第33話 騒動を見る者
ラポルカに到着してすぐ冒険者ギルドを訪れるカインとエレナ。
ただし、すぐと言っても本当の意味で初めて訪れた時よりもゆっくりと余裕を持って移動していた。
カインの感覚では久しぶり、エレナにとっては初めて訪れることになる冒険者ギルドは本当の意味で初めて訪れた時よりも遅く到着したせいか人が多かった。
「すまない。私たちは今日ラポルカに到着したばかりなんだが、移動の手続きをお願いしたい」
エレナにとって注目を集めてしまうのは日常茶飯事。その美しさも合わさってギルド内にいた人々の注目を最初の時と同様に集めていた。
ただ違うのは、あの時よりも多くの人々がいたことだ。
「……あ、は、はい!」
受付嬢はエレナに雰囲気に圧倒されるまま冒険者カードから情報を照合する。
「え、賢者候補?」
照合すれば真っ先に目につくのはエレナの照合だ。
受付嬢がエレナの個人情報を口にしてしまうことまでは、最初に訪れた時と同じようにするため同じ行動をすればなると信じていた。
「そうよ」
本来なら口外しないようエレナが言った。
だが、今回は以前よりも人が多い状況で明確な肯定をした。
「そちらの方は?」
「ちょっと目的があってラポルカまで来たんだけど、一人で来るのは問題だったから途中で雇った護衛よ」
多くの冒険者の視線がカインへ向けられる。
とても強そうには見えない少年。候補とはいえ賢者の護衛につけられるような人物に思えなかった。本当に護衛だったとしても何らかの思惑が介在した結果だ、と誰もが思った。
そんな感想を抱いたのは受付も同じで、冒険者カードを確認して確信した。
「Gランク、ですか……?」
「何か問題でも?」
冒険者ギルドを介した護衛の依頼なら最低ランクであるGランクで受注できるはずがない。そもそも、そんな弱い冒険者が護衛に雇われるはずがなかった。
ただし、護衛されているはずのエレナにカインのランクを気にした様子がない。職員の一人でしかない受付としては何も言えなかった。
「手続きは終わりました」
移動の手続きは受付の方で書類を作成すれば終わりだ。
「あの……」
受付の見ている前でギルドにいた冒険者が集まってくる。
体格が大きく、大きな武器を装備していても見劣りしない鍛えられた体をしている。
「おい、兄ちゃん」
「なにか?」
代表した一人の男がカインに話し掛ける。
以前の世界で案内人協会を出た後でも似たようなことがあった、と思い出しながら……そもそも似たことがあったから同じような状況になるように誘導しながら行動していた。
「そっちの姉ちゃんの護衛は俺たちが代わってやるよ」
「こっちも事情があって一緒に行動しているんだ。そういうわけにはいかないんだよ」
詰め寄って来た男が背中の剣を抜いてカインへ向ける。
「ギ、ギルドでの私闘は禁止ですよ!」
カウンターにいた受付だけでなく、奥の方から上の立場にいるであろう職員が出て来る。
受付が言ったようにギルド内で冒険者同士が戦うことは禁止されていた。
「チッ、表へ出ろ。俺の実力を見せてやるよ」
表へ出るよう促す。
「行かない方がいいです」
「あいつのランクは?」
「Dランクです。たしかに高い方ではないですけど、Gランクの方が敵うような相手ではありません」
Gランクは安全な街中で雑用を引き受ける冒険者にもなれていないような冒険者といった立ち位置だった。何年も冒険者をしているのに最低ランクでいる方がおかしい。
カインがランクを上げられなかったのは、レベルが上がらないことを危惧したギルドの配慮だった。ランクを上げたことで難易度の高い依頼も引き受けられるようになって亡くなられては困る。
「では、こうしましょう。私も護衛が弱くていいと思っていないわ。だから彼より強いことを証明できた者を代わりに雇うことにします」
冒険者の誰かが短く口笛を吹く。
「そりゃいい!」
即座に状況を理解した男が距離を詰める。
「だから……」
止めようとする受付。
その声に被さるようにエレナが言う。
「ちなみに戦いでどんな傷を負っても私は関知しないわ」
「それは助かる」
距離を詰めてきた男に対してカインも接近して肉迫する。
「……っ!」
伸ばした手よりも内側に相手がいる。
さらに振り下ろした手をカインは下から掴んでいた。
「こいつ!」
どうにか引き離そうとするが、どれだけ力を込めても手が動くことはできなかった。信じられないほど強い力によって押さえ込まれている。
それでも男は諦めない。賢者ほど権威のある人物の護衛ともなれば功績としては十分だ。そんなチャンスを逃せるはずなかった。
「少しは自分の力を客観的に見られるようになった方がいいぞ」
「は、なに言って……」
――ゴキッ!
カインの掴んでいる手から聞こえてはならない音が聞こえた。
「ぐわぁ!」
「ランクが低いのは6日前に強くなったからだ。ランクなんて何の参考にもならないぞ」
「てめぇ!」
仲間だろう手を砕かれた男の後ろにいた別の男が襲い掛かるが、カインに蹴られてギルドの床を転がることになる。
他の者も武器を手にする。最初はエレナの護衛として力を見せることが目的だったが、カインに仲間が倒されるところを見て感情的になってしまった。
「案内人の奴らみたいな茶番に付き合わされるよりも、こういう方がわかりやすくていいな」
力に自信のない案内人は自分たちの中から憎まれ役と助ける役を用意することで一部の人間を歓迎させようとした。
だが、カインが冒険者の中でも最低ランクだと知っている力に自信のある冒険者たちは単純に倒そうと考えていた。
「お前たち、ギルドの中で暴れるな」
暴れていた冒険者よりも体が大きな男がカインたちに拳骨を落とす。
突然の攻撃に冒険者たちが頭に直撃を受ける。
「ほぅ」
そんな中でカインだけが手で払い除けることに成功していた。
彼は冒険者ギルドのマスター。ギルドを預かる者としてギルド内での私闘を止めるため出てきた。
格闘戦を主体にしていたギルドマスターの拳が止められた。
それだけでもカインの実力を示すには十分だった。
「こいつなら一人でも遺跡にいるゴーレムの相手だってできるだろ」
「いや、まさかそこまでは……」
「どっちにしても護衛云々の話はここまでだ。強いのにGランクのガキが護衛をしているなら何か事情があるんだし、決めるのは雇っている嬢ちゃんだ……うん?」
エレナの姿を探すギルドマスターだったが、近くにいたはずなのにいつの間にかいなくなっていた。
ただし、目の届かない遠くへ行ったわけではない。
「なぜ、あんな所に……」
私闘を取り囲んでいた冒険者たちの輪の外側にいた。
荒くれ者のような冒険者に囲まれていたのだから、どれだけ強い魔法使いであっても太刀打ちできないかもしれない。巻き込まれないよう遠くへ避難するのは当然だと考えた。
ギルドマスターの考えは間違いだった。
エレナは魔力による身体能力の強化によって魔法を使わなくてもギルド内にいる全員を格闘戦で倒すことも可能だった。なにより本当に危険な状態に陥ったのなら躊躇なく建物を破壊する規模の魔法を使うつもりだった。
そんなことをしなかったのには理由がある。
「はじめまして」
「……ひゃ!」
何もない場所に向かって手を下ろす。
まるで目の前にいる人物の肩に手を置くような姿勢……実際に手を肩に置くつもりで下ろしていただけに間違っていない。
だが、見えていない状況で下ろしたせいでズレてしまった。
「……」
「あ、ごめんなさい」
赤い髪をした少女に睨まれるエレナ。
どんな人物でも意識していない状況で後ろから首を撫でられれば驚いてしまう。
「自己紹介からさせてもらうわね。さっきからいたみたいだから知っているかもしれないけど、賢者候補のエレナよ。よろしくね――案内人のシア」




