表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽縁ノ季楼守  作者: 儚方ノ堂
第二章 廻る帰還
26/30

招かれた者たち(2)


 ――時は、少し遡る。


 場所は第四茶室。

 トウノサイが治める神域には、世にも珍しい客人――蟠華に寄生されていた少女がいた。

 開花寸前までいったのに、今もなお、人の形を保っている稀有な存在。

 

 ……本音を晒せば、今すぐにでも隅から隅まで調べ尽くしたい。

 しかしその欲求に耐え、自然経過を見守ることに専念したのは、ヨミトを始め他の主人達の総意であったから。

 変に手心が介入しない、純粋な結果に皆興味があるのだ。

 

 夜が明け、朝の日差しと共に、待ち侘びた瞬間は訪れた。

 蟠華が確認されてから、記念すべき初の生還者。

 彼女は自身の生命力だけで、再び目を覚ましたのだ。

 

「気分はいかがですか」

「……えっと……」

「ではお嬢さん、お名前は?」

「なまえ……」 


 朦朧と曇っていた瞳に、ゆっくり光が宿る。

 

三木(みき)しずな……です」

 

 それは自身を起動させるための、魔法の言葉。 

 もう一度、同じ人間として歩むために、必要不可欠な儀礼なのだろう。

   

「では三木君。体に何か、違和感や不調を感じますか?」

「いえ、特には……それより、あの人は」

「はて、あの人?」

「崖で私の代わりに落ちた……男の人」  


 初めて見せる大きな感情の揺らぎ。

 美しい雫の源泉が、瞼の内に溜まっていく。

 しかし、それは表面張力の様に留まり、決して溢れる素振りを見せない。


 

 ――あぁ、なんて(そそ)られる……


 

「あの……?」 

「いえ失礼。噂に聞くユメビシ君ですね。その後に対面してますが、やはり覚えてはいませんか?」

「はい、すみません……。でもユメビシさんは無事なんですね……良かった」 

「随分丈夫らしいですよ、彼」 


 目の前の男性には、覚えてないと返答してしまったが、本当は一つだけ、心当たりがある。

 

 それは不確かで、現実味のない……記憶の端に追いやられた、悪夢の記憶。

 その断片は、『もう一生味わいたくない』といった、本能的な苦しみを物語る。


 しかし、それを終わらせてくれた人影を見た。

 その人にもう一度会いたくて、お礼が言いたくて。

 そんな願いを道標に、こちらへ戻って来られた……気がする。

 

 ――だというのに。

 

 何故か私は、またおかしな場所にいた。

 しかも……なんだかとっても、嫌な感じがする。


 視界の情報だけで言えば、美しいと表現できる場所だろう。

 私には、特別なものはあまり視えない。稀にうっすら視えるけど。

 その代わり、体感として察することができる。


 ――この場所には、ずっしりくる重さがあった。

 

 澄んでいるのに、禍々しい。

 静かなのに、騒がしい。

 そんな相反する、見た目とのギャップ。

 

 だからこそ、得体の知れなさが、心底薄気味悪い。

 

「……変な場所」 

「変わってます?」

「ここ、なんですか」

「端的に申し上げれば、僕のテリトリーですね」

「いや、それは何となく分かりますけど……」 

「端的過ぎましたか? では、第四茶室。それが僕の管理する神域の名前です。訳あって貴方をここに一晩、隔離させて頂きました」

「神域……それより、隔離って。ここ思いっきり屋外ですよね? 私ここで過ごしたんですか、真冬に!?」  

「すみません、室内に入れるのは少々気が引けまして。でも肌寒くはなかったでしょう? 毛布掛けときましたし」

 

 ――薄々思ってたけど、この人……怪しすぎる!

 

 その奇抜な目元と謎眼鏡は、この際置いといて。

 こんなに優しそうな表情をしているけど、隠しきれない冷たさを纏う。

 それは本人から出ているのもなのか、この場所に由来するものなのか。

 

 特にあの、()()()()()まずい気がする。

 ……意識を向けるだけで、胸が圧迫されるように息苦しい。 

 

「驚いた、分かりますか? 鋭い感性……いえ、()()()()()をお持ちですね」  

「へ……?」

「いやね、上手く隠せてると自負していたんですけど。貴方、明らかにあちらを見て、嫌そうな顔をしたから」

「……無闇に関わりたくないだけです。それくらいしか、自衛の手段、ありませんから」

「不思議ですね。それだけこの場所に嫌悪感を抱きながら、元の場所へ帰りたいとは願わないのですか? そういった台詞が出ませんね」

「それは……」

 

 困ったことに、全くその通りなのだ。

 正直、家どころか地元にも帰りたくはない。

 ……まあだからと言って、この場所に居続けたいわけでもなく。

 本当、これからどうしよう?

 

「何か訳がおありのようで。寧ろ好都合かもしれません……貴方次第ですが」 

「それって、どういう……」

 

「トウノサイ様!」 

 

 突然別の声が聞こえたかと思えば、果たして何処から現れたのか。

 一人の少年が目の前にいる男性の隣に立っていた。

 トウノサイさんって言うのかな、変わった名前だ。

  

「クロミツ、そろそろ向かいます。準備をお願い出来ますか?」

「はい勿論! お任せ下さいっ!」

 

 そう元気よく答えた、なんだか忠犬を彷彿とさせる少年に。

 すれ違い様、何故かジロッと、睨まれてしまった。

 

 ……何だったのだろう、あの子。

 

「クロミツは素直で可愛い、うちの庭師ですよ」 

「すみません、心の声聞こえたりします?」

「読心術なんて使えなくても、君は分かりやすいですからね。嘘、つけないタイプでしょう?」  

「そ、そんなこと……ないですよ」  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ