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幽縁ノ季楼守  作者: 儚方ノ堂
第二章 廻る帰還
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四人の主人


「おうおう、遅かったじゃねえの!」

 

 突如、肩にのしかかるズシっとした重さ。

 続いて、背中に厚い胸板を感じた。


 首を少し捻ると、鉢巻(はちまき)姿が妙に似合う人物と目が合う。

 

「なんだぁ、顔色悪いな。お前ら飯食ってねえだろ。いかんぞ、人の子はすぐ死ぬからな」

「……酒臭いです」 


 そのよく通る声の主は、明朗快活を体現した様な男だった。

 裏表が無さそうで、他者との距離が無駄に近い。

 自分には眩し過ぎて、普段であれば苦手な部類の筈だが……不思議と、居心地の悪さは感じない。

 ただ、側にいると酔いを錯覚する程度には、アルコール臭が鼻につく。

 

 そっと確認すれば、いつの間にか、宴会組の人数に変動が見られる。

 恐らく、あそこから来た人物なのだろう。


「ダメですよ。ユメビシ君はまだしも、こちらの三木君は明らかに未成年……」


 トウノサイの不自然な間の後、隣から「ひゃっ」と小さな悲鳴が上がる。

 

 振り返れば、()()の両頬を両手で包み込み、至近距離で観察している女の姿があった。

 背丈は俺よりもずっと高く、凛とした雰囲気の美女ではあったが、有無を言わせない迫力を放っている。

 そんな視線を浴び続けるミキは、捕獲された小動物の様に怯えていた。 

 

「そうねぇ……ちょっと青白いけど、可愛い顔してるわぁ。ユメビシ君もね」

 

 女は何かを見定める様な険しい表情を崩し、とびきり優しげな微笑みを見せた。

 その仕草は同性にも効果絶大だったらしく、ミキはほんのり頬を染めながら、戸惑っている。

  

「えっと……あ、あの……ふごっ!?」   

「よしよし、もう怖がらなくて良いのよ〜」 

   

 彼女は少女をたいそう気に入り、愛玩動物を愛でる以上の、大胆なスキンシップを始めてしまった。

 

 三木の顔を、自身の豊満な胸元に埋めながら、強く抱擁して離さない。 

 控えめな抵抗の合間に漏れた、何かくぐもった擬音。

 要約すると、『離してほしい』旨を切実に訴えていたのだが、当の本人には届かなかった。

 子猫が戯れているとしか、認識してないからである。

 

 しかし、この場にいた誰もが『そろそろ助け舟を出した方が良いのではないか?』と、なけなしの善意を思い出していると……。

 ユメビシにとっては数少ない、聞き覚えのある怒声が飛んできた。

 

「おい、そこの酔っぱらい二人! 俺だけに見張させるな、さっさと戻ってこい!」



 ***


 

 こうして、彼らが先程まで酒盛りを興じていた場所へ連行された御一行。

 

 太い大木の下に、大人数でも問題なく座れそうな赤い敷物が広げられていた。

 その上で鎮座し、待ち構えていたのは、見知った顔の二名。

  

「……ったく、カナンはまだしも。リンシュウ、あんたもか」

「あら、御免なさいね? 私好みの顔だったから、つい」

「大勢いると楽しいだろ? 祭りみたいで、ついな」 

 

 一人は、仏頂面のシュンセイ。

 相変わらず目の下には、深いクマを刻んでいる。

 彼の制止を振り切って、場を離れたらしい、カナンとリンシュウを呼び戻した功労者だ。

 苦情を漏らしているが、罪悪感のカケラが微塵もない二人に、却って(たしな)められている。


 そしてもう一人が…… 

 

「揃ったね。それじゃあ、始めようか」 


 ……何故か、上半身を縄でぐるぐるに縛られた男で、凛々しく、そして高らかに宣言した。

 

 ユメビシは後に、アリマから「ドン引き」という表現を教わるが、この時はまだ知る由もない。

 故に、柔らかめな嫌悪感を露わにしていた。 


「ヨミトは……なにしてるんだ」

「なんだいその目は! 別にこれ、趣味じゃないからね!」 


 ユメビシはそんな弁明を横目に、ここへ移動するまでの道中、トオツグがこっそり教えてくれた情報を整理する。

 

 ――四柱の神、その配役についてだ。

 

「おやおや、随分しっかりと縛りましたね」

 第四茶室の主人、トウノサイ。

 丁寧な言葉で話し、落ち着いた雰囲気の男。

 主人の中で一番の古株。故に、まとめ役になることも多い。

 ところが、その風変わりな眼鏡を愛用しているなど、独特な感性や価値観を持ってるらしい。 


「だってヨミトったら、すぐ居なくなるんですもの。それに、口を開くには困らないでしょう?」  

 第三茶室の主人、リンシュウ。

 大胆な着崩しに、大きな髪飾りが印象的な女。

 瞑之島の守護を担っている実力者で、こと戦闘においては彼女に依存してる部分が大きい。

 戦闘における残忍さとは裏腹に、無邪気な一面もあるらしい。

 

「あらら〜僕、すっかり疑われてる」 

 言わずもがな、ヨミト。

 この状態でいながら、いつも通り、どこか余裕ある態度を崩さない。

 そういえば……中立者とは、どういう意味だろう?

 

「そりゃあ、な。日頃の行いじゃないかね?」

 第二茶室の主人、カナン。

 癖っ毛な髪を高い位置で一つにまとめ、派手な鉢巻をした男。

 この島における『祭り』を司る主神でもあり、賑やかなこと自体が好きな祭り狂い。

 少々暑苦しい所もあるが、この集まり唯一の良心枠らしい。


「はぁ……いいから、始めよう。日が暮れるだろ」

 そして第一茶室の主人、シュンセイ。

 大きなフードの付いたマントのような物を羽織り、中は和装に袴姿の男。

 主人の中では一番の若手で、隙あらば脱線する進行を主軸に戻すなど、影の苦労人らしい。

 しかし我慢が限界に達すると、所構わず苔を生やす悪癖を持つ……。

 

 

 こうして彼らが一同に介した光景を見ると、主人達とヨミトの共通点に気づく。

 髪型や髪質はそれぞれ全く異なるものの、髪色は銀髪。 

 銀とは言っても、シュンセイだったら薄桃色っぽかったりなど、それぞれ薄っすら異なる色味があるのだと。

 

 そんな各茶室主人が奥、その対面側に俺とミキ、大木を背にヨミトが座る。

 トオツグは俺達の一歩後ろで、何やら紙に書きこんでいた。 

 

「うん、それはごもっとも。それじゃあ改めて、実に82年ぶりの会合を始めよう」

 

 ――その言葉を皮切りに、これまでの和やかとも取れる雰囲気が、一変した。


 背筋を這う薄寒さと、好奇に期待を寄せる熱気。

 この相反する未知の集い、開始の狼煙が立ち込める。

 それは芳香な……いや、こちらを酔わせるほど甘い、華の香りだった。

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