。
サチコ:しかもこの構図、実は前例があるねん。2019年、日本は韓国向けに、まさにこの3品目、フッ化水素、フォトレジスト、フッ素化ポリイミドの輸出管理を強化したことがあるんや。
マリコ:韓国相手にも同じことやってたんか!
サチコ:その時、韓国の半導体産業がどうなったかっちゅうと、大打撃は受けたものの、崩壊はせえへんかった。韓国は代替の調達先を探して、国産化を進めて、なんとか乗り切ったんや。
マリコ:「日本が止めたら相手は即死する」っちゅうシナリオは、過去に一度実験済みで、実際にはそうならへんかったっちゅうことやな。
サチコ:まさにそういうことや。せやから今回の記事の「日本が3素材で世界を止められる」っちゅう結論は、2019年の実例を踏まえると、かなり割り引いて読む必要がある。
マリコ:ほんで、中国が尖閣に船を出したり、サイバー攻撃をしたりするのも、この「素材への焦り」が原因やって記事は書いてたんやろ。
サチコ:そこが一番証明が難しい部分や。尖閣周辺での中国公船の航行や領海侵入が続いてるのは、これは客観的な事実や。海上保安庁のデータでも、接続水域での航行日数が過去最多を更新したりしてる。
マリコ:そこは事実なんやな。
サチコ:それにJAXAや防衛関連企業を狙ったサイバー攻撃も、複数の報告がある。警察庁が中国系のハッカー集団を特定した、っちゅう発表もある。
マリコ:そこまでは分かった。でも、それが「素材への焦りが原因」っちゅう因果関係は?
サチコ:そこは証明されてへん。中国の軍事的な圧力やサイバー活動には、台湾問題、歴史認識、南シナ海、米中対立、いろんな複合的な要因が絡んでる。「素材が手に入らへんから焦って尖閣に来てる」っちゅう単純な図式は、あくまで一つの解釈というか、仮説の域を出えへん。
マリコ:記事に出てきた大学の先生のコメントも、確認できひんかったんやろ。
サチコ:そうなんや。国際関係学の教授として実在は確認できるんやけど、記事に書かれてた具体的な発言そのものの出どころは、確認が取れへんかった。専門家の名前を借りて、記事の主張に権威付けをしてる可能性もあるな。
マリコ:なるほどな。ほな、この記事は全部デタラメやったっちゅうことか。
サチコ:いや、そこまでは言えへん。日本の素材産業が、世界のハイテク産業にとって非常に重要な位置を占めてる、っちゅう核心部分は本当や。ここは強調しといてええとこや。
マリコ:どこがすごいポイントなんや。
サチコ:実は日本の本当の強みは、記事が言うような「3つの素材だけ」やない。もっと分厚いネットワークがある。経済産業省が「グローバルニッチトップ」っちゅう制度で選定してる企業群がその象徴や。
マリコ:グローバルニッチトップ!なんかカッコええ名前やな。
サチコ:ドイツの経営学者ハーマン・サイモンが提唱した「隠れたチャンピオン」っちゅう考え方を元に、経産省が日本版として作った制度や。特定の狭い市場、いわゆるニッチな分野で、世界トップクラスのシェアを持つ企業を選ぶんや。
マリコ:具体的にどんな会社があるんや。
サチコ:たとえば東京応化工業は、まさにこのグローバルニッチトップに、2014年版と2020年版の両方で選ばれてる。他にも半導体マスクの検査装置を作るレーザーテック、電子ビーム描画装置のニューフレアテクノロジー、最先端のICパッケージ基板を作るイビデン、精密減速機のナブテスコ。
マリコ:どれも聞いたことない会社やけど、みんな世界トップクラスなんか。
サチコ:せや。2014年の第一回選定では約100社、2020年の第二回選定では113社が選ばれてる。素材・化学部門だけでも、2014年に20社、2020年に24社が入ってる。
マリコ:一つ一つの市場は小さいかもしれへんけど、「これがないと世界の製品が作れへん」っちゅう、めちゃくちゃピンポイントな強さを持った会社が、日本にはいっぱいあるっちゅうことなんやな。
サチコ:まさにそこが日本の本当の強さや。「一つの巨大企業が世界を独占してる」んやなくて、「無数の小さな会社が、それぞれ違う工程の、それぞれ違う部品や素材を握ってる」っちゅうネットワーク構造や。
マリコ:「一つの太いパイプ」やなくて、「無数の細いパイプが張り巡らされてる」みたいなイメージやな。
サチコ:ええたとえやな。しかしこの構造、実は諸刃の剣でもある。
マリコ:どういうことやねん。
サチコ:日本が素材の優位性を使って中国への輸出を止めたとする。短期的には中国に打撃を与えられるけど、それは同時に、中国に「日本への依存を減らそう」っちゅう強い動機を与えることになる。
マリコ:「締め付けたら締め付けるほど、相手が自立しようとする」っちゅう、なんとも皮肉な話やな。
サチコ:しかも日本企業にとっても、中国は巨大な顧客や。輸出を止めれば、日本企業自身の売上も減る。これは完全な一方通行やなくて、お互いに痛みを伴う「相互依存」の関係なんや。
マリコ:ほんまに複雑な話やな。
サチコ:それに中国側にも、日本に対抗できるカードがある。レアアースとか、ガリウムとか、EVのバッテリーに使う原材料なんかは、中国が世界シェアの大部分を握ってる。
マリコ:日本が素材を止めたら、中国は原材料を止め返す、っちゅう報復合戦になる可能性もあるっちゅうことか。
サチコ:まさにそういう構造や。せやから「日本が中国を完全に支配してる」っちゅう見方は、あまりにも一面的すぎる。実際は、お互いが相手の産業ネットワークの一部を握ってて、完全に切り離すと双方が困る、っちゅう複雑な相互依存関係なんや。
マリコ:今日の話、めっちゃ勉強になったわ。ニュースの見出しだけ見て「日本すごい、中国終わった」って単純に喜んだらあかんっちゅうことやな。
サチコ:せやな。数字を都合よく切り取ったり、因果関係を単純化したりする記事は、いくらでも作れてしまう。せやからこそ、元のデータや文脈をちゃんと確認する癖をつけとかなあかん。
マリコ:ちなみにサチコ、うちが持ってきたこの謎の薬品瓶、これ本物のフォトレジストなん?
サチコ:それただの台所の洗剤やろがい!ラベル見てみい、「食器用」って書いてあるわ!
マリコ:ええ!世界を支配する魔法のインクちゃうんかい!
サチコ:お前が世界を支配する前に、まずその洗剤で自分の家の茶碗洗ってこい!もうええわ!
マリコ・サチコ:どうもありがとうございましたー!




