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兵站将校は休みたい!  作者: しろうるり
第3章

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【13:集結】

「いい仕事に対しては報酬で、と言いたいところなんだが」


 レフノールの言葉に、ああ、とアーデライドが頷く。


「路銀は余裕を持って渡してもらったし、さほど危険な仕事でもなかったからね」

「アデールはそうだろうけどさあ」


 少々不満そうなのはヴェロニカだ。


「距離測ってメモ取ってそれをまとめて、って、危険じゃないけどそれなりに面倒なんだよ?」

「おかげで俺や俺の部下は、面倒な思いをしなくて済む」


 にやりと笑ったレフノールが席を立ち、ちょっと待っててくれ、と言い置いて自分の机のそばへと向かった。すぐに戻ってきたレフノールの手に、酒瓶が握られている。


「現物支給、ということですか?」

「こういう、ちょっとした手間を掛けてくれた相手にはな」


 酒瓶を指さして尋ねたコンラートに、レフノールは頷いて答えた。

 少々高めの蒸留酒を、こういうちょっとした褒美や、あるいは付け届けのために、レフノールはいくつか持ち込んでいる。新たな任務は大隊の兵站を取り仕切る役回りで、上にいるグライスナー中佐には効かないが、使いどころに困るものではない。


「12年――グレングラスですね、それ。いいんですか?」


 尋ねたリオンに、もちろんだ、とレフノールはもう一度頷く。


「君らにはこれからもたっぷり働いて貰うからな。先払い、というわけじゃあないが」


 仕事をよくこなしてくれた部下や軍属を、レフノールは蔑ろにしない。考課や申し送りのときに記録に残し、あるいは相手先に伝える、というのはもちろんのこととして、日常の勤務の中でもそういったことをその場限りにしないよう心がけている。

 酒を飲む相手であればいい酒を渡し、飲みに出られるような環境であれば少々の金を渡して自由に使えと言う。あるいは、ひと仕事終えたならば、今日はもう上がれ、と命令してしまうこともある。言葉で礼を言うのは当然として、何らかの形にすることを、レフノールは日頃から意識しているのだった。


 それでお互いが気分よく仕事に向かえるのならば、とレフノールは思っている。


「作ってくれたやつは、あとでまたじっくり見せてもらうよ。その上で、わからない部分があれば訊くから教えてくれ」

「了解。なんでも訊いて。あんまり時間が経つと忘れちゃうかもだから、早目に」


 先ほどまでとは打って変わった上機嫌な様子で、ヴェロニカが応じる。レフノールは頷いて、冒険者たちを下がらせた。


※ ※ ※ ※ ※


 兵舎の中が整い、そこに常駐する兵や将校が増えてくると、兵営の様子は変わってくる。がらんとしてどこか空虚な雰囲気だった廊下には足音が絶えないようになり、近所の猫が我が物顔でうろつき、ときに昼寝をしていた営庭は、靴音と命令、そして復唱の声が響くようになっている。


 順次送り込まれた兵が揃う頃には、王都から後発の将校と下士官たちが出向いてきた。レフノール自身も、ブラウエル少尉やグライスナー中佐、そしてリディアやベイラムと、久々に顔を合わせている。


 編制開始以来、はじめて将校の総員が揃った会議の場で、レフノールはこれまでのあれこれを報告した。その報告へのグライスナー中佐の総評は、短くも重いものだった。


「よろしい。諸々、よく整えてくれたようだな。大尉、ご苦労だった」


 居並ぶ将校たちをぐるりと見回し、小柄な中佐はよく通る声で続ける。


「兵站がここまで整えてくれたのだ。歩兵にせよ騎兵にせよ、前線へ出る者は皆、そのことを憶えておけ」


 は、と将校たちの声が揃う。レフノールは黙って一礼した。兵站の努力と苦労を理解してくれる上官は得難い。それを一線の将校たちに向かって口に出してくれる、となれば尚更だ。


「準備を十全に活かすためには訓練が要る。ここに駐留する部隊は差し当たり、兵個人の戦技と体力を底上げする方針でやれ。前線の――」

「アトルスとエディルです」


 言い淀んだ中佐の言葉を、レフノールが補う。


「ああそれだ。そちらに出る者たちは出た先で。砦まで出てしまうと、訓練は実質的にできなくなってしまうだろうが」


 本部のあるパトノスには大隊の半数、二個中隊と騎兵や補助部隊が。国境に近いアトルスとエディルにはそれぞれ一個中隊が。アトルスとエディルの先に二箇所ずつ、合計四箇所にある砦には、アトルスとエディルに派遣されている中隊から、各一個小隊が。


 砦で行うのは警戒や周囲の巡視が中心になる。訓練や休養に充てられる時間は、ほとんど取れない。それらは、アトルスやエディル、あるいは更に後方のパトノスで行うべきこと、とされている。レフノールを含めた幕僚たちも、そのあたりの匙加減は承知していた。


 実戦に近い緊張を強いる警戒や巡視と、後方で行う訓練や休養を繰り返し、兵の技量と部隊としての練度を上げてゆく。目新しさはないが、手堅く実績のある方法だった。そして、軍で求められるものは、目新しさではない。着実な底上げこそが求められている。レフノールはその点について、己の上官を疑っていなかった。


準備期間がそろそろ終わり、通常のお仕事が始まります。

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