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迦微と神と捻くれ者  作者: ユウ
新しい生活
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第19話 プライバシー

 面倒な概念との話を終えて、外へと戻ってくると肌寒い空気が全身を包む。

 流石は3月。まだまだ冬の残りを感じさせる。

 タバコを吸い終わった静さんが吸い殻を車の灰皿へと置いて、そのままエンジンをかける。

 僕もそれに応じて、車が来ていないかを確認してから助手席へと乗り込んだ。

 静さんは乗ったことを確認すると、ガソリンを片手間で燃やしながら口を開いた。


「紙雅、これは...あいつらに言うなよ」

「わかってます。ただマラと天納さんあたりにはバレそうですけど」

「まぁ、バレたところではあるんだがな」

「家まで送ってくれますか」

「勿論だ、それに今日は残業が確定したよ。満も呼んで一緒に残業でもさせるか」

「満さんここ2日ほど見てませんけど、どうかしたんですか」

「仕事だよ、妖怪と神への対応でな」

「確かトラックの運転もでしたよね。3つかけ持ちですか」

「いや、どれもこの職の一部だよ。特殊公務員の」

「...人手、足りてないんですか」

「足りてはいるが、相手が相手だとそこら辺の奴じゃ対応できなくてな」

「つまりは他の人の尻拭いを」

「まぁ、無理やり私が部署異動をさせたということもあるしな」

「......」


 この人のどこにそんな事ができる権力があるのだろう。

 見た感じではただのくたびれた服を着たOLなのだが。

 でも、思い出す限り何回も生徒を見送っているらしい。一回で3年の計算だとすると...ざっと6年以上は確定する。

 つまりは28歳より上ということだ。

 そう結論が出たとき、車にブレーキがかかった。

 なんだろうか。

 

「降りたいなら降りてもいいんだぞ」

「もしかして口に出てました?」

「感だ」

「明日から頭にアルミホイルでも巻くことにします」

「真顔で言うな、真顔で」


 たわいもない話をしていると時間は過ぎていくもので、気づくと家の前で車が止められた。

 お礼を言いながら車から出てドアを閉める。

 これからの残業も頑張ってほしい。できれば満さんにはあまり負担をかけてほしくはないが...まぁ、大人には事態への準備を頑張ってもらおう。

 そんなこんなで玄関を開けると、飼い主を待つ犬のようにマラが飛び込んでくる。

 一歩右に避けることでマラは両手で酸素と窒素を抱きしめた。

 そう言えば、飼い主を待つ犬という表現からは柴犬は除外されるかもしれない。

 彼ら彼女らは基本、待ちのスタンスだ。自分からは動きたがらない。


「おい、再開のハグをなぜ避ける」

「今生の別れをしたわけでもないのに大げさだからですよ」

「なんだ恥ずかしいのか、思春期め」

「そういうのどうでもいいので、さっさと中に入いらないと玄関しめますよ」

「悪かった、ふざけすぎたから閉めながら言うな」


 と、言って家に入ったマラを確認して完全に扉を閉める。後はもう外に出ることはないだろうから鍵も閉めておこう。

 靴を脱いで荷物を部屋に置きに行く。その途中でリビングと台所からシチューのいい香りがしてきた。

 2階の自室へとおもむいて、手短に荷物を置き、着替えて1階のリビングへと戻る。

 中に入ると、台所で調理器具を洗っている天納さんと、テレビを見ている村雨さんがいた。

 時計を見ると午後7時半。どうやら1時間のつもりが、あそこで2時間ほど話をしていたらしい。

 流石に世界が終わると唐突に言われたら、理由を知りたくなるだろう。

 ちなみに、話の内容の3分の1くらいは用語の説明であったが。


「ただいま帰りました」

「ルームシェアなのですから、固くならなくていいんですよ」

「おかえりなさい」


 リビングに入ると、村雨さんは足をゆったりと交差しながら寝っ転がり、ソファーでスマホを見ており、天納さんは、多分、余ってしまったであろうシチューをタッパーに入れて、半開きになっている冷蔵庫に入れていた。

 他人と接する時に癖になった挨拶をしながら食事にありつこうとすると、後で聞きたいことがあると、後ろから村雨さんに言われた。

 スマホでぽつぽつぽつ、と何かをしている音が聞こえてくる。

 まぁ、おおよそこの目のことだろう。そう考えながら天納さんの作ったシチューを口へと運ぶ。

 案の定というか、流石にシチューとご飯はすでに冷めていた。

 レンジを使えばいいと思うが、どうも自分はレンジで温められた物に関しては熱すぎると感じてしまうので少々苦手である。

 一口、二口とシチューを同じサイクルで口へと運ぶ。

 そうしていると、ふと面倒な概念が言っていた事を思い出した。

 確か、面倒な概念はその時に白抜井さんにも何か変化をもたらした、と言っていた。

 自分のように目の色が変わっていると思うのだが、さて何色に変わっているのか。

 そして、彼は知らないとは思うがその目による与えられた力は何かを把握しておかなければ。


 [破局点]


 面倒な概念がそう命名していた。というよりかは知っていたのほうが正しいだろうか。この名前は別の世界で聞いたものなのだそうだ。

 白抜井宮にはそれに対抗する手段を与えたと言っていたが、果たしてどこまで成長すれば対抗が出来るのやら。

 曰く、破局点とはこの世界から完全に乖離した超常的存在らしい。

 特徴としては物理法則を捻じ曲げるや、時間の概念がない。などなど上げればきりがない。聞いている途中からは、小さい子が作り上げた無敵のキャラクター、とでも言っても大差ないようなことが語られていた。

 正直、対処しようとする事自体が不可能な気もする。

 神や妖精、幽鬼とも別種の、というよりか次元の違う存在。

 破局点は生物である限り認知ができないらしく、目に映るというのは光に投射された影のようなものだということ。

 まとめると、この世界に向かってくるだけで害があるということだ。


 これ以上の話は頭痛くなるので今度にしようと思うが、要は破局に対抗するためには白抜井さんの成長が絶対条件ということらしい。

 以上が静さんと面倒な概念が喋っていたことだ。

 自分は話を聞きながら軽く受け流していた。

 だってそうだろう。一端の学生が世界を救えるというのはファンタジーや本の世界だ。

 僕達、誰もが物語の主人公になることは限りなく低い。

 と、一部の人間は言うかもしれないが、僕はそうは思はない。

 誰かが言っていた。思考は現実化すると。たとえ一人が無理でも百人、千人と母数が増えるたびに成功するものは現れると。

 ならば、何も行動を起こさないよりかは無心で行動していた方がましだ。

 ただ未だに実感が湧かない。2年後に宇宙が消滅するというのは。

 なお、僕が話をあまり真面目に聞いてなかったのは、情報過多にならないためには受け流すしか方法を持っていなかった。というだけである。

 そう今日、頭に溜め込んだ情報を整理していると、外界から声をかけられて思考の波から現実へと引き上げられる。


「貴方のその目、どういうことだったのよ」

「どういうこと、とは?」

「何故そんな目になったのかって聞いてるの」

「これですか。これは...どうやら魅入られたみたいです」

「は?」


 それは村雨さんの口、そして天納さんの口、どちらから発せられたものであるのかは聞き取れなかった。

 どちらか、もしくは両方だったのかもしれない。

 そして、何故かマラが絶望に直面したような顔でこちらを見ている。いや、紙で隠れていて顔を見ることはできないが、雰囲気と長年の接し合いで察することができた。


「ちょっと待ってください。マラ、何で包丁を持ってこっちに振りかぶってくるんですか」


 何も言わずに台所から包丁を持ってきてこちらに向けるマラからは感情がうまく読み取れない。

 そして何故か天納さんからはジト目を向けられている。

 どこか説明の足りない場所でもあっただろうか。

 村雨さんは固まったまま動かない。一周回ってそれが一番怖いまであるのでせめて何かしらの反応を見せてほしいと思う。

 内心、焦りながらも平静を装い言葉を紡ぐ。冷や汗が背中を伝うのも無視をして。


「まぁ、相手は性別も何もない概念でしたけどね。彼が言うには面白そうだからいつでも観察出来るように印をつけたって言ってました」

「なんだ、そういうことなんだ」


 ようやく反応を見せた村雨さんと違い、未だに一人と一柱は行動を変えようとしない。

 首元まで刃が迫ってきて感触が想像できた瞬間、錠剤より小さく小馬鹿にするような笑い声が聞こえた。

 なんだ。そういうことですか。

 僕は笑い声が聞こえた方を向いて、多分目を合わせて称賛を示した。


「お見事でしたよ、演技」

「なんだ、バレてたのか」

「笑い声でわかりましたよ。マラ」

「せっかくじゃ系を勉強してマスターしたと思ったんだがな」

「それ何処かにヤンデレの文字ありませんでした」

「あったぞ。今回はそのまま真似たが駄目だったな」

「これ以降そういうのはやめてください。心臓に来るので」

「弱点を見つけて置いて何もしないとでも」

「契約でも切りましょうか」

「そ、それだけはご勘弁を」

「まったく、そもそも何も言葉を発していなかったので、のじゃ系以前の問題ですよ」

「なるほど、それは盲点だった」


 こうしてマラの方は対処できた、そしてもう一人の方へと目を向けると何故か満足げの反応をしていた。


「なんですか、その満足そうな顔は」

「満足をしているので」

「何に対してです?」

「こんな人に魅入る人がいるなんて、と。理由が面白そうなモルモットを見つけたからだ、というものだったので」

「言い方に悪意があるのと、単純にバカにしてますよね」

「はい」

「素直に認めるのが一番心に来ると知ってますか」

「はい。十分に理解しているのでやりました」

「僕、貴方に何かしましったけ」


 会話を繰り返すたびに辛辣になる天納さんをどうにかしなければと思っていると、再び村雨さんから問いが投げられた。


「そう言えば、先生と一緒にだったのはどういうこと」

「先生と?」

「とぼけないで、先生と一緒にいて何かしたでしょう」

「それはそうですけど......何でその事を知ってるんです?言ってないと思うんですけど」

「それは私がお前の心を読んだからだ」

「僕のプライバシーはどこにあるんですか」

「んー、タイタンか、北斗七星?」


 マラと村雨さんによって、見つからなくなった僕のプライバシーは、

 天納さんが、僕のプライバシーの在処を示してくれた。 


「なんで木星の天体と北極線の延長にあるんですか。それに何故に疑問形」

「それで、先生と何をやってたのよ」

「何を想像しているかは知りませんけど、やましいことは何もしてませんよ」

「やましくないことは何をしたのよ」

「受動喫煙ですかね」

「え、先生ってタバコ吸うの」

「はい。ショートホープでした」

「銘柄までは聞いてない」

「実を言うと、僕の目をこんのなのにした人物と昔から交流があったそうなのでついてきた感じです」

「へぇ、そんな関係があるんだ」


 どうだろうか。これで村雨さんは満足しただろうか。

 この後のことは殆ど他言無用になっているため、もし聞かれたらうまくはぐらかすしかないだろう。


「で、あのお屋敷の中では何をしていたの」

「あ~、それは......ちょっと待ってください。何でお屋敷のことを知ってるんですか?」

「そ、それはぁ~」


 その質問をした途端にマラと村雨さんが目をそらす。

 その行動でやましいことがある、と自白をしたようなものだが、自分で気づいているのだろうか。

 

「そこにいる2人と、上にいる2人が貴方の後をつけてましたよ」

「天納さん!!」


 彼女のその言葉にマラと村雨さんが天納さんの方へと顔を向ける。

 そして、それとは対象的に僕は天井越しに白抜井さんと雲珠未さんの部屋へと目線を向かわせていた。

 

「マラと村雨さんはここで待ってください。後の2人を呼んできます」


 作られた満面の笑みを見せると1人と1柱は滝のように汗をかいて震え上がる。

 逃げることはないと思うが、もし逃げたら...さて、どうなるのやら。

 骨が残っていればいい方だろうか。

 歩みを階段へと向けて残りの容疑者に接近する。

 2階につくとそれぞれの部屋の前に立ちこう言った。


「今日、僕をつけましたか?心あたりがあったら下に降りてきてください」


 警戒をさせることのないよう嬉々とした声色で。

 逆に恐怖を与えたかもしれないが、これから行うのは説教なので特に問題はないだろう。

 あって4日の人たちに説教をするのはこれが初めてだが、まぁいい経験なるかもしれないとでも思っておこう。

 そうして僕はリビングに容疑者全員を集めて笑顔で問い詰める。ちなみに天納さんには情状証人になってもらうことにした。

 被告人が全員揃い、あくまでも普段通りに言葉を紡ぐ。


「それで、何故僕をつけた、もといストーカー行為をしたんです?」

「え、えっと~、それはぁ~」


 歯切れの悪い村雨さんを無視して他の人物たちにも目を向ける。

 皆、古びた廃墟のカビ臭い雰囲気をまといだし、下に視線を向けたまま微動だにしない。

 雲珠未さんに至っては、手のひらを握り、プルプルと震え、焦っているのがよくわかる。

 完全に自分たちからは話したくはない、という意図がじわじわと周りを侵食するサビのように空気を濁していた。

 それを感じて、これは断罪のしがいがありそうだなと思いつつ、それと同時に肩がこるように苦労もしそうだなとも思った。




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