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幽縁ノ季楼守  作者: 儚方ノ堂
第二章 廻る帰還
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招かれた者たち(3)


 ――体感としては、ほんの数分後。

 

 何処からともなく、クロミツは戻ってきた。

 ご主人の元へ、一直線に駆け寄る姿は、本当にワンちゃんみたいだ。

 もし尻尾があれば、千切れんばかりに振られている事だろう。

 

 そして、私へのひと睨みも忘れない。

 ……彼に睨まれる様なこと、したのかな?

 

「お待たせしました! あちらへ()()()()()()()

「ご苦労様です。それでは私達も参りましょうか」

「……え、私も!?」

 

 差し出された手と目線で、初めてその「達」に自分が含まれていると知った。

 もたつく私に、イラつきが隠しきれないクロミツは、大きなため息を漏らす。


「察しが悪いな。当たり前だろ、あんた当事者なんだから」 

「君自身の今後に関わりのあることですので、参りましょう」

「そう、なんですか……分かりました」  


 あれ、さっき準備がどうのって言ってたな。

 なんだろう。乗り物の手配とか?

 車にでも乗っていくのかな。


 ……なんて、能天気に考えながらついて行くと、敷地の隅に案内された。

 当然、行き止まりだ。

 

 目の前には、正式名称は思い出せないけれど、神社においてある最初に手を洗うアレが。

 ただ……常識的に考えれば、中には透き通った水が溜まっているはずだよね?

 それが何故、水面にはゆらゆら〜と、ここには在りもしない鳥居を映しているのか。

 プロジェクターで投影しているのかと、あたりを見渡すも、そんな装置は見当たらない。


「よいしょっと」 

「…………あの、なにしてるんですか」 


 あろうことか、トウノサイはお風呂に入る気軽さで、石の囲いに腰をかけ、その不自然な水中に両足を沈めた。

  

「こちらを通り抜けて行きますよ」

「……は、はい?」 

  

 なにを言ってるのだろうか。

 全く意味がわからない。


「あの遠慮したいです、全力で」

「あぁ? なんでさ、(もぐ)るだけだろ」

 

 断固、嫌だ……!

 得体が知れない上、シンプルに怖いよ、主に発想が。

 ど、どうにかして逃れなくては。

 

「何でって……そう! 私、お泳げませんから」  

 

 渾身(こんしん)の言い訳を披露したのに、二人からの反応は散々だった。

 

 クロミツは芋虫を噛み締めた様な、忌々しそうな表情。

 トウノサイなんかは、瞳をうっすら開き、キョトンと惚けている。

 

 ……まるで私の方が、見当違いな主張をしてるみたいに錯覚するではないか。

 

「バッカ! 今から素潜りやれって意味じゃない。寧ろ一滴も濡れないの、ただの出入り口!」 

「いや……いやいや、流石に無理がありますから。どこのSFファンタジーですか!」

「なるほど。愉快な方ですが、困りましたね……では心の準備が整ったら、いらして下さい」 

 

 そう言うなり、トウノサイはなんの躊躇もなく、入水。

 その長身な人物は、決して深くない、囲いの中へすっぽり消えてしまった。

 

 残されたのは、不機嫌そうな少年と、脳内処理が追いつかない少女。

 

「なっ、え?! どうなって……」  

「はあああぁ。もーーーー、早くいけよ」

「どうして……消えちゃった」

「見てただろ。これはただの手水舎(ちょうずや)じゃなくて、神域同士を繋げるドアみたいなもんなの。受け入れろ。そして二度とここへは来るなよ、迷惑だから!」

 

 不用意に覗き込んでいた私の背中を、ここぞとばかりに押すクロミツ。

 ぐんぐん視界に迫る、怪しい水面。

 心なしか、花の様な甘い香りがするにしても、だ。

 

「わわわっ、ちょっと押さないで! 心の準備が!」

「いつまでもお待たせするな! 庭師の俺様がいるから、こうして楽に、安全に行けるの。さっさと……しな!」


 ついに手加減の限界が来たらしい。

 勢い良く背中を足蹴りされてしまった。

 

 成すすべなく、そのまま頭から突っ込んで……どうなったのか?

 

 きたる冷たい水の衝撃に身構えていたけど、それは本当に僅か一瞬のことで。

 今は寧ろ、温かい何かに支えられているような……想像とは真逆の感触。

 

 真実を確かめるべく、固く閉ざした瞼を開けると、誰かの腕に力強く支えられていた。


「昨日の……!」 


 状況を判断するのに、ワンテンポ遅れた私は、その声に反応して顔を上げた。

 

「す、すすすみませんって、あああっ! ユメビシさん!?」

 

 それは、あまりに予想外の人物で、つい大きな声が出てしまった。

 心臓へ追い討ちをかける様に、今このタイミングで、最も会いたかった人の登場。

 

「平気か? 勢いよく飛び出してきたけど」

「は、はい……すみません、色々驚いてしまって……」


 ようやく動悸も治まり、ゆっくり体を離しながら、ふと疑問が一つ。


 あれ? そう言えば。

 ユメビシさんもいるなんて、そんなこと一言も……。

 

 前方で何やら、優しそうなお兄さんと談笑しているトウノサイに、抗議の視線を送る。

 すると彼は肩をすぼませ、澄んだ瞳で言い放った。

 

「それは、聞かれませんでしたから」と。

 

 


 ――そして、現在。

 

 ユメビシと三木しずなは、思わぬ形で再会を果たした。

 外部の人間が招かれることのない、ヨミトが管理する中立神域へ。


「あ、あの!」

 

 溢れる想いを落ち着かせ、声を上げた三木。

 まだ適切な言葉は見つからず、どれだけの感謝を述べても足らないと思った。

 それでも、まずお礼だけは言わないと。

 

 身を投げ出してまで助けてくれて、手を離さないでいてくれて、ありがとう。

 そして……そんなことをさせてしまって、ごめんなさい、と。

 

 ――しかしその声は、ユメビシに届くよりも先に、威勢の良い声でかき消されてしまった。


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