第2話 変わった日常
「はぁ~」
「どうしたんだ。ため息とは珍しい」
中学最後の下校時間。
深いため息をつきながら帰りの道を歩いていた。
3月だからか、まだ冬の残り香があり、肌寒さを感じさせる。
厚着をしているというのにどこの隙間からか、外の空気が服の中に入り込んできているようだ。
「単純に、学校が近くないからです。それに僕だけ県外ですし」
「そうなのか?他の奴らも散り散りになるだろうに」
「確かにそれはそうですけど、何故か僕だけ県外の山奥の高校なんですよ」
「それはお前が私の眷属だからな」
どうやら、何かしらの眷属の者と言う人々は、日本のある一点に集まり集団生活を送らなければならいらしい。
これは日本に在住する対象者全員が強制的に行わなければ行けない。
どうやら自分の他にも神や迦微、あと、これはマラからの情報によると、悪魔や妖怪、神獣とも眷属の関係を持てるそうだ。
その意味では危険な存在を監視、隔離するための機能とも言えるだろう。
ちなみに、僕自身、どうやってマラとの契約を交わしたのかはわからない。
そして、どうして国に僕とマラの存在を知られたのか、というのもだ。
ある日突然、家のポスト入れに国から戦争時の赤札のように入っていた。
勿論断ることは不可能で、一応、他の高校の入学試験をしたが、ほぼ意味は無いだろう。
「なら、眷属をやめていいですか」
「それはだめだ。今の私はお前の信仰心によってギリギリ存在できている。今、眷属を失ったら私は消えてしまうからな」
そう、マラは素早く話に食いついてくる。
「僕は貴方を信仰したことなんて一度もないですよ。...無神論者ですし」
「眷属がいればそれは信仰をしているという判定になるからな。あと、眷属を止めることは契約をした者の両方の承諾がないと無理だぞ」
早々に考えていた事を潰されてしまった。
あわよくばネットやらで契約の解除方法などを調べて試すつもりだったが。いや、そもそもそんな事は記載されていないだろうし、されていたとしてもペテン師の詐欺記述だろう。
足を機械のように一定のリズムで動かす。
マラは自分の周りを海で浮き輪をしているかのようにぷかぷかと浮遊している。なお、マラのことは他の人には見えない。
まだ他の眷属者に会ったことがないから知らないが、彼ら彼女らの主人は視認可能なのだろうか?もし可能ならばこの苦痛とも呼べる生活も少しはましになるだろう。
「何が苦痛なのだ?」
「人の脳内を一々覗き見ないでください」
何故か考えていることをマラに把握させれながら苦言を呈す。
このやり取りも認めたくはないが日常の一部と化してきていた。
「一般人にはマラのことが見えないんですよね。だからいつも人がいるときに話しかけられると面倒なんですよ」
「面倒?どこが?」
「知ってますか、僕、他人から見たら虚空に喋っているって、変な奴扱いを受けてるの」
「お前は元から変な奴だから変わりないだろ」
「それは...多分違います。さて、平手打ちが良いか拳骨が良いか選んでください」
そう言って僕は手のひらをマラの顔に近づける。すると、マラは僕の手を取って頬ずりをしてきた。
最初にあった頃はもっとこう威厳があったはずだが、今はもうその影を拝むことすらない。
「普通に恥ずかしいことを平然と出来ることに驚いてます」
「昔はみんなやってたぞ」
「昔っていつですか」
「...記憶混濁中」
「逃げないでください」
そんな事をマラと話をしながら歩いていると、ようやく我が家が見えてきた。
しかし、自分から見える視界にはいつもとは違う違和感を覚える。
無視しようともできないほどの違和感だった。
マラもそれに気づいてか目を大きく開いて先程まで開いていた口を閉ざしている。
端的に言うと家の前に引越し業者のような大きなトラックが止めてあった。
軍用と言っても通じるような重厚感のあるものでところどこが夕焼けの光にてられされて光沢を放っている。
玄関の扉が開き、遠目でよくわからないが、恐らく僕の部屋にあったであろう家具を持ち出して荷台へと運んでいる。
「...は!」
目に映されていた映像に気を取られたが、ふと我に帰り、勢いよく駆け出す。その背中をマラも少し焦った様子でついてきた。
家の前につき、僕の自室から物を運んでいるあろうトラックの運転手らしき人に声を荒げる。
「か、勝手に何をやってるんですか」
「...君が紙雅千明君、ですか」
一瞬、人を見定める目を向けれ、返ってきたのは真冬の鉄のような冷めきった冷徹な言葉だった。まるで感情を持たぬ機械、人間という生物に対して一切の感情を向けていない、向くことがないと言わんばかりの目つき。
その男は手に持っている家具を地面へと置き胸ポケットから四回ほど折りたたまれた紙を取り出す。
それを数秒眺めた後、また先程のような目線でこちらを伺う。その目線に内心冷や汗をかきながら彼の目を見つめ返した。正直、意味はないと思いながら。
そうして次に、本来ならば誰も気にしないはずの虚空を見つめる。一般人なら気にすること無い空間。そう、マラのことを見つめているのだ。
見つめるというよりかは検閲、確認のほうが正しい表現かもしれない。
ともかく2回ほどその行動を繰り返した男性は最後にまた僕の方を向いた。
「貴方には国の強制収容機関に入ってもらう」
そう言った男性はは素早く抵抗を許さぬ動きで体を拘束しトラックの助手席へと無理やり詰め込んだ。マラは動けないのか、そのまま僕の膝上に載せられる。
それと同時に鼻と口にハンカチを押し当てられ、そこからの意識が途切れた。




