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幽縁ノ季楼守  作者: 儚方ノ堂
第一章 御伽の土地 
16/33

御伽の真髄


 意気込んで早々、いきなり素通り出来ない単語が出てきた。


 「あぁ、ごめん。正確には69年だったかな?」 

  

 ――なにを言ってるんだ?

 そんな浦島太郎的な話があってたまるもんか。

 浦島太郎はいいさ、楽しく過ごした思い出がある。

 それに比べて、俺は眠っていた間のこと、何も覚えてないんだぞ。 


「いやいや。そうじゃなくて、冗談はよしてくれ」


 心の中の独り言に対する訂正は、ヨミトに対する苦情と完全一致し、口から漏れ出た。

 

「冗談じゃないさ。ユメビシがある場所で過ごした年数。なに、些細な時間だろう? ()()()()()()()()」 

「そんな訳ないだろ、()()()()……!」

「まあ今は実感無くても、そのうち分かるよ。(むご)いよね21世紀」

「実感以前にお前の発言を信用したくない!」

「はははっ! 嫌われちゃったなぁ……て、どこに行くんだい?」

 

 このままでは埒が開かない、と踵を返した所を呼び止められる。

 正確には強い力で手首を掴まれてしまい、振り解けない。


「とにかく……! 俺は、もう少し信頼できる筋から話を聞きたいんだ」 

「えぇーー、さーみーしーいー。そんな信じられない? 嘘は言わないタチなんだけどなぁ」

「その口調が胡散臭さに拍車をかけてるんだよ!」 

「まあまあ、それはそれとして。ダメだよ、ユメビシ。この()にも色々ルールがあるのだから」 

「は、島……?」 

「そう。今いるのは()()()()()()()()()瞑之島(みんのとう)


 ヨミトは空いてるもう片方の手で、地面を指差す。


「待て待て。船は苦手で乗れないんだ。どうやってここまで……てまさか、眠ってる間に輸送したのか、この外道!」

「人聞きの悪い子だね。ここしばらく、船なんて使えてないよ。そんなものなくても()()()()()()()()()()からね。ユメビシも、あそこを経由したでしょ?」

「…………神社って、どこにあるんだったか」

「本島だね。今でいう千葉県」

「……それがどうして、海を渡った先の島に繋がるんだよ。騙されないぞ」

「そりゃ神域で繋がってるからね。物理的に地中で繋がってる、とかではないよ」


 ――神域、またこの単語だ。

 最近よく聞くが、この島と密接な関わりがあるらしい。


「この島、一体どうなってるんだ。普通とか一般常識から、かけ離れ過ぎだろっ」    

「そうなんだよ! ()()()()()()()、曰く付きまくり! なんと言っても現代まで残る御伽の島だからね」

「は……御伽?」

「一言で表せば、幽世と現世の中立地帯を担っているのがこの瞑之島。遥か昔より、この土地には妖が取り憑いているんだ。なに、気の良い怪異さ。その穏やかさ故か、何かしらの事情を抱えた人間や妖が拠り所とし繁栄。街まで出来た」

 

 ヨミトは先程と打って変わり、静かで落ち着きのある声色で語る。

 手はすでに離されていたが、この場を離れる気にはなれなかった。

 理由は、出会ってから一番真剣なヨミトの面構え。

 それだけで、この話の重要性を思い知るには、充分過ぎる。

 

「ここの住人達は、他者との繋がりを大事にする傾向が強い。よって、皆知らない顔には敏感だ。つまり何が言いたいかっていうとね……」 

「嫌な予感」

「お察しの通り。今ユメビシ一人で、自由に散策をすることは出来ないし、島からも当然出られない。ボク無しではね」

「…………最悪だ」

 

 心の底から嫌だ。気が乗らない。一緒にいると疲れそう。

 そんな拒絶三拍子が出てくるくらいに絶望的な人選だった。

 その直球すぎる感情が、深く、眉間の皺となり現れたことだろう。


「まあまあ。しばらくはボクの言うことを聞いて、大人しく過ごすことだね。それが穏便に過ごすコツってやつさ」 

「致し方ない、のか……それで俺をどうする」 

「シュンセイから聞いてないっけ? 傘ザクラという宿舎で保護してもらうんだよ」 

 

 そういえば、元々そのような運びになっていた。すっかり忘れていたが。


「改めまして、ようこそ。そしておかえり、ユメビシ。季楼庵(きろうあん)はキミを歓迎するよ」 

「キロウアン?」

「島の中枢を担う組織といったところかな。ちなみにこのヨミトは、そのNo.2さ。以後お見知り置きを〜」


 そしてヨミトは、再び進み始める。

 海から生えた鳥居に背を向けた一直線上の浜辺の先。

 綺麗に舗装された緩やかな段差、もとい階段が長く上へ続いている。

 

 階段を数段登って最後に一度だけ、海を振り返った。

 相変わらず靄が立ち込めており、鳥居から先は途端に景色が曖昧になる。

 橙が溶け出した水面はどこか不気味で、本当に御伽噺にでも出てきそうな光景だな、と。

 そんなことを思った。

 

「ユメビシー、先を急ぐよ。夜が来てしまうからね」

 

 上段で俺を呼ぶ声が聞こえる。

 手招きしながら、先の知れない場所へ誘おうとしている、妖しい男。

 それはまるで……。

 

「……神隠し、なんて」

「ん、何か言ったかい?」

「なんでもない、今行く」

 

 一段上がるごとに、例の仕舞い込んでいた鈴がコロンと鳴る。

 そんな控えめな囁きが、今は不思議と頼もしく思えたのだった。 

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