第211話「夜の街の財布が消えた日 ~全東信、負債1259億円の粉飾20年、決済代行という名の綱渡り~」
サチコ:(クレジットカードを何枚も広げて登場)マリコ、これ見てくれ。うちの財布の中や。
マリコ:カードだらけやんけ。何枚持っとんねん。
サチコ:現金主義のうちの母親に「そんなカードばっかり持って、ちゃんとお金は戻ってくるんか」って聞かれたことがあるんやけど、今日はまさにその「戻ってこおへんかもしれへん」っちゅう怖い話をするで。
マリコ:物騒な出だしやな。何があったんや。
サチコ:大阪の決済代行会社、全東信っちゅう会社が7月6日に破産したんや。
マリコ:決済代行会社!?聞いたことないけど、何をする会社なんや。
サチコ:飲食店とか夜の街のお店が、お客さんのクレジットカードで会計した時、普通ならカード会社から入金されるまで日数がかかるやんか。それを待たずに、全東信が先に立て替えてお店にお金を払う商売や。
マリコ:「お店に早くお金を渡してあげる商売」やな。
サチコ:しかもそれを週2回とか月6回とか、めっちゃ高頻度でやってくれんねん。夜の街のお店にとっては、資金繰りの命綱やってん。
マリコ:ほんで、それが破産したっちゅうことか。負債はどれくらいなんや。
サチコ:約1259億円。
マリコ:1259億円!?億超えの倒産て、たまに聞くけど、これはとんでもない額やんか。
サチコ:しかも「今年最大の倒産」っちゅう規模や。半年前にドローンネットっちゅう会社が負債1445億円で倒産したばっかりやのに、それに次ぐレベルの巨大倒産や。
マリコ:ドローンが飛ぶ会社の次は、カードが飛ぶ会社かい。
サチコ:うまいこと言うたつもりか知らんけど、これはほんま笑えへんくらい深刻な話やねん。この会社、1987年に大阪ミナミの飲食店の組合として始まって、2006年に会社化された。ピーク時には加盟店が20万店を超えてたんやで。
マリコ:20万店!日本中の飲食店の相当数が使ってたっちゅうことやんか。
サチコ:破産直前でも約2万店が現役で契約してた。それが7月6日、いきなり端末が使えなくなってしもてん。
マリコ:「今日から現金のみでお願いします」っちゅう張り紙が、突然お店に出たわけやな。
サチコ:しかも問題は、お店側がすでに売り上げた分の入金や。破産管財人が確認したところ、加盟店への未払いは約2万件、総額で約53億円にのぼるとみられてる。
マリコ:53億円!お店側からしたら「もう売った商品の代金」やんか。それが戻ってこおへんかもしれへんっちゅうことか。
サチコ:破産債権っちゅう扱いになるから、配当があってもごくわずか、下手したらほぼゼロっちゅう可能性もある。
マリコ:「売上金を預けてたつもりが、いつの間にか会社に貸してた」みたいな話になるわけか。それは恐ろしいな。
サチコ:しかもこの倒産、単なる「コロナで苦しかった」だけの話やないんや。
マリコ:ほな何があったんや。
サチコ:破産の申立書で明らかになったのが、約20年前から続く粉飾決算や。
マリコ:20年!?私がまだラノベも読んでへんかった頃から粉飾してたんかい!
サチコ:ラノベ関係あれへんがな!架空の預金が約170億円、架空の債権が約154億円、営業権の過大計上が88億円超、未払いの立替金の未計上が217億円。合わせて約630億円規模の粉飾やと言われとる。
マリコ:630億円!実質的には600億円超の債務超過やったっちゅうことやんか。それ、もう会社の看板だけ立ってる廃墟みたいなもんやな。
サチコ:しかも東京商工リサーチや帝国データバンクの取材によると、社長は髙山萬保さんっちゅう方や。
マリコ:社長は何て言うてはるんや。
サチコ:報道されてる範囲では、業績の改善見通しが立たず事業継続を断念した、っちゅう説明にとどまってる。20年分の粉飾の詳細については今後の調査が続く見通しや。
マリコ:「20年間バレへんかった」っちゅうのがすごいというか怖いというか。なんでそんなに続いたんや。
サチコ:ここがこの商売の怖いところで、決済代行っちゅうのは常にカード会社からの入金と、加盟店への支払いの間でお金がぐるぐる回ってる。手許に一時的にお金があるように見えとるけん、赤字でも「自転車操業」で回せてしまうんや。
マリコ:「次に入ってくるお金で、前の支払いを埋める」っちゅう自転車操業やな。ペダル漕ぐの止めた瞬間に転ぶやつや。
サチコ:しかも融資してた金融機関が63社もあったんやけど、ここも審査がザルやったんちゃうかっちゅう指摘がある。
マリコ:63社!そんなに銀行がお金貸しとったんか。
サチコ:東京商工リサーチの調べでは、最大の債権者は大阪の近畿産業信用組合で219億円。他にも東和銀行が80億円で、そのうち約59億円が未保全として引き当てられてる。大光銀行や高知銀行など、地方の金融機関が軒並み巻き込まれとる。
マリコ:近畿産業信用組合、219億円て、それ一発でだいぶ痛いやんか。
サチコ:「決済取扱高が潤沢に見えるから大丈夫やろ」っちゅう表面的な審査が、20年分の粉飾を見抜けへんかった原因の一つやと言われとる。
マリコ:「見た目が元気そうやから健康診断は省略しよか」って言うてるようなもんやな。それで20年放置したら、そら手遅れになるわ。
サチコ:しかも2024年1月には、もっと直接的な事件も起きてる。東京支社の営業本部長らが逮捕された。
マリコ:逮捕!何をしたんや。
サチコ:本来なら審査に通らへんような、いわゆる「ぼったくり店」を、他人名義で加盟店として登録させてたっちゅう疑いや。私電磁的記録不正作出の疑いで逮捕されて、会社自体も組織犯罪処罰法違反で書類送検されとんねん。
マリコ:「審査で落ちるはずの怪しいお店を、名前を変えて通す」っちゅう不正か。それは絶対あかんやつやん。
サチコ:この不正発覚が信用崩壊の決定打になってしもてん。金融機関からの新規の資金調達が実質ストップして、コロナでただでさえ弱ってた資金繰りにとどめが刺されたっちゅう形や。
マリコ:整理すると、コロナで売上が落ちて、粉飾でごまかしてきた借金が積み上がって、不正加盟がバレて銀行の蛇口が締まって、それで一気に破産したっちゅうことやな。
サチコ:まさにその通りや。単一の原因やなくて、複数の要因が連鎖して起きた崩壊や。
マリコ:影響を受けてるのは、お店だけやないんやろ。
サチコ:せや。まず加盟店。カード決済がいきなり止まって、現金のみの対応を強いられとる。未入金の売り上げは戻ってこおへん可能性が高い。次にお客さん。特に高単価な業態、例えば高級クラブとか美容クリニックとかは、カード払いの比率が高いから、支払いの混乱が起きとる。
マリコ:カードで払うつもりで飲みに行って、いきなり「現金でお願いします」って言われたら、そらパニックになるお客さんもおるやろな。
サチコ:それから金融機関。63社が総額1000億円超の債権を抱えて、貸倒引当金を積み増さなあかん状況になってる。そして業界全体。決済インフラそのものへの信頼が揺らいで、複数社に分散して契約する動きが加速してる。
マリコ:「一つの決済代行会社に全部お任せするのは危ない」っちゅう教訓が、業界全体に広がったわけやな。
サチコ:これは単なる一企業の倒産やなくて、決済インフラの脆弱性そのものが露呈した事件やと言われとる。日本はキャッシュレス決済比率が40パーセントを超えて、政府も推進してきたけど、その裏側で決済代行っちゅうグレーゾーンに依存してた構造が明らかになったんや。
マリコ:「便利さの裏に、こんな綱渡りがあったんか」っちゅう話やな。
サチコ:しかも面白いのが、この決済代行モデルは実質的に「銀行に近い金融業」やのに、銀行ほど厳しい規制を受けてへんかったっちゅう指摘があることや。
マリコ:預金は預からへんけど、お金の仲介はしてる。せやのに銀行みたいな厳しいルールはない、っちゅうことか。
サチコ:これを「規制の空白」とか「シャドーバンキング化」っちゅう言い方をする専門家もおる。
マリコ:「影の銀行」か。夜の街を支える決済代行会社が、実は「影の存在」やったっちゅうのは、なんか妙に符合するオチやな。
サチコ:うまいこと言うたつもりやろけど、ほんま笑いごとやないで。政府もすでに動いてて、経済産業省が特別相談窓口を設置して、セーフティネット貸付の要件緩和や、100パーセント保証のセーフティネット保証1号の相談を始めとる。金融庁も金融機関に対して、条件変更や借り換えを含む柔軟対応を求めとる。そらそうや。
マリコ:国も慌てて火消しに走ってるっちゅうことやな。
サチコ:今後の政策的な流れとしては、決済代行業者に対して、加盟店の売上金を自社の運転資金と切り離して管理する「分別管理」や「信託保全」の義務化が議論される可能性が高い。あとは加盟店審査の適正化、定期的な財務開示の義務化なんかも焦点になってくる。
マリコ:「お店から預かったお金を、勝手に自分の借金返済に使えへんようにする」っちゅうルールを作ろう、っちゅうことやな。
サチコ:ただし、決済代行業を銀行と完全に同列に規制するのはイノベーションを阻害するっちゅう反発もあるさかい、当面は「全面規制」やなくて「リスクの高い事業者へのピンポイント規制」に落ち着く可能性が高いと見られとる。
マリコ:ほな、うちらみたいな一般人や、お店をやってる人は、この話からどんな教訓を得たらええんや。
サチコ:一番大事なんは、決済手段を一つの会社に集中させへんことや。最低でも2社以上に分散させて、片方が止まっても現金やQRコード決済で対応できるようにしておく。それとBCP、つまり緊急時の対応マニュアルを平時から準備しておくことも大事や。
マリコ:「便利さの安さだけで選ばずに、その会社がちゃんとしてるか確認せなあかん」っちゅうことやな。
サチコ:あとは経営が長く続いてる会社でも、20年間粉飾を続けられるっちゅう現実を見せつけられたわけやから、「信用できそう」っちゅう見た目だけで判断せんと、決算書とか信用調査の情報も見るべきやっちゅう教訓や。
マリコ:それにしても、20年も粉飾を続けられるって、逆にある意味すごい執念やな。
サチコ:そこ褒めるところとちゃうがな。630億円分の嘘を20年間、63の金融機関と何万もの加盟店に見せ続けたっちゅうことやで。
マリコ:そう考えると恐ろしい話やわ。うちのカード、ちゃんと信頼できる会社のか確認せなあかんな。
サチコ:まずはその財布に入ってる大量のカード、本当に全部使てるんか確認するとこからやな。
マリコ:使てるかって、それは今日は関係ないやろ!
サチコ:関係あるかもしれへんがな。ポイント目当てで作ったカードが、実は聞いたことない決済代行会社と提携してるかもしれへんで。
マリコ:ぎゃー!そうか!確認するわ、今日帰ったら!
サチコ:ほな今日はこのへんで!
マリコ・サチコ:どうもありがとうございましたー!




