表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽縁ノ季楼守  作者: 儚方ノ堂
第二章 廻る帰還
24/29

いざ、会合へ


「どうなって、」

   

 ヨミトによる不可解な退出芸は……この際、目を瞑るとして。

 真に驚くべきは、あの気怠さが嘘のように、体が軽いのだ。

 寧ろ、ここ最近で一番調子が良いと思えるほど。


 ……果たして、何をされたんだろう。

 いや、もしかしたら今見てたのは白昼夢で、ヨミトなんて来てない可能性もあるじゃないか。

 

 と、納得しかけて部屋を見渡せば。

 小さな机の上に、見覚えのない洋服が一式放置されている。

 それは唯一部屋に残された、奴が来た事を証明するものだった。


 ――何がしたいんだ、あいつは……? 

 

 そもそもの話、準備出来たら迎えに来るとは、言ってたが。

 ……まあ迎えに来てどうするかなど、詳細は聞いてないけども。

 

 わざわざ俺を……どうやったか知らないが回復させ、着替えさせてから、玄関に向かわせて。

 また何処かに移動でもするのだろうか?

 

 ともあれ寝込む理由を失い、他にやる事もない。

 腑に落ちないまま、手袋をはめて、用意された皺一つない服を手に取る。

 

「もし、トオツグさんって人待たせてるなら、悪いしな……」

 

 そう鏡に映る自分を説得して、ボタンに指を掛けた。



 ***

 

 

 未だ安眠の静寂を纏う傘ザクラは、扉の開閉音にも気遣わなければ、音が響く。

 慎重にそっと閉めると、安堵の息が漏れた。

 流石に廊下はやや肌寒く、深く吸い込むと体内に冷気が満ちる。


 さて、右手側にまっすぐ進むと玄関だが……ん?

 少し長い裾を捲り歩き出すと、随分低い位置にある人影を視認できた。

 どうやら地面にしゃがみ込んでいるようだ。


 近づくとその全貌は明らかになる。

 ぴしゃりと閉められた戸の前で、一人の男が座り込み、コクコクと頭を上下に動かしている。

 右手には白いチョークを握り、戸や地面に何か模様を書き込んでいたらしい。

 しかし……途中で、線はあらぬ方向に伸ばされ止まっている。

 

 まさかと思い、横から顔を覗き込めば、今にもずり落ちそうな眼鏡が危うく揺れていた。

 レンズの奥には、シュンセイよりは控えめでありながらも、しっかりとクマが刻まれている。

 

「……あの、大丈夫ですか?」

「えぇ、はいはい、問題ないですよ三徹くらい。どうってこと……」


 ――上げられたその端正な顔を、これといった理由もなく、ただ単純に()()()()()()()()()()()


「えっと……何か、僕の顔についていますか?」

「……いえ、それ。何を書いてるのかと」

「今し方、急にヨミトに頼まれまして。これ()()()()消えるんですかね? 見つかったら、アリマ君に怒られちゃいますよ」


 ははは、と笑う声は力無く消え入りそうな物だった。

 真っ白い顔に、よろよろと眼鏡を掛け直す姿は、余程疲れているのだろうと見てとれた。

 

「いけない、申し遅れました。僕はトオツグ。あなたがユメビシ君ですね?」

「そうですけど……ん、その()()とは?」

「なんだか会合が前倒しになったとかで、今回はここを入り口にするらしいですよ。その下準備をしてたんですが……はい、これでよし」


 か、会合……?

 くどい様だが、当然何も聞かされてない。

 

 話についていけてない俺と対照的に、テキパキとその下準備とやらを済ませた彼は、懐から小瓶を取り出した。

 蓋を外すと、ツーンとした香りが鼻腔を刺激する。

 

 ――酒か? どうして今、そんなもの出したんだ?

  

 あまりにも不思議そうな顔をしていたのだろう。

 トオツグさんが慌てて、補足を入れる。

 

「これはヨミトから預かった御神酒(おみき)です。試飲用じゃ無いですよ、これはこうして……」


 ――パシャ


「え」 

  

 躊躇なく、彼は戸にその中身をかけると、玄関に日本酒独特の香りがじんわり広がる。

 

 滴り落ちた液体は、あのチョークで描かれた模様に到達し、染み込んでいく。

 すると白かった線は、徐々に朱色へと変わり、更に心無しか発光しているようにも見えた。

 

「上手くいって良かった。でもこれ片道切符ですね。帰りは別口からになりそうだ」 

「は、はぁ……」 

「それでは参りましょうか」 


 彼が戸を引くと、目の前には()()が広がっていた。

 明らかに廊下の窓から覗く、眩い朝の景色とはかけ離れた……色彩を失った「無」。


 ……しかし、目を凝らすと奥には灯りらしきものが見える。


「大丈夫ですよ、僕もご一緒しますから」

「え、あ、ちょっと……!」


 心の準備もそこそこに。

 トオツグに手を引かれたユメビシは、奇妙な空間へ、足を踏み入れる羽目になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ