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第37話 遺跡の地下

 大きな道が川のように奥へと真っ直ぐ流れている。

 道の上には金属と思しき物体の塊が置かれており、流れている途中で両端に備え付けられた機械が金属を加工し、定められた加工が終わると再び流されて次の工程へと向かう。


「ここはゴーレムの製造工場なの?」


 魔法使いであるエレナが呟く。

 通常のゴーレムは魔法使いが魔力の注入された魔石を中心に、魔法によって土や岩、金属といった物質を集めて形を作る。

 しかし、遺跡の地下にあった施設では魔法使いによる力は加えられていない。

 魔法によって生み出されないゴーレムは彼女にとって衝撃的だった。


「上で遭遇するゴーレムは普通のゴーレムと同じらしいから、誰も不思議に思わなかったかな」


 シアはラポルカの遺跡以外でゴーレムと遭遇した経験はない。それでも冒険者を相手に案内人を続けていたのだから、他の場所でゴーレムと遭遇した経験のある者から話を聞くことはできた。


 ゴーレムを生み出す魔法道具がどこかにある。

 ゴーレムだけでも持ち帰れば利益を得ることはできたが、生み出している魔法道具を持ち帰れば比較にならないほどの利益を出すことができる。

 遺跡を探索する者の目的の一つとされていた。


 ところが、実際にはそんなことなかった。


「こんな物を持ち帰ることはできないよ」


 流れている道の幅だけでさえシアよりも大きい。

 どう頑張ったところで削り取った一部を持ち帰るのが精一杯だ。


「そんなことはないわ」

「え……」

「これだけの施設をどうやって維持していると思っているの?」

「それは……」

「それにベテランの冒険者も気付かないほどゴーレムの構成は魔法で生み出された物と同じだった」


 エレナもゴーレムを破壊して内部を確認している。

 中心にある魔石も確認し、特別な事は感じなかった。


「ここにいるゴーレムも魔石から得られる力を動力にしているのは変わらない。魔石から人工的に造り出す技術があったとして、そこにはどうやって魔力を埋め込んでいるの?」


 流れている道に沿って奥へと進む。

 道――コンベアから離れた場所では何体ものゴーレムが警備のように立っているが、今のところは動く気配がない。

 奥へ進むほどゴーレムは見慣れた形へと変わっていった。


「なるほど」


 決定的な部分が欠けていることに気付いた。


「まだ魔石がないな」

「正解」


 ゴーレムの状態に気付いたらしいカインの言葉に気分を良くしたらしいエレナ。

 加工されるゴーレムの魔石があるべき胸の中心部分は空洞になっており、後から魔石を嵌め込めるようになっていた。


「最初から魔石を嵌め込んだ状態で加工した方がいいんじゃないか?」

「魔法使いがゴーレムを造る時は上位の魔法使いでも細心の注意を払うのよ」


 魔力が注入された魔石を中心に物質を集める。その際、魔石を傷付けてしまうと注入された魔力が解放されることになってしまい、時には失敗して魔法使いを巻き込んでしまうほどの大爆発を起こすこともある。


 ここはゴーレムを製造する為の施設。

 壊れたゴーレムの代わりを新たに用意することはできるが、ゴーレムを生み出す為の施設を用意するのは難しいのかもしれない。


 ゴーレムの流れる速度に合わせて奥へ進むと、終点へと辿り着く。

 そこはカインたちが歩いてきたコンベアだけでなく、他の場所にあるコンベアも合流する場所だった。

 頭のある胴体が左右からアームによって持ち上げられ、別の場所から流れて来た腕や足が胴体にあった溝へ装着される。


 形だけならゴーレムが出来上がっている。

 そこへ奥から流れて来た魔石が3本目のアームによって胸の中心へ装着される。

 完成していたゴーレムの体に動力が組み込まれたことでゴーレムは自分の足で立ち上がり、最後に胸に開いていた穴を塞がれてコンベアから離れると、ゴーレムが立ち並ぶ場所で停止した。


「嘘……アレって置物じゃなかったの?」


 シアは立ち並ぶゴーレムを置物だと思っていた。

 しかし、魔法使いであるエレナや使徒であるカインは胴体の中心にある魔石の反応をしっかりと捉えていたので勘違いすることはなかった。

 そのように勘違い……いや、思い込みたくなるのも理解できる。


「さすがにあれだけの数のゴーレムが動き出したらどうにもならないな」


 簡単に数えただけで数百体のゴーレムが待機している。

 同時に複数の場所での遭遇情報から、ラポルカでもゴーレムは最低でも数十体はいるだろうと判断されていた。

 そんな予想を軽々と超える数のゴーレム。


「でも、動き出す様子はありませんよ」


 製造施設という最も重要な場所にいても襲われる気配はなかった。

 今もゴーレムが製造される瞬間に立ち会い、生み出されたばかりのゴーレムの傍にいたというのに何の反応も示さなかった。


「相手は人間の意思が介在せずに生み出されたゴーレムよ。今、この瞬間に予想外な私たちがいても事前に決められた命令の中に私たちへの対処がないのなら行動を起こすことはないわ」


 魔法によって生み出されたゴーレムは魔法使いの指示で動く。

 遺跡にいるゴーレムは地上で冒険者の迎撃を任務にしていた。そのため地下での行動は事前に命令がなかったため侵入者がいても迎撃しない。

 その推測は正しかった。


「私は個人的にこっちの方が気になったけどね」


 エレナが奥へと進む。

 そこはゴーレムに組み込まれた魔石が流れてきた場所だった。


「二人とも、入るなら注意してね」

「なんな、の……」


 その空間に足を踏み入れた瞬間に理解した。

 濃密な嵐のような力が渦巻き、空気を重たくしていた。


「うぅ……」


 シアが胸を押さえて蹲る。

 使徒であるカインは平気だが、シアにとっては毒に等しい空間だった。

 エレナによってシアの周囲に魔法障壁が展開される。これにより濃密な魔力の中にいても耐えることができる。


「ちょうど魔石が生み出される瞬間だったみたいね」


 コンベアの手前に設置された魔石がちょうど乗るサイズの台座。そこに濃密な魔力が集まり、圧縮されると物質になろうとしているところだった。

 魔石を生み出す為に大量の魔力が放出されていた。

 魔石が生み出されたことで空間を満たしていた濃密な魔力も落ち着き始めた。


「膨大な魔力があれば魔石を生み出すことも可能かもしれないわ」


 ただし、賢者候補であるエレナでも想像ができないような技術を用いる必要がある。


「それよりも、ようやく御対面ね」


 エレナの視線の先には、1本の剣が床に突き刺さっていた。


「あれは……」


 その剣にはカインも見覚えがあった。

 かつていた世界で勇者が腰に差していた聖剣と酷似していた。

 いや、目の前にある突き刺さった剣こそカインとエレナが探し求めていた聖剣である。


「魔法的な防御はないわね」

「罠の類もないよ」


 聖剣について調べていたエレナとシア。

 目的の物を前にした時こそ慎重になる必要があるし、遺跡の状況を考えるのならば聖剣ほど貴重な物は他にない。何らかのトラップが仕掛けられていてもおかしくない。

 だが、二人が調べても見つけることはできなかった。


「残念だけど、トラップは聖剣じゃなかったんだよ」

「え……」

「……そういうことね」


 カインの少ない言葉だけでエレナは気付いた。

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