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迦微と神と捻くれ者  作者: ユウ
新しい生活
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第26話 往時迦微物語④ 気づいていないだけ

 そうして、見晴が去ったのを確認して木の陰にいるそれへと話しかける。


「何で着いてきたんですか」

「気づいていたか」

「僕ではなくマラが、ですけどね」

「そうか。流石は迦微ということか」


 冷たいものが空か降ってきて鼻先にあたる。

 どうやら空のダムがとうとう決壊したらしい。時期に氾濫したものが大量に降り注ぎそうだ。

 そうなる前に事を終わらせて家に帰りたいが。


「それで、どうしてここにいるんです?」

「面白いことだが、私は自分の親を勘違いしていたらしい」

「つまり?」

「私の親は君と同じ年の子であり、そして君ということだ」

「何を言ってるんだお前」

「マラ殿、貴方も彼が親のはずだ。わからないのか」

「さぁ、少なくとも今の私にはわからないな」


 マラは肩をすくめながら首を横に振る。そうして僕の首へと腕を回してきた。

 長い髪が体中を覆ってくる。


「あの、邪魔なのでやめてくれません」

「嫌だ。お前は私を生んだと本気で思うか?」

「時と場合によって、ですかね」

「どんな時で場所だ」

「それは...孤独な時とか?」

「何で疑問形になる」

「孤独なら、一人で暇なのでいろんな事を考えるじゃないですか」

「それそうだな」

「そうしたら自分が観測された、した瞬間に存在が確定されると思いませんか」

「それは、じっくりと考えてもきっと絶対的な答えは見つからないのだからとちゃんとした思考を放棄してきた。というような事を思っているやつの言葉には思えんな」

「そなたはそんな事を思っていたのか」


 マラに先程のことをバラされて、モンストルがこちらをまじまじと見てくる。

 これが黒歴史をバラされた時のような感覚なのだろうか?

 全身に冷や汗が流れて顔が熱い。


「ちゃんとした思考はしてませんよ。他人から受け売りを自分なりに考えて答えを出しただけです」

「それでもそれは殆どの人はしないだろう。それは十分に思考をしてるんじゃないのか」

「そうですかね。で、話を戻しますけど、なぜ貴方の親が僕と見晴なんですか」

「それは彼が私を生み出して、君が私を初めてちゃんと認識したからだ」

「僕は貴方の親になったつもりもなければ、認識したつもりもありません」


 モンストルとの視線のぶつかり合いを雨が覆って徐々に見えづらくなってくる。

 打ち付ける強さも強くなってきていた。

 たぶん、このままここにいたら雨に負けて風邪を引いてしまいそうだ。


「マラ、ちょっと軒下に行きたいので、拘束...緩めてくれませんか」

「それなら大丈夫だ。私が抱きついて雨が当たらないようにしているからな」

「それだとマラが当たりませんか」

「そうだな」

「自分より相手の面倒を見る方が面倒なのでさっさと軒下に移動させてください」

「嫌だ」

「嫌だって、何でです」

「どうしたら私を生んでいないと証明できる」


 また面倒な事を要求してくる。この迦微は。

 精神を病んでいるときの人間みたいな、正直こういタイプは嫌いだ。

 そうして、どうしたものだろうか。

 今、目の前にあるこの面倒事を。


「モンストルさんは何故僕に?見晴の方が良かったのでは」

「...そなたが見晴と呼ぶ少年は無垢で我々のことに関して無知だ。私もそちらについて行って姿を表すのは楽だと思ったよ」

「なら何ぜ僕の方に」

「それは、貴方が私に輪郭を与えたからだ」

「輪郭を与えた?」


 少しだけ、マラの腕の力が強くなる。

 ただ、今はそんな事はどうでも良かった。

 話の先が見えてこないモンストルとの会話を理解しなければいけない。

 乾いている土を染め上げる雨はまだまだ止みそうにない。


「そなたがあの二人ではあやふやだった私の存在を確定させて輪郭を、存在意義を与えたのだ」

「そんな大層なことをしたつもりはありませんが。貴方の言っていることは親鳥を勘違いしたヒヨコと同じですよ」

「それでも良いのだ」


 どうもこのモンストルという存在もマラと同じように面倒で頭が凝り固まった肩のように硬いようだ。

 

「マラもモンストルさんも、大前提から疑ってくださいよ」

「どういうことだ」


 耳元でマラの声がして、マラの足が僕の体を囲む。

 ここだけ見ると親に抱きつく子供みたいだ。大きさ的に逆だとは思うが...。


「存在しているって、何ですか」

「デカルトか」

「正解です」

「私とマラ殿が存在しているかわからないと?」

「違います。僕ですよ。マラから見てもモンストルさんから見ても僕の存在を確定する事ができますか」

「それは無理だな」


 マラは堂々とした態度で言う。ただその体を抱きしめている腕には少しの震えがあった。


「そう言うことです。観測されたとしても、観測した人の存在を証明しなければ意味がないと」

「だが、それは全てにおいて最大限の俯瞰になるのではないか」

「そうですけど、俯瞰でしか見えない景色もあるでしょう」

「なら紙雅、私と過ごした時間というのは全て虚像ということになるのか」

「何でそんなに悲しそうな声で言うんですか。...そんなことはないですよ。マラと過ごした時間は」

「そうか」


 気づけば雨が染め上げた地面はぐちゃぐちゃになって水たまりや泥になっている。

 靴の先は濡れているけれど、マラが覆っているおかげか服は雨で重たくならない。


「何を持ってマラ殿との関係を君はそう言えるのだ」

「モンストルさんは分からないと思いますけど、過去というのは存在するのか、なんての言うのはわかりませんけど、絆っていうんですかね...まぁここまで来たら信仰ですよ」

「信仰...か。たしかにそこまで来たら信仰という言葉が当てはまるかもしれないな」

「じゃぁ、そういうことなので」


 話を切り上げて足を家に変える道へと進める。

 マラがぶら下がっているので動きづらいが、もうここまで来たらなれた、というより諦めた。少しだけ自分自身で浮いていくれているのでとても助かる。少しだけだとしても動きやすさは段違いだ。

 ただ雨には当たらないと言えどやはり寒い。冷たい風が髪をなびかせて揺らす。

 マラの紙などに当たって邪魔になっていたりしないだろうか。紙があるから防がれると思うが。

 そうして、それ以上、モンストルは後を着いてこなかった。

 どちらかの方に行く気なのか、神社に住み着くきのか興味はないが、ただ、またどこかで会えそうな気はした。


 そうして、帰路を歩いているとようやくマラからの拘束が外れる。

 ようやく降り注ぐ恵みを体全体で被ることが出来た。


「あぁ~、なんだかとても長く感じました」

「それはもう日が山にかかっているからな」

「え、もうそんなに時間経ってるんですか」


 降り続けるだけの雨雲からいつしかところどころの間を縫って日の光が町を照らしている。

 空気もジメジメしたものではなくカラッとしたものに変わっていた。


「そう言えば何で途中から抱きついてきたんですか」

「それはあの狐がお前に取り憑こうとしていたからだ」

「狐って、僕があのモンストル取り憑かれるとでも思ったんですか」

「もし憑かれたら、お前との関係が切れるかもしれないからな。そしたら私は信仰者がいなくなって死んでしまう」


 やはりマラは嘘が下手だ。嘘をつくときには毎回、手のひらを動かし始める。

 ただ純粋につながりが否定されてしまいそうで怖かったといえばいいのに。

 迦微だと言うのに、人と同じように不器用だ。


「なら、今日は一緒に布団で寝ますか?」

「何故そうなる」

「僕がマラの信仰者という些細な証明ですよ」

「そういうことなら、一緒に寝てやっても構わん」


 手を繋いで照らせれている道を歩んでいく。

 あの二人のそれぞれの道は光は照らされているのか、どうせなら光っていてほしいものだ。


× × ×


「と言った感じですけど」

「マラさんのことではなく彼ら、の話では?」

「理悟さん、細かいことはいいんですよ」

「それでもお前の主観ばかりであまりマラのやつに関して語られてなかったが」

「そういうものですよ。マラのことはよく知っているようで理解していないってことが今回でわかりましたから」

「ひねくれてる?、照れ隠し」

「そうですかね。僕からはただひねくれているだけにしか見えませんけど」

「視野、せまい」

「スアさんの言う通り僕は視野も狭いし偏見の度合いが強いんです」


 そう言うと頭に乗っている白蛸さんはいつの間にか肩に降りてきて、その長い尾で首に巻き付いてくる。

 一体何をするつもりなのだろうか。

 

「そう言えば」

「どうかした?」

「さっき見えた赤い光り、皆さんも見えてましたか?」

「赤い?」

「光?」

「わからないならいいです」


 どうやら確かに見えていたはずのあの光は彼らには見えていないようで、やはり見間違いだったのだろうか。


「貴方が見たものが何であれ、それは貴方の生活に関係あります?」

「確かに理悟さんの言う通りないかもしれないですね。ですけど、何故、を放おっておくことができない性分でしてね」

「いい心がけだ。それが神秘をより際立たせる。だが、線引はしておけよ。強すぎる好奇心は神秘を消してしまう」

「ヘカテー様からのありがたい言葉として受け取っておきます」

「はぁ、まぁ、どう捉えるかはお前次第ではあるからな」


  適当に自分に向けらた言葉を受けとって、3月ではあまりかくことがない汗をかきながら少し両腕の裾をまくる。

 下手したら熱中症にでもなれそうだ。

 自分からなるものではないが、経験をしておいても悪くはないだろう。

 その方がいざなった時に、なりかけの時に色々と対処がしやすくなる。親からは自分の身を大切にしろと言われてしまっているが。


「あの、話が終わったならここから解放してくれませんか。暑いので」

「話は...聞けたいことが聞けたからいいが、これからどこに行くつもりだ?」

「どこって...」


 そう言えば何も考えずに家を出ていた。スマホも腕時計も持っていない。

 行き先ぐらいは、どこまで行ったら帰るみたなものを決めておいたほうが良かったのかもしれない。

 あんな状況なんかにうろたえてしまった自分に反省だ。


「コンビニですけど」

「コンビニに行くってことは何か買いたいものでもあるんですか」

「シャーペンの芯とかお菓子ですけど」

「お金、持ってない」

「ええそうですけど。はぁ、性格が悪いですね皆さん」


 こうやって、わかりきった上で質問攻めにされるのは癪だ。

 癪に障らせることが出来るようにさせたのは自分だが。こうしてみるとどうやら僕は身勝手らしい。


「それは全人類そうだと思いますけど」

「心を読まれるのはなれてるのでいいですけど、あまり初対面の相手にはしないほうがいいですよ」

「知ってます。貴方だからですよ」

「だから天納さんはあんな性格になったんですね」

「あれはたぶん元からですよ」

「そうですかね」

「いない、天納さん、かわいそう」


 我関せずのヘカテーさんと白蛸さんは爪を見ていたり、僕の首を軸としてとぐろを巻いている。

 苦しくはないがあまりされて嬉しくもない。

 そうして、僕たちを覆っていた結界が霧のように消えてふわふわとした白いものが降ってくる。

 寒暖差でふつふつと額に出てきていた汗が一瞬に引っ込んだ。


「そう言えばなんですけど、スアさんの話し方ってそんなのでしたっけ?」

「あぁー、これかぁ」

「...」

「ふふ」


 そんな問いをすると、当の本人は何も言わずに他の二人と一匹は目を横にそらして微妙な顔をした。


「なにか聞いちゃいけないことでしたか?」

「別にそんな事はないんだがな...」

「え、いいんですか」


 スアさんが何かを言う前に理悟さんが反応をした。心が読めるというのは便利なものだ。欲しいかと聞かれればそうではないが。


「私は人が嫌い。だから、態度を接し方を変える。彼以外」

「つまりは身内ノリが得意と」

「貴方は一々言葉に切れ味を含めないと生きていけないんですか」

「別に含ませている気はないんですけどね」

「紙雅、不要な特色」

「僕に対してどう思うかは自由ですけど、人が嫌いってどういうことです?」

「言う、必要、ない」

「まぁ、そうですね。不要な事を聞きました」

「え、いいのかお前は。理由を聞かなくて」

「だいたい予想が出来るので」

「ん、正解」

「え、」


 今、何か思ったことを一つでも口にしただろうか。

 マラと静さん、天納さん、理悟さん以外から心を読まれたのは初めてだ。

 マラは自分の主、恐らく精神か心に関している理悟さんとその眷属の天納さんはまだわかる。静さんは......女の感というやつだろうか。

 

「言ってませんでしたけど、私、人の思ったことをそのまま相手に伝えることが出来るので」

「そんな事が出来るなら先に言ってくださいよ」

「言う義理なんて貴方と私の間にありましったけ」

「確かに、考えてみればないですね」


 互いの関係を明確にして、やっとシェアハウスの事で熱された頭も冷まってきた。

 今が何時なんていうのもわからない、わかろうともしない。

 けれど、すでに日も沈んで月にいるうさぎが天から見下ろしている。そろそろ帰ったほうがいいだろう。


「チルル」

「はい。帰ります」


 肩に白蛸さんを乗せて、前に進んで、少しして元いた場所を振り返ると、最初からいなかったかのように彼らの影も形も消えていた。

 目をこすってもう一度見てみてもいない。そうして、いつの間にか肩にあった感触すらも消えていた。

 姿でも消して帰ったのか、瞬間移動でもしたのか、どちらせよすでにここにはいなかった。

 ズボンのポケットに手を突っ込みながら身を縮こませて足を進める。

 あのスアさんが思っていたこと、彼女は正解と言っていたがそれに対しては僕も賛成だった。だから、自分がそうならないように自分で理性を使って縛り付けてきた。

 人はエゴの肥大化した、啓蒙を掲げる愚かな存在だ。上に立ちながら善性という曖昧な他人の作ったもので動かされ、自身で考えることを放棄していく。

 そんな動物を愚かで忌み嫌うのか、愚かだからこそ愛するのか、彼女は前者だったのだろう。

 だからこそ、そうではない彼に惹かれた。

 マラが僕に愛着に抱いていることで貴方達は驚いていましたけど、案外貴方達の主も貴方達のことを思っているみたいですよ。

 なんて、自分の口か話す気などはサラサラないが、いつか彼ら彼女ら自身から気づく事はあるだろうか。


 もう一度後ろを振り返ってみると、確かにそこにいた場所には雪はあまりない。

 ちゃんと幻術やまやかしではなく現実だったらしい。疑えと言われれば疑うことは出来るが...今、そういうのはいいだろう。

 最初、ここに来る時に見えた降り注ぐことを繰り返していた赤い光はもうすでになくなっていた。

すいません。2週間ほど投稿ができなくなります。

2週間が過ぎたら出来る限り今後も頑張って行きます。

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