第36話 遺跡の地下への入口
迷路のような遺跡の道を進み、1日掛けて目的の場所へと到達した。
「ここは……」
目の前には壁があり、曲がり角であるため誰もが方向を変えてしまう。案内人協会の地図でも曲がり角でしかないため不審に思う人物はいなかった。
だが、マイルズの地図には壁が描かれておらず、向こう側に空間があるように記載されていた。
どちらを信じるのか考えるまでもない。
「二人にお願いしたいのは、この壁を破壊してもらうこと」
「壊せるの?」
エレナが疑問を口にする。
その疑問は至極当然で、迷路のようになっている遺跡の壁が破壊可能ならば攻略は昔に完了していてもおかしくない。
当然ながら既に試されて不可能だったからだ。
「壁を削るのは時間さえ掛ければできていたの。けど、遺跡でそんな時間を掛けていたら奴らが来るわ」
遺跡の破壊を最も許さないのはゴーレムだ。
破壊活動をすればどこかからか指示を受けたゴーレムの襲撃を受け、それどころではなくなってしまう。
だが、壁の向こう側へ行くなら破壊する必要がある。
「必要なのは単純よ」
エレナの手の中で杖が回る。ただ回しているだけでなく、回るほど杖の先端にある宝石から放たれる光が大きくなっていた。
「――煌めく天神 奏者の導きに従い降り来たれ 響く轟雷 撃ち抜く雷鳴」
紡がれているのは魔法の詠唱。
魔法名だけによる即時発動や詠唱の破棄を行わない完全な魔法。
「マズい、離れた方がいい」
「……同感」
隣にいるシアが唾を飲み込んだ音が聞こえる感覚を覚えながらカインが後ろへ跳び、シアも同じようにエレナから離れる。
頭上に掲げられたエレナの杖を中心に生まれたのは雷の輪。
周囲を眩しくするほどの光が溢れ、目の前にある壁に対して牙を向けていた。
「当然気付くよな」
まだ距離があるが、遠くにゴーレムが見える。
エレナを守るようにゴーレムとの間に立つと短剣を構えると何度も振り、振るわれる度に銃弾が地面に落ちる。
「見えているの!?」
「ほとんど勘みたいなもので、短剣の力に頼ったものだ」
短剣を振ると叩き付けるように風が発生し、それが銃弾を叩き落としていた。僅かなタイミングは掴めているものの、銃弾の迫る正確なタイミングを掴むことまでは今のカインにはできない。
「これで十分だろ」
カインが必要だったのはエレナが魔法を発動させるまでの数秒。
エレナを止める為には接近していては間に合わないとゴーレムも理解していた。だからこそ遠距離から銃弾を浴びせることにした。
「【燐皇閃輪】」
エレナの放った魔法が遺跡の壁を破壊し、壁の向こう側にあった空間を露わにする。
「……本当にあった」
そこはシアが待ち望んでいた場所。
父親のように特別なスキルを持たない彼女では壁を破壊せずに到達することができなかった。
「さ、行くわよ」
「でも……」
シアの見る先には接近してくるゴーレムの姿がある。遠距離からの銃撃では意味がないと判断して接近戦へと切り替えた。
もっともエレナとシアに辿り着く前に破壊されることとなった。
――ガシャン!!
硝子が砕ける音にも似た音が響いてゴーレムが倒れる。
頭部にある核を狙った踵落とし。もはや遺跡を巡回している人型のゴーレムではカインの相手にすらならない。
「期待以上かな」
壁を壊すのにも時間が掛かると思っていた。
ゴーレムも賢者候補と彼女が信頼する人物の二人でなら対処が可能だろうと考えていた。
だが、実際はシアの予想を上回るものだった。
二人と出会ってから三日目。
シアは待ち望んでいた場所へと足を踏み入れた。
☆ ☆ ☆
――9日目。
そこはガランと広い場所だった。冒険者がゴーレムと戦う際に選ぶ広場よりも広大な空間。
だが、地図に記されているよりも半分程度の大きさしかない。
残りの半分は壁で覆われている。
「向こう側にも何かあるのか」
「また壊してしまう?」
まだ余裕のあるエレナの提案。
「ま、待ってください!」
案内人として未知の場所。エレナの破壊力ならば壁を壊すのも問題ないだろうが、壊されたせいで先へ進めなくなってしまっては本末転倒だ。
一見すると壁にしか見えない。
しかし、遺跡に慣れた彼女には見覚えがあった。
壁の中央付近にある小さな窪み。そこへ慎重に触れると壁が反応し、誰も振れていないのに扉が開くように壁がスライドする。
「壁じゃなくて箱だったのか」
「昇降機ですよ」
スライドしたのは大型のゴーレムも通れるほど大きな扉。中にある床が上下に動くことができ、下から上へと移動させることができる。
そういった装置だと聞かされても田舎出身のカインは理解できなかった。
説明が終わったちょうどその時、昇降機が動いて床が上へと動いた。
「どうやってゴーレムの回収や配置をしていのか疑問だったけどこうやって下の階層から運んでいたんだ」
床よりも下にも広大な空間が広がっていた。
僅かな隙間からでは詳細を確認することはできないが、広大な空間さえあればゴーレムを保管することが可能となる。
さらに設備もあれば製造も可能となる。
「これからどうするの?」
エレナが問いかけるまでもなくシアの答えは決まっていた。
「地下へ行きます」
今いる場所は昇降機の出入口となる場所。何もない広大な空間で、昇降機を利用して出入りするゴーレムが待機する場所としては適しているが、それ以外の利用方法が思いつかない。
何もないためマイルズの手掛かりとなる物が何もないことが見渡しただけで判断できる。
「ついて来てくれますか?」
ここからは全く情報のない場所。
そんな未知の場所へ共に行こうと考える冒険者は、シアの知っている冒険者の中では稀有と言っていい。
安定した生活は人々から好奇心を奪ってしまった。
「俺たちの案内人はお前だ。俺たちはお前の案内に従って進むだけだ」
「ありがとう」
地下への同行を承諾してくれたことを安堵したシアが昇降機へ乗り込み、カインとエレナも続く。
二人には箱のようにしか見えなかったが、シアには操作方法が理解できるらしく壁を前にして悩みながらも触れて操作する。
――ガコン!
「お……」
しばらくして昇降機が揺れ、ゆっくりと下降するのをカインも感じた。
「動いたのか」
「うん。これでようやく地下の全貌を……」
振り向いたシアが言葉を失った。
その視線は後ろにいたカインやエレナよりも奥へと向けられていた。
「なっ……」
「これは凄いわね」
少し前まで壁だったはずの場所から開かれ、ガラス張りの壁へと変化していた。
明らかになった遺跡の地下。
そこは、これまでの迷路や大きな部屋のある地上よりも上の階とは違い、広大な敷地の視界を遮る物が一切存在しない開かれた空間。
大量の物資が自動で動く道によって流され、その過程においてゴーレムが造り上げられていくのが上から見えた。
「こうやって遺跡のゴーレムは造られていたんだ」
「で、どうする?」
地下へは辿り着くことができた。
「さっき見たでしょ」
カインにも一か所だけ異質な場所が見えた。
地下はゴーレムの製造施設で、製造されたゴーレムが動き回っても問題ないよう障害物が少なく建造されている。
動きを遮る壁など不要。
そんな空間においても重厚な壁で覆われた場所が一か所だけあった。
「あたしの感覚が正しいなら遺跡の中心部付近なはず」
目指すは遺跡の本当の中枢。




