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第32話 ゴーレムを倒す者と見ている者

 改めて二人だけで遺跡へと足を踏み入れるカインとエレナ。最初に訪れた時と同じように二人だけだが、あの時とは違いカインには遺跡を最奥まで進んだ時の経験がある。

 案内人協会で購入した地図を確認する。1階の構造が大まかに書かれているだけだが、手掛かりが何もない状態で進むよりはマシな方だ。


「それで、どうするの?」


 カインたちの目的はシアと接触すること。

 しかし、この世界では現在のシアがどこにいるのか知る術がない。


「遺跡にいるらしいけど、ここは人探しをするには広大です」

「そうね。それに私は遺跡がどういう場所なのかほとんど知らないわ」


 エレナが以前に訪れた時は案内人に案内されるままに調査を行っただけだ。

 自身で方針を立てて探索する気にはなれなかった。


「何か考えがあるのよね」


 ほとんどエレナは諦めていた。

 案内人協会での交渉もそうだが、彼女はこの状況からの打開策を見出すことができずにいた。

 なにせ探す相手はエレナにとって名前しか知らない見ず知らずの相手だ。


「俺もシアを見つける方法は分かりません」

「え……」


 てっきり探す方法に心当たりがあると思い込んでいたエレナは落胆した。

 迷路のように複雑に入り組んだ遺跡。誰かに遭遇することはあるが、特定の相手を見つけるのは至難だ。


「ついてきてください」


 カインに案内されるまま遺跡を進む。

 代わり映えのしない道をしばらく進むとゴーレムに遭遇する。


「蜘蛛のゴーレム?」


 現れたのは前回のガデウスに案内された時にも遭遇した広域巡回用のゴーレム。通常の探索では遺跡の探索に慣れた者からも避けられてしまうほど強く、縦横無尽に動き回っているため遭遇した時は自身の運のなさを呪うしかない。

 そんなゴーレムを前にしてもカインは落ち着いていた。


「ゴーレムよ。どうするの?」

「斬ります」

「え、ちょっと……」


 調査をした魔法使いとしてゴーレムの強度は理解していたつもりだった。

 ゴーレムの装甲は切断するのが難しく、通常は打撃によって倒す。


 接近するカインの姿を捉えたゴーレムが前脚2本の銃口を向ける。

 そのわずかな隙を衝いてカインが加速し、飛んできた銃弾を置き去りにするようにしてゴーレムに飛び掛かる。

 頭部へ短剣を振り下ろして手を押し込む。

 直後、力を失ったようにゴーレムが倒れる。


「何をしたの? こんな簡単に倒せるとは思えないけど」

「このゴーレムの核は頭部にあるんです」


 動力である魔力を供給する魔石は胴体の中心にある。

 それとは別に思考する為の機関が頭部にあり、それを破壊することで機能を停止させることができた。


「力任せに胴体を殴って壊すこともできますけど、こっちの方が断然楽ですから。楽な方法で倒しただけです」

「いや、でも……」


 コンコン、とゴーレムの頭部を軽く叩くエレナ。

 魔力の供給が途絶えたことで装甲の硬度を高める力も失われている。その状態であるにもかかわらず叩いた手に硬い感触が返ってきた。


「よくこんな硬いのに斬れたわね」

「核がある位置は全て一緒なんですよ」


 遺跡を探索している間に最初に遭遇した巡回ゴーレムだけでなく、遭遇する度に普通なら逃げるところを二人は倒していた。

 何度も破壊していれば核の位置も捉えられるようになる。


「コツとしては眉間を狙うように切り傷を入れて、そこから短剣を突き入れることですね」


 核へ小さな傷を入れるぐらいなら問題なくできるようになっていた。

 一人でゴーレムを討伐するなら最も簡単な方法だ。


「さて――」


 ゴーレムと遭遇し、圧倒的な力で倒す。

 これは今回の目的を叶える手段でしかない。


「どうだった!?」

「……!」


 近くにいたエレナがカインの発した大きな声に耳を塞ぐ。

 誰に向かって問いかけられたわけでもない言葉。

 そのようにエレナには思えたが、カインの声はしっかりと相手に届いていた。


「よくあたしがここにいるってわかったね」


 何もなかったはずの場所に赤い髪をした少女が姿を現す。

 カインたちがいるのはゴーレムとの戦闘ができる広場で、少女が姿を現したのは通路の入口だったがそこに何もなかったことはエレナだけでなくカインも確認している。

 本当に何もない場所に姿を現した。


「もしかして【隠密】?」


 【隠密】。

 姿を隠すことができるスキルで、レベルの低いうちは物陰に隠れる技術が少しばかり向上する。しかし、レベルが上がることで姿が消え、音が消え、臭いが消え、気配まで消すことができるようになる。

 姿が消せるようになると、何もない場所にいるはずなのに姿を捉えることができなくなる。

 赤い髪の少女――シアがしていたのは【隠密】による姿の消失だ。


「そのスキルでずっと俺たちの後ろをついてきていたんだろ」

「……!?」


 エレナは驚かずにいられなかった。

 遺跡へ侵入してから1時間ほどが経過している。その間ずっと感付かれることなど隠れる場所の少ない遺跡では不可能に近い。


「正解。これでも【隠密】には自信があったんだけど……どうやって見破ったのか教えてくれる?」

「べつに見破ったわけじゃない。そこにいるだろうと思って声を掛けただけだ」


 ゴーレムとの戦闘の様子を観察したいなら近くへ行く必要がある。

 姿を消すことのできる【隠密】という便利なスキルがあるなら頼ってしまうのも仕方ない。

 広場の入口はゴーレムの向こう側以外には、カインたちが通って来た道以外にないため隠れているであろう場所の可能性も一つしかない。


「いないならエレナさんに勘違いさせただけで終わる。こっちとしては反応してくれるだけでいいんだ」

「油断ならない人たち」


 シアの視線が険しくなる。

 これだけで警戒されてしまった。いや、元から警戒されていたのが強くなってしまった。


「どうして俺たちを尾行していた?」

「べつにどうでもいいでしょ」

「まあ、ある程度は予想できる。お前は地下へ行く為に強い奴を求めている」

「どうして、そのことを……!」


 シアにとってカインは初対面である。

 ラポルカで情報収集をすればシアがどういう人物なのか知ることはできるかもしれないが、最も多くの情報を持っているミランダがシアの情報を口にしてしまうはずがない。

 数時間前に訪れたばかりの二人にたった一人の情報を集められるはずがない。


「そんな状況で賢者候補が現れた。勇者ほどでないにしろ価値のある奴が現れたなら接触せずにはいられないよな」


 賢者候補であるエレナの情報を得たシアは実力を自分の目で確かめる為に尾行することにした。


「ここで一つ気になる事がある」

「なに?」

「どうやってエレナが賢者候補であることを知ったんだ?」


 ラポルカに到着してからの時間が短い上に、接触した人物も限られる。道中での会話でも賢者に関する事実は口にしていない。

 ……たった一人を除いて。


「案内人協会のミランダだ。彼女とは親戚らしいから本来なら秘密にしておかないといけない情報も融通してもらえるんだろ」

「ちが……」


 協会に所属する職員として情報を漏らすなど決して許されることではない。

 シアは必死に否定しようとするが、状況からどれだけ否定したところで信じてもらえるはずがないと理解していた。


「前回もそうやって賢者候補だと知ったお前はエレナを尾行にすることにした」


 信用できる相手なら遺跡探索の話を持ち掛けるつもりだった。

 ところが、最奥までついて行ったところでガデウスからマイルズに関する話を聞かされてしまい感情的になったことで姿を現してしまった。

 後悔することになってしまったが、どうしても出て行かずにはいられなかった。


「ミランダにエレナが賢者候補だと教えればシアにも情報が伝わる。けど、その場合だと警戒させてしまうみたいだな」


 実際、以前の世界で勇者と共に遺跡を攻略した際にはエレナから声を掛けることで行動を共にするようになった。

 勇者であること高らかに宣言したわけではなかったが、シアには単独で情報を得る術があり、普段はそちらの方を頼りにしていた。


「エレナさん」

「はい?」

「必要な情報は得ました。案内人協会は最も情報を得られる場所でしたけど、あそこには頼ってはいけなかったんです」


 ミランダという叔母がいるかぎり姪であるシアを警戒させることになる。

 自分たちだけでシアと接触する必要があり、彼女の方から接触してもらえるよう動く必要があった。


「それが分かっただけで今回の時間を浪費した意味はありました」

「何を言って……」


 シアにはカインの言葉の意味が理解できなかった。

 そうして戸惑っている内にエレナが杖をカインの頭へ向け、放たれた火球がカインの頭を焼く。


「ちょ……」

「次の世界では上手くやりなさい。届かないだろうけど、ここから祈らせてもらうことにするわ」

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