能力全ての解放の許可
「一体どうしてしまったのですか?お姉様。昔はそんな事を言う人ではなかった筈ですが。それに先程からその喋り方も、昔はそんな喋りじゃなかった筈………ひっ!?」
「わたくしの事を貶し、見下し、馬鹿にする事はこの際許しましょう。ですが、我がご主人様であるお方の事を馬鹿にする事は例え神が許そうともこのわたくしが許しませんわよ?あぁ、ちなみにこの口調で御座いますがわたくしが敬愛してやまないご主人様の口調を真似たものですわ。ですので、次この口調について触れたその時はそれ相応の覚悟を持って仰って下さい。今回は初見という事で許して差し上げますわ」
「お、お姉様の癖に……偉そうにしやがって。またサンドバックにして欲しいんですね。よーく理解しました」
ええ、覚えますわ。
今現在もその頃の光景が脳裏に鮮明に浮かんできて恐怖で押し潰されそうですもの。
魔術の訓練だと、剣術の訓練だと、体術の訓練だと称してわたくしを良く毎日サンドバックにしてくれたあの人間ではなかった地獄の日々を。
そのわたくしの僅かな変化に気付いた仲間達がそっとわたくしにさり気無く寄り添ってくれる。
そう、今のわたくしはあの頃のわたくしと違い、仲間がいる。フランお嬢様が見守ってくれている。
ある人から見れば只の精神論だと嘲笑うかもしれない、たったこれだけ、気持ちの持ちようただそれだけで今のわたくしは何倍にも強くなった気がする。
「ええ、覚えておりますわ。それはもう鮮明に覚えておりますわ。ですので本日はあの日々のお礼をして差し上げましてよ。我が愚妹」
「さっきから私を馬鹿にしやがってっ!どうせお前のその見た事無い魔術も武器も実際は大したこと無い代物なんでしょっ!?今まで勝ち上がって来たのは自分の実力であると勘違いしているみたいだけど今までは所詮初見殺しをしただけでしょうっ!!今までの試合を見て来た私達にも同じように勝てると思ったら大間違いですからねっ」
「ほら、二人とも落ち着きなさい。久しぶりに兄妹が揃ったんですよ」
「そうだぞお前ら。姉さんの言う通りだ。それと兄さんを見習って落ち着く事だな」
そしてわたくしと元妹とで言い争いを始めたその時、元姉と元次男件わたくしの兄さんがぱっと見大人の対応でわたくし達の言い争いを止めに入る。
しかし、わたくしが知らないと思いまして?
元とは言えわたくしはあなた方と兄妹でしたのよ。
その常識ぶった仮面の下にどんな顔を隠しているか、わたくしが知らないとでも、又は忘れてしまっているとでも思っているのだとすれば実におめでたい頭の持ち主であろう。
『それでは時間ですので両チーム構えて下さい』
そんな時、試合を開始するアナウンスが審判及び闘技場に備え付けられたスピーカーのより告げられる。
「すみません、私棄権します」
「私も」
「私も棄権します」
そしてそれと同時にルル、アリシア、ベラが試合を棄権すると告げる。
「あはははははははっ!!滑稽ですわねお姉様っ!!お姉様も棄権しても良いので───」
「いい加減黙れ雑魚が。私達三人だと話にならないからハンデとしてカミーラ一人にするだけであり、貴様等如き雑魚が全員掛かってきたとしてもカミーラを倒す事は出来ないと宣言する。せいぜい恥の傷を増やさない事だな。幸いフランお嬢様から能力全ての解放の許可も出ているからな、この馬鹿どもと今日この瞬間観戦している者達の度肝を抜いてやれ」
「当然ですわ」
「強がるのも今のうちで───」
『ルル選手、アリシア選手、ベラ選手の棄権を承認致しました。それではお互いに礼。スタートっ!!』
ベラがわたくしの代わりに言いたい事を全て言ってくれた後、試合開始の旨が審判により告げられ、そして一分後を告げるブザーが鳴り響くと共にわたくしはフランお嬢様から頂いた指輪を一つ壊す事により飛行魔術を使用可能にするとすぐさま空中へと舞い上がる。
その姿にわたくしの元兄妹達や同グループの冒険者達だけではなく観客席からも様々な感情の騒めきが聞こえて来る。
しかし、まだである。
今回の武闘大会は銃に爆破魔術、そして空中浮遊で隠し球が終わりではない。
その間も下で元兄妹が何か喚き散らしながら魔術や弓を放って来るのだがそんな、対空中戦を想定していない攻撃など当たる訳がない。
そしてわたくしはもう一つ指輪を壊す。
フランお嬢様から頂いたこの指輪を壊す事に若干の辛さを感じはするものの、今回はそのフランお嬢様より全力で戦って良いと言われているのである。
であればフランお嬢様にわたくしの全力を見せて差し上げる事こそが重要であり、フランお嬢様の為に勝利を手にする事こそがわたくしの喜びとなるのである。
「魔力増殖回路術式発動致しますわ」
「「「「おげぇぇぇえええええっ!!」」」」
二つ目の指輪を破壊した事により使えるようになった術式を発動するのだが、次の瞬間わたくしの元兄妹達が一斉に吐き出す。
なんと汚く、躾のなっていない事か。
ただ、空気中にある魔力を利用しわたくしの魔力を底上げする事により元兄妹四人の魔力総量の数十倍の魔力を保有しただけでその圧倒的な、まるで翼のような形で目視出来る程の魔力量を実際にその目で見て吐瀉物を嘔吐するのは、失礼ではないかとわたくし思いますの。
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