17話『戦う理由なんて何でもいいし、分からなくたっていい』
俺は本来この世界には存在しない筈の異物だ。異世界の人間だ。だから別に、この世界の人間に対して特に思い入れはない。
この世界に来てから一番長く顔を合わせていたのはロットだった。そのロットでさえ、関わった年月で言うとたったの半年ちょっと。
多少親しくはなったが、元の世界の友達に比べたらずっと希薄な関係性だと思っている。
「……」
沢山の人が死んでいくのを見た。その様を見て、一応人間ぶって怒りを露わにしている風に装ってはいたが、本心から敵を憎んだかと言われると首を縦には振れないと思う。
正直、『こんな状況に出くわしたら怒り悲しむべきだろう』という刷り込みがあったからそうしただけで、俺自身の感触としては、あまり実感が湧かなかったと言うのが正しいかもしれない。
……親しくしていた人間が、誰かの手によって無残に殺されるだなんて今まで経験したことがなかった。
怒るというより、なんだろう、力が入らない。
「十三年だ」
ロットを殺した男が低い声を出す。さっさと襲いかかればいいものを、相手はロットの傍で立ち尽くしている俺をただ傍観していた。
「お前に敗れてから十三年の月日が経った。死んだような日々だった。お前にズタズタにされたせいで俺は剣を振るえず、戦えなくなり、日に日に存在意義が失われていく感覚が強まっていった」
「……」
「でもお前はフレイディスを殺した。その憎悪は片時も忘れた事はない。ようやく、お前に復讐する機会が巡ってきたんだ」
「……復讐?」
復讐、か。
コイツはロットを殺した。俺にとってコイツは、復讐するべき怨敵なのだろうか?
戦争になれば誰であろうと等しく死と隣り合わせになる。悪いのは人じゃなくて戦争そのものだ。戦争で人が人を殺した場合、殺した人間に罪はあるのだろうか。
「……あ、でも。仮に俺が殺されたとして、俺を殺した人間を憎むような奴はこの世界には居ないんだよな。じゃあ、俺が復讐されるのならそこで一旦区切りにはなるのか」
「……何を言っている?」
「戦争の勝ち負けには影響を及ぼすだろうけど、仮にロドスが負けたとしても責められるのは俺だけだもんな。……気は乗らないけど、しゃーないか」
「……?」
両腕を背の後ろで組んで、目の前の剣士に無抵抗のポーズを見せつける。
「…………何のつもりだ」
「降伏のつもり」
「ふざけているのか」
「ふざけてない。俺は戦わない。捕らえるなり殺すなりすればいい」
俺がそう言うと、ローゼフは数歩こちらに近付き水溜まりを蹴って泥水を浴びせてきた。
変わらず無抵抗を貫く俺を見て、ローゼフは足元のロットの姿を一瞥し俺に不愉快そうな目を向けた。
「仲間が殺されたんだぞ」
「殺したのはあんただよね」
「そうだ。この刃に付着した血はその男のものだ。……憎いだろう」
「いや? 憎くない。あんたよりロットのが弱かったんだなーって思うだけで、他に思う事なんてない」
「……貴様。性根まで腐っているようだな」
「赤の他人が死んだくらいで義憤に駆られるような奴、俺のいた世界だったら偽善野郎と罵られて嫌われるよ。漫画の主人公みたいな勘違い野郎なんざそうそういないんだよ。性根は腐ってない、俺みたいのがノーマルだ」
「偽善だと? 仲間の死に怒り報復を決意することのどこが偽善だと言うんだ!」
「知らね〜よ。善も偽善も他人の評価で付けられるレッテルだろーが。どこが偽善なんだって言われても具体例なんか出せないわ、なんとなく偽善っぽいから偽善なんだよ」
「……お前が戦うのを放棄したら、騎士達はロドス帝国の全市民を殺めるだろう。それでも戦わないと?」
「戦わない。むしろ俺が戦いを投げたおかげで戦争が終わったっつって、50年後辺りのキリシュア国民に英雄的な扱いされるかもしれないね。そっちの方が」
「もういい。死んでおけ。お前みたいな奴は」
俺の言葉を遮ったローゼフがこちらに歩みより首に剣を添えた。
ーー狙い通りで安心した。やっぱこの人、今みたいな態度が一番癪に障るんだな。
「ッ!?」
水溜まりに沈みこんでいた戦斧を蹴り上げる。頭の横に置いていた手で柄を掴み取り、そのまま力任せに斧刃を起こしローゼフの左肩に叩き落とす。
「ぐ、あっ!?」
騙し討ちは見事に成功しローゼフの左腕と脇下の肉が抉れ落ちる。
アレクトラの記憶の中にあった万全のコイツは移動速度も攻撃速度もイカれてたからな。奇襲でもしないと傷一つ付けられない。
「おらあっ!!」
地面に落ちゆく斧の軌道を強引に捻じ曲げて今度は首を狙う。が、ローゼフは勢いよく後退してこちらの攻撃を回避した。
「魔法か!?」
相手に息をつく暇を与えたくないのでそのまま左手を翳して魔力をぶち飛ばそうとする。が、何も起こらない。
「……まじか」
ダゴナによって解除された腕の刻印がいつの間にか復活していた。あのジジイ、解除に制限時間でも設けてたのか? クソが、ちゃっかりしてやがるなマジで!
「うぉっ!?」
こちらが動揺している一瞬の隙をついてローゼフが距離を詰めて剣を振ってきた。
切っ先が俺の眼球を潰す前に斧でガードする。そのまま振り上げてローゼフの体を宙にぶん投げ追撃しようとしたが、空気を蹴ったのかなんなのかよく分からないがジグザグに高速移動して距離を取られてしまった。なんなのこの人、本当に人間……?
「自分の図体よりもでかい得物を振り回すか、馬鹿力め」
離れた位置に着地しローゼフが腕の断面をベルトで締めながら言う。
……? 右足に違和感を感じて目線を落とすと太ももに赤い線が入っていた。今の一瞬で斬られたらしい。
「剣を振るえなかった期間があったんだろ? 良かったな、剣の腕衰えてないじゃねーか」
「衰えたさ。全盛期であればお前の首を三回は落とせていた」
「テキトーほざいてんじゃねえよ雑魚、左腕切り落とされた分際でよ。やれてもねぇのに三回も斬れたとか馬鹿じゃねえの。ビッグマウスが」
「安い挑発だな。怒りを誘ってまた不意を突く気か? 卑怯な手を使う輩の考える手口だな」
「民間人もいる街中で戦闘をしかけたてめぇらに卑怯とか言われたくねぇ〜んだよ。事実を言われてムカついたか? 謝ってやるから靴を舐めろや」
「裸足だろうが。口の減らないクソガキめ」
「売り言葉に買い言葉で返してんじゃねえよ羽虫。叩き潰すからそこ動くな」
「やってみ「動くなっつってんだろボケ!」……ッ!?」
思い切り斧をぶん投げる。こんな巨大な武器を小さな少女の体で投げつけてくるとは思っていなかったのだろう、一瞬反応の遅れたローゼフの耳と髪が切れた。
そのまま軸足にした右足で地面を思い切り蹴り幅跳びの感覚でローゼフの元へ飛び込む。アレクトラボディはかなりの怪力なので、ローゼフ程ではないにしてもそこそこの速度で彼の懐にもぐり込めた。
「淀れ!」
魔力を迸らせた右腕で思い切りローゼフの顔面を殴りつけてやろうとしたが空を切った。躱した際にローゼフが俺の首に向けて剣を振るう。
「なっ!?」
魔力を迸らせていた左手でローゼフの剣を受け止めて空間に固定し動きを停止させる。わざとらしく技名叫んで殴りかかってきたから注意は右手に向いていたのだろう。単純すぎて笑える、騙し討ちに弱すぎるだろコイツ。
このまま刃をつまみ壊してやれば武器を失くしたローゼフを一方的にボコれる。そう思って指に力を加えようとした刹那、凄まじい威力の蹴りが俺の腹を刺してきた。
「がふっ!? だっ! いでっ! ふぎゅっ!?」
地面を二回もバウンドして建物に頭をぶつけ、そのまま頭部が破裂してしまった。強制的に自己蘇生が行われて俺の残機が1つ減る。
「失念してた。速く動ける分、脚力自体イカれた性能してんのは間違いねぇもんな……!」
「相変わらず気味の悪い能力を使う。それにしてもお前、頭のない状態で手足をじたばた動かしていたな。頭がなくてもある程度身体を動かせるのか」
「変な潰れ方したせいで神経が混線しただけだっつの」
大量の魔力を使う自己蘇生能力はあまり使いたくなかったが、とりあえず太ももの負傷とズタズタになった足の裏は完全に再生した。相手は左腕を失っている、こちらが有利だ。
だが、どうしたもんかな。肉体的にはこっちが優勢でも相手は剣聖、単純に強すぎる。骨で攻撃するにしても素手で攻撃するにしてもリーチが短すぎる。武器無しにやり合いたいとは流石に思えないな……。
「……初めはお前の事を性根の腐った奴だと思っていたが。やはり仲間を殺されたことには怒っているようだな。悪魔の癖に、人間らしいじゃないか」
「黙れ。殺し合いの最中に人間賛歌かよ、薄ら寒いんだよ人殺しが」
「……人殺しだと。お前がそれを口にするか、人喰い」
「誰が口にしてもいいじゃねえか。事実だろ。お前、自分が一体どれだけ人を殺してきたと思ってんだ」
「知らん、戦場に立つ者がそんなものを数えてなんになる」
「何にもならねぇな。でもそれじゃあまりにも犠牲者が可哀想だから今後は数えていくことにするわ。だから安心して逝っとけ、チャンバラ野郎」
「今後の事など考える必要ないだろう。お前はここで死ぬのだからな……ッ!」
やばっ、次の行動を起こすのを忘れて口喧嘩に乗っちまった! ローゼフが地面を蹴った、俺の視力じゃアレは追えない! クソッ、攻撃を打ち込まれた瞬間に骨で攻撃するか!?
「……お?」
ローゼフの移動速度は人間離れしている。目にも止まらぬ速さっていう月並みな表現を現実でやってのけるんだから普通に考えて勝ち目はない。でも、今回に限っては状況が違っていた。
土の上は雨水でぬかるんでいるし舗装された道も滑りやすくなっている。
本人の脚力に合わせて地面を噛むのに適した靴を履いているようだが、高速で足を動かせば水滴は面になって滑りやすくなる。多分そういう理屈で普段よりも動きがトロい、オマケにローゼフが通った道順が雨水の弾け具合から分かるから移動先も予測しやすい。
「あぶねっ!」
相手の踏み込みの呼吸に合わせて思い切り後ろにジャンプする。服が切れたが斬撃は躱せた!
武器を持たない俺が初撃を後退で躱したのなら、きっとローゼフは後ろ足を踏み込ませて切り上げ攻撃をしてくる。多分! 一瞬見えた姿勢から腰の捻りとか諸々を考慮して、相手の可動域の限界を予想して攻撃圏内から飛び出す。
「躱されただとっ!?」
「アニメか! 躱しただけでなに驚いてんだよマヌケ!!!」
地面を転がって二撃目を躱した際に地面から抉り取ったレンガを投げつける。剣を振ってる最中に回避行動なんか物理的に取れないよな! ざまあみろ、流石に今ので肋骨ボキボキになっただろ!
追撃はしない。蹴られたらまた吹き飛ばされてしまう。俺はローゼフに背を向けて、そのままさっきぶん投げた戦斧の所まで猛ダッシュする。
「背を向けるな卑怯者がっ!!」
数秒しか経ってないのにもうローゼフが俺のすぐ後ろにいる。この肉体だって人間基準で言ったら中々の化け物性能なはずなのに、こっちの全速力とかコイツからしたら幼児が逃げてる程度でしかないんだろうなぁ!
背中を浅く斬られる。でも今回はそれでいい。
「異状骨子!」
俺の肉に刃が到達した時を狙って背骨の節から骨を生成して伸ばす。
「舐めるな!」
「ッ!? なんで今のが当たらないんだよ!」
骨の刺突を躱された。完全に不意を突いた攻撃だったはずだ。攻撃動作をしてる最中に飛来してくる物質なんて普通の人間なら反応できないだろ!?
投げつけたレンガをモロに食らった時点でコイツの反射速度はそれなりだ。今のを躱せるのならレンガだって躱されてるはずだし、そもそも左腕を切り落とされた事の説明がつかない。こっちの手の内を予測したのか?
「ッ!? くっ!」
骨攻撃を躱したローゼフが一度足を滑らせるも再度攻撃を仕掛けてくる。安全圏は相手の左手側になるが、全力疾走してるからそちら側に飛び込むのは不可能だ。
なら迎え撃とう。俺は強引に足を止めローゼフの方に体を向ける。
「異状骨子ッ」
大きく胴体を仰け反らせて肋骨の先端を広範囲に向け、そのまま骨を増殖させてローゼフに差し向ける。またしても攻撃を躱された。ローゼフは攻撃動作を中断して大きく距離を取った。
まあいい。そのまま俺は背中を曲げて骨の先端を地面に叩き付け、骨を増殖させ続ける。勢いよく増え続ける骨に押し出された俺の肉体が宙に舞い、そのまま斧の落ちている所に落下した。
「いっでぇ!」
いててて。地面に先端を押し付けながら骨を伸ばしたせいで根元の肋骨が押し込まれて激痛を味わった。天才的なアイデアかと思ったんだけど残機を消耗しながら走り続けてた方がまだマシだったかもなー!
でもとりあえず武器は手に入れた。後はあのちょこまか動くアイツの対処法を考える必要がある。
入り組んだ場所に誘い込むか。なら市街地……生きてる市民は大体避難を終えてると思うから、建物が乱立している方に誘い込んで隠れながら奇襲の機会を待とう。
「待て!」
「待つわきゃねぇだ……ッ」
泥水をはねとばして魔力で視界を遮る障害物にし逃げようとした矢先。こちらに向かってくるローゼフが地面に倒れているロットを踏みつけようとした。
「淀れっ!!」
「何っ!?」
右手に魔力を込めて空間そのものを固定させる。何故だか知らないけど流体を固着させて一方向に押し出すと謎のエネルギーが生じて気流とか水流の砲弾と化す。理屈は分からないけどアレクトラがやってた! それを真似て、離れた位置のローゼフに向けて空気砲をぶちかます!
この攻撃の威力は距離が離れている分減衰する。でも俺とローゼフの距離なら相手の動きを一瞬止める程度の威力は出せていた。空気の弾丸が命中しローゼフが仰け反っている内に全力で大地を蹴って、渾身の力で斧を振り剣で受けたローゼフをぶっ飛ばす。
「今度は不可視の魔力攻撃か! 面妖な能力ばかり使いやがる!」
「はぁっ……てめぇ、目ぇついてねぇのか」
「なんだと? ……その男はもう死んでいるだろうが」
「黙れ。分かってんだよそんなの。死んでたら踏んづけていい理由になるとでも思ってんのか」
「なら問うが、人間は食い物なのか?」
「うるせえ」
「お前にとやかく言われる筋合いはない。偉そうに説教を垂れるな、虫唾が走る」
「はっ。悪魔だなんだと言っているが、これじゃあてめぇも俺と同族だな」
「お前と同族、だと?」
「人を食う。死体を蹴る。どっちも屑だ、目くそ鼻くそだ。ああでも、俺は罪のない市民は襲わないな。じゃあてめぇの方が下だわ」
「……くっ、元はと言えばお前がっ、お前らが!!! 始めた戦争だろうが!!!」
「言葉遣いに気ぃつけろや、目上の相手に吠えてんじゃねえよ三下が」
「こ、いつ……殺すっ!!!」
頭に血が上ったローゼフが愚直に俺を斬りに来る。
こちらの攻撃のリーチは斧がある分伸びた、刃にぶち当たらなくても柄の部分で打ち払うだけでローゼフなんか軽々と吹き飛ばす事が出来る!
弾け飛ぶ雨粒で相手の軌道を予測し戦斧を振るう。……ッ、体が沈みこんだ!? クソッ、胴体を斬られる!
「ぐはっ!? ……はははっ!! 捕まえたぞ馬鹿が!!!」
臍の上を刃が走っていくが関係ない、ローゼフの足を掴んだ! このまま魔力をっ。
「考えなしに突っ込むと思ったか!!」
「つぁっ!?」
自己蘇生が入ると同時に右目を突き潰され、そのまま足を掴んでいた腕まで切断される。
鬱陶しい、なんで長物を使ってる相手と密着してんのにここまで攻撃されなきゃならねぇんだよ!! 掴んでも斬られる、もう攻撃が届かない位置に移動してる! ならもう自分で歯を噛み折ってそれをローゼフに向けて吹き付けてやる!
「くっ、小癪な!!」
吹き付けた歯はローゼフの剣によって防がれた。嘘だろ、もう銃弾とか剣で弾けそうな勢いだ。本当になんなんだコイツ!
ローゼフの姿勢が低くなる、また突貫してくる! 面倒くさい、一度全身の骨を増殖させて近付かせないようにするか。
「グラッ、がっ!?」
単語を口にする前に泥水を浴びせられ、一瞬言葉に詰まった隙に距離を詰められて喉をぶっ刺された。やばい、声が出せない。
「お前のその骨を出す攻撃、何かしらの単語を呟く必要があるのだろう! 単語を口にせずに骨を出した時は予め肉体の内側に忍ばせていたものを伸ばしただけに過ぎず、戦闘で消耗した場合や一度に多くの骨を出す際には必ず単語を口にする必要がある! 魔法の一種なのだろうな!」
「か、あ……ッ!」
「これで骨の攻撃は封じた。残った腕の肩も刺し貫いた、もう何の抵抗もできまい! 後はなにかにお前を縛り付け、不死が切れるまで殺し続けるまでだ!!」
抵抗をしない俺を見て勝利を確信したローゼフが、そのまま俺を近くの木に縛り付け始めた。
激しい戦闘の物音を聞いたのかキリシュアの騎士が集まってくる。誰もがローゼフの勝利を疑わない、というか俺の事はただの無力な娘としか見ていないのだろう。俺を縛り付ける剣聖を見てむしろ他の騎士達は困惑した様子を見せている。
「これで、これでようやく仇を討てるぞフレイディス! 俺はやった、やったんだ!!」
俺を縛り終えたローゼフが瞳孔の開いた目で俺を見る。剣を振り上げた。……ここだな。
「死に晒せ、暴食の悪魔っ!!!」
「かはっ、ぎゃはははっ……は?」
「なっ、馬鹿なっ!?」
別に骨を伸ばすのに関しては必ずしも『異状骨子』って叫ぶ必要はない。そりゃいっぺんに沢山出す場合には口頭詠唱で発動を高速化する必要があるが、数本程度なら無詠唱でも即時骨を延ばすことは可能だ。
今回馬鹿みたいに短スパンで単語を口にしてたのは、その詠唱が必要不可欠だと思わせたかったからだ。ローゼフは見事その策にハマってくれた。
まんまと俺が抵抗できないのだと勘違いしてくれた。胸骨を延ばした一撃は正面にいるローゼフの胸に真っ直ぐ突き刺さり、心臓を穿つ筈だった。
ローゼフの胴体に骨は刺さらず、代わりに彼は骨に打たれた勢いで後ろに吹き飛ばされた。……服の下になにか隠し持っていたのか!
悪運が強すぎる。何から何まで強い、なんなんだ本当に。
とりあえず手足の骨を膨張させて拘束を解き、自らの頭蓋骨に腕を突っ込んで自殺し自己蘇生、万全の状態に回復する。
「こ、の……卑怯者め」
「だから……てめぇらにそんな事言われたかねぇんだよ」
立ち上がったローゼフと睨み合う。左腕を落とした、細々とした傷も与えている、骨だって数本折れてるはずだ。なのにコイツはまだまだ戦える。
蘇生できる回数に限界が見えてきた、このままじゃジリ貧だ。普通に戦ってるだけでコイツが言っていたように蘇生のストックを消費させられる。
……最初から本気だったけど、そろそろ手段を選ばずに本腰入れて戦わないとキツイかもしれない。あークソ! 増援来ないかなぁ! 今がベストタイミングなんだけどなぁ!!




