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奴隷墜ちの少年、転移を思い出す  作者: レモンティー


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3/8

第三話:噂は金を連れてくる

最初に売れたのは――石鹸だった。

「……なんだこれ」

市場の一角。

粗末な屋台の上に並ぶ、灰色の塊。

見た目は地味だ。

だが。

「試してみろ」

商人が言う。

半信半疑で手に取った客が、水をかけ、擦る。

次の瞬間。

「……は?」

泡が立つ。

白く、きめ細かい泡。

そして。

「……落ちる」

汚れが、するりと消えた。

「匂いも……消えてる?」

ざわめき。

一人が試せば、次も試す。

「これが貴族が使っているという石鹼か?」

そして。

「いくらだ?」


「安い 買った。」

勝負は決まった。

――売れた。

飛ぶように。

「おい!もうねぇのか!?」

「追加だ、追加持ってこい!!」

金が積み上がる。

銅貨が銀貨に変わり、銀貨が増えていく。

商人は無言でそれを見ていた。

(……本当に売れる)

分かっていた。

だが、“実際に売れる”のは別だ。

「……ふん」

口元が歪む。

「当たりだな」

視線の先。

少し離れた場所で、少年が様子を見ていた。

(……まだだ)

少年は冷静だった。

石鹸は“入口”。

本命は――別にある。

――数日後。

変化は、一気に来た。

「聞いたか?」

「例の橋だよ」

「釘なしで組めるってやつ」

噂が流れる。

市場から市場へ。

商人から商人へ。

そして――

「“100人乗っても大丈夫”らしいぞ」

「イナバ…なんとかいう橋らしい」

広がる。

「バカな」

「ありえねぇ」

「でも、実際に見た奴がいるってよ」

疑いと興味。

その両方が、最も人を動かす。

――呼ばれた。

「来い」

商人の声。

少年は静かに頷き、後をついていく。

通されたのは――奥の部屋。

いつもの粗末な場所ではない。

机。

椅子。

そして。

「……ほう」

そこにいたのは、“別の男”だった。

痩せた体。

無駄のない服装。

指には金。

目は鋭い。

(……同業者か)

一瞬で理解する。

「こいつか」

男が言う。

「例のガキは」

商人が答える。

「ああ。“当たり”だ」

その一言で、場の空気が変わる。

評価が決まった。

「橋を作ったのはお前か?」

「はい」

「石鹸も?」

「はい」

短く答える。

余計なことは言わない。

「……面白い」

男は笑う。

「で?」

机に指を打ち付ける。

「いくらだ」

単刀直入。

(来たな)

少年は心の中で呟く。

だが、即答はしない。

「何の、ですか?」

「全部だ」

即答。

「技術も、製造も、橋も」

一拍。

「独占したい」

空気が凍る。

商人が横で、わずかに笑った。

(来ると思ってたな)

少年は理解する。

これは“試し”だ。

自分がどう出るか。

値踏みされている。

「お断りします」

即答だった。

沈黙。

「……理由は?」

男の目が細くなる。

怒りではない。

興味だ。

「独占は、利益を鈍らせます」

淡々と答える。

「広げた方が儲かる」

「ほう?」

「競争が起きれば、量が増える。市場が広がる」

一歩、踏み込む。

「その上で、“核”を押さえればいい」

完全な商人の発想。

奴隷の言葉ではない。

「……はは」

男が笑う。

「面白ぇガキだ」

商人が横から口を開く。

「言っただろ。“当たり”だって」

「認めるよ」

男は頷く。

そして。

「貴族も嗅ぎつけてる」

その一言で、空気が変わった。

「……早いですね」

少年が言う。

「当然です」

男は肩をすくめる。

「橋は“利権”だ。放っておくわけがない」

事実。

橋は流れを支配する。

流れは金になる。

そして金は――権力を呼ぶ。

「呼ばれるぞ」

男が言う。

「近いうちにな」

沈黙。

だが、それは悪い話ではない。

むしろ――

(上に行くチャンスだ)

少年は静かに息を吐く。

その様子を見て、商人が笑った。

「顔に出てるぞ」

「そうですか?」

「ああ」

ニヤリと笑う。

「楽しんでやがる」

否定しない。

「……で?」

男が机に肘をつく。

「どうする」

「簡単です」

少年は答える。

「売ります」

「誰に?」

一瞬の間。

そして。

「――一番高く買う相手に」

沈黙。

そして――

二人の商人は、同時に笑った。

「ははははは!!」

「いいな、それ!」

完全に同じ反応。

(……通ったな)

少年は確信する。

この瞬間。

自分はもう、“売られる側”ではない。

“売る側”に立った。

外ではまだ、石鹸が売れている。

橋の噂も広がり続けている。

そして――

貴族が動く。

流れが、大きくなる。

少年は静かに呟いた。

「……ここからだ」

それは、始まりの言葉だった。

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