第9話 お買い物その3
野菜を箱の中に詰め込み、さっそくボルン牧場の肉を扱ってる店に向かった。あたりはすでに暗くなってしまい、本当は魚介類も買って料理を試したかったが、今日は肉を買って帰ろう。
店は同じ通りだったためすぐに見つかった、シークとウィズがたまにこの店で肉を拝借していたらしい。連れて行くと面倒なことになると分かってるので先に荷物を持って帰らせた。帰る途中でパン屋に寄って柔らかいパンを買うように頼みお金を渡した。
店の中に行くと肉は殆ど置いておらず、ソーセージやベーコン、乳製品が置いてあった。卵もあるが常温で置いてあると怖くて購入できない。
肉を見ると品質はいい様で、だが肉は日本にいたごろに見慣れた物だった。牛肉は霜降りが少なく赤身が大半を占めている、日本ならスーパーで売ってる安肉と変わらない。値段も1キロ2千Rとかなりの強気設定だ。それでもこれだけしか残ってないのは売れているのだろう、だが初日に食べたあの肉はかなりの脂が乗っていたのだ。どう考えてもこんな赤身の多い肉ではない。
肉を見て悩んでいるとがっしりした体格の男が話しかけてきた。
「何にします? うちはボルン牧場の直営店だからいい肉ばかりだ」
おそらく店主なのだろう、悩んでも仕方ないと思い質問した。
「実はボルン牧場の肉を扱ってる屋台で肉串を食べたのですが、脂身が乗ってて美味しかったんですよ。でも店頭に置いてる肉はどうも赤みが多くて同じ肉には思えないのです」
質問をぶつけると店主は驚きながら返事する。
「へー若いのにわかってるな、店頭に置いてるのは農地から買った牛なんだよ。この店で捌いてる肉だ。ボルンの肉が一キロ2千では売らないよ、あそこは肉は別格だよライバルが多くて滅多に仕入れられない。魔石を混ぜた餌を与えてるんだぞ、もはや肉というより宝石を作ってるようなもんだ。うちは捌くのが上手いからよく人から勘違いされるけど、普通の肉なのにボルン牧場って言って買っていくんだ」
(ほとんど詐欺じゃねーか、確かにボルン牧場の肉とは言ってないけど。魔石を餌に混ぜるっていいのか? 肉の宝石箱なのか?)
「確かに丁寧な仕事ですね、これならほかの加工品も期待できそうです」
店主は褒められてうれしいのか裏の倉庫から新しい肉を見せてきた。
「目利きの出来るお客さんに褒められるとは嬉しいね。そうだ今日冒険者ギルドから魔物肉を仕入れたぞ、なんとバトルクック特別に売ってやるぜ。正直ボルン牧場の肉には負けないと思う、ボルン牧場の肉も魔物肉に近づくために魔石を与えてる。だけど食べれる魔物を狩ったとしても持って帰るには大変なんだよ。ここらへんだと草原ウルフに嗅ぎつけられて放棄して帰ってくる方が多い。一キロ1万Rで売ろう」
(高くて買えねーよ、よく考えたら初日に食べたあの安くてうまい肉は何だ?)
「実は屋台で300Rでボルン牧場の肉で買えたのですが、確かに大きくはなかったですけど」
店主の顔がすぐに真っ青になり、唇に人差し指を当て静かにするようにジェスチャーしてくる。周りを見渡して人がいないことを確認して小声で話し出す。
「これは噂何だが、冒険者が冒険ギルドに不満を持っててな。魔物肉をギルドに買い取らせると明らかに安い値段で買い叩かれる、そのせいで冒険者がこの南区のスッド一家に卸してるらしいんだ。卸された肉はギルドを通らないからいい値段で買い取ってくれるし、スッド一家もこれを資金にしてるんだよ」
(どうやらこの町の闇に触れてしまったようだ、まあ俺には関係ないことだからいいけど)
イラーリとクリスは落ち着かない感じで周りに誰か話を聞いていないのかと警戒してる。どうやら怖がってるようだ。
「それは恐ろしい話ですね、まあ我々には関係ない話だからいいではないですか? ソーセージとチーズをください」
話を戻して買い物に戻ると店主も商人の顔に戻る。
「兄ちゃんいい度胸してるわ。スッド一家って言えばこの町の3大闇組織なのにビビってないとは。ソーセージ一本50Rチーズは1キロで3000Rで売るよ」
(店主もラスベガスで2メートルの黒人達に囲まれたら度胸が付くと思うぞ)
「ずっとここで買うから少しは安くならないか? 今度店をやるからこの店の肉を使いたいんだ、それと捌き終わった豚骨なんかあれば取っておいてほしい、お金は支払うから」
店主は新しい顧客を見つけて嬉しそうに計算盤を使って値段を計算してる。
「そうだな、量にもよるがソーセージ40Rでチーズは一キロ2500かな。骨に関しては少し多く肉残して500Rかな、もともと捨てるものだからな」
そのあと店主と値切り合戦してソーセージ一本30R、チーズは一キロ2000Rに落ち着いた。多分この戦いは俺の勝だ、ソーセージを20本とチーズ一キロ買い、2600Rを払って店を後にした。
店を出ると俺と店主の値切り合戦はイラーリはすごいすごいと褒めたたえ、クリスはあの熱戦を見て若干引いてる。
(仕方ないんだ、資材はきちんとしたもの使いたいから値切らないけど、こういう仕入れは最初が肝心なんだ。だからクリスの引いた眼も我慢できる・・・はず)
帰り道に話すことがなくなっていき、いつもよく喋るイラーリは歯切れ悪くぽつぽつと話し始める。
「あの、アルス兄さん本当にありがとうございます。おかげで明日もご飯が食べられます。シークもウィズも本当は私が面倒見ないといけないのに……」
イラーリは言葉を零すたびに涙も一緒に頬を伝って流れる。自分の無力を悔しがっているのだろう、そして同時に絶望しかない明日が消え去り安心してる、自分が今まで背負ってきたものが下すことができて安堵した気持ちもある、そんな複雑な感情が渦巻いている。
クリスはそんなイラーリをじっと見つめた後に、抱きしめた。
「そんなことはない、働いてるのはお前たちだ。俺のおかげではない、むしろ俺の方が助かってるよ。今日言っていた商売だって俺だけなら始めることすらできなかった。もちろんクリスもありがとう、俺はまだ文字読めないから今日の買い物は助かったよ」
クリスはまさか自分に話を振られるとは思わなかったのか、驚いた後にただ微笑んで何も言わなかった。
イラーリの涙は崩壊したように大声をあげてクリスの胸の中で泣いて、まるで生まれたばかりの赤ちゃんだ。
しばらく泣いた後にイラーリは少し落ち着き、俺は右手をイラーリに差し出し静かに話しかける。
「イラーリありがとう、これからも俺を助けてくれるか?」
イラーリは右手を強く握り、鼻声で話し始める。
「はい、必ずアルス兄さんを助けます」
俺も右手を握り返し、左手でイラーリの頭を撫でる。
「家に帰ろうか。おっと、その前に顔を洗わないとね」
イラーリは少しはにかみながら笑顔を見せてから大きく頷く、顔を洗い家に着く頃にはすでにいつもしっかり者の顔をしたイラーリに戻った。
家に着くと、ウィズとシークは鼠みたいにパンを齧っていた。どうやら腹が減りすぎて我慢できなかったようだ。この世界のパンは二度焼きされていて長持ちはするが固い、二度焼きしていないものも置いてあるので俺は基本柔らかい方を食べようと思う。
シークとウィズはソーセージとチーズを見てゴクっと喉を鳴らし、騒ぎ始める。
イラーリとクリスは大量な野菜を処理していく。悪くなった部分は切り捨て残った所を水で洗い、盆の中に入れていく。魔法コンロがあるためいつもより手っ取り早く料理ができる。
俺はその間に新しく買った包丁を使いパンの真ん中に一本の線を入れて、キャベツとチーズとソーセージを埋め込む。トマトソースが作っていないので代わりに少なくなった塩を入れる、それを鍋の周りに置いていく。チーズが溶けるのを見計らって今日買ってきた木製の皿の中に入れていく、異世界のホットドッグの完成だ。2つだけ半分なのはご愛嬌だ。
まず鍋の中に一口サイズに切ったソーセージ5本入れていく、こうすることでソーセージも旨みがスープに溶け込める。次にジャガイモなど固い野菜入れて、しばらく経ってから白菜などをいれる、最後に塩で味を調える。
出来上がった野菜スープは香からして美味しいそうだ、口に入れるといろんな野菜の味が広がっていく。ソーセージはいい出汁代わりになった。やはり素材はいい様だ、この野菜なら全然問題なく料理作れる。気づくとスープがなくなってお代りしょうと思ったらすでに鍋は底を尽き、4人が美味しいそうにスープを一心不乱に啜っていた。せめて感想を言ってほしかった、まあ旨いのだろうな。
ホットドッグに齧り付くと、チーズがしっかりとソーセージに絡みつき、パンと一緒に食べるとシャキッとしたキャベツにジューシーなソーセージが見事に調和して、チーズはいつも間に口の中で溶けていく、チーズの香りによってホットドッグの旨みがさらに高まっていく。
一人に一つしか作っていないのは今更後悔する。シークとウィズに視線を向けるとホットドッグを取られるの警戒して口の中に無理やり詰め込み、まるで冬眠前のリスのように頬っぺを膨らませていた。
クリスに関してはもうすでにホットドッグのなくなっていた、いつ食べたのか見当つかない。
さっきまで泣いていたイラーリに目を向けると。イラーリと目が合い、イラーリは一口食べたホットドッグを身を切る表情で差し出してきた、いらないと断るとイラーリは嬉しそうにホットドッグを食べた。
ここまで美味しいと思われるのも嬉しいものだ、4人を見てるとまるで家族を思い出さる暖かさがあった。
たくさん書いたよ。